「繊細さん」の本

第1章|繊細さんがラクになれる基本

繊細さんに必要なのは,痛みやストレスに耐えられるように自分を作り変えることではありません.平気なフリをすることでもありません.

繊細な感覚をコンパスに自分にとっていいもの・悪いものを見分け,自分に合う人間関係や職場環境に身をおく.

「私はこれが好き」「こうしたい」という自分の本音をどれだけ大切にできるかが勝負どころなのです.

  • 繊細さんには,ひとりでゆっくりと心を休める時間が必要.

感じる力が強いゆえに,未来のリスクや手戻りが発生しそうなことに気づく.気づいたからには対応する.他の人は,キャッチする情報が少ない分,繊細さんほどには気づかないため,はたからみて,「細かすぎる」「気にしすぎる」と完璧主義に見えてしまうのです.

このように,仕組みはとてもシンプルです.繊細さんが,まわりの人よりもささいなことに取り組む傾向にあるのは確かですが,それは完璧にこなそうと思っているわけではなく,ただ「気がついたから対応しているだけ」「リスクを防ごうとしているだけ」.完璧主義とは別物なのです.

  • 繊細さんは,「こうすると,ああなる」というシミュレーションが得意.
    • 「気づく」と「シミュレーション」の掛け算で,自然と「ベストな方法」がわかる.

繊細さんが元気に生きるには,自分の「こうしたい」という思いを大切にし,「こんなにわがままでいいのかな」と思うぐらい積極的に自分を優先していく必要があるのです.


繊細さんの悩みには共通点があります.

それは,相手の感情であれ仕事の改善点であれ,「気づいたことに半自動的に対応し,振り回されている」ということです.

逆に言えば,繊細さんが元気に生きるためには,この自動応答を切ることが必要です.気づいたことにわずかでも踏みとどまって「私はどうしたいんだっけ?」と自分に問いかけ,対応するかどうか,また対応するならばその方法を,自分で「選ぶ」ことが必要なのです.

まわりのニーズや世間の声にとらわれやすい繊細さんが元気に生きるためには,なによりもまず,「私はこうしたい」という自分の本音に耳を澄ませる必要があるのです.


第3章|人間関係をラクにする技術

繊細さんの感じる力は,人間関係において「相手の感情を察しやすい」「その場の雰囲気を感じる」といった形で現れます.相手の気持ちを考えて細やかに配慮する,深く共感しながら話を聞くなどいい面がある一方,感じるがゆえに気を遣いすぎる,自分の意見を言えなくなってしまうなど,悩みにもつながります.


自分が当たり前に持つ感覚が,相手には「ない」のではないか?繊細さんにはぜひこの疑問を持ってほしいのです.それだけで,他者の見え方が大きく変わってきます.

繊細さんと非・繊細さんの感覚の違いは,繊細さんの想像をはるかに超えています.「相手も自分と同じように感じているはず」と思って非・繊細さんに接すると,思わぬすれ違いが生じ,誰も悪くないのに傷ついてしまうことがあるのです.


人間関係の基本構造とは,「表に出している自分」に合う人が集まってくる,というシンプルな事実です.つまり,「本当の自分」を抑えて殻をかぶっていると,その「殻」に合う人が集まってきてしまうのです.

この基本構造を踏まえて,繊細さんはどうしたらいいのでしょうか.ズバリ,素の自分を出せば出すほど,自分に合う人が集まってラクになるのです.

これまで強く自分を押さえ込み,相手を優先してきた人が自分の意見を言い始めると,「人間関係の入れ替わり」が起こります.

自分の感情を顔に出したり,意見を言ったり,ときには友達の誘いを断ったりすることで「誘ったら断らないあなた」「なんでも頼み事を聞いてくれるあなた」が好きだった人が離れていく.「あなたの"殻"が好き」という,本当はあなたに合わない人たちが去るのです.

素の自分を出すにつれ,このように人間関係の入れ替わりが起こり,のびのびと自然体でいられる関係が増えていくのです.

  • 実は「キライ」は生きていく上で大切なセンサー.
    • 「キライ」というのは「この人は,自分に不利益をもたらす気がする.嫌な予感がする」ということでもあるのです.
    • コツは,問題が起きていなくても,最初から近づかないこと.
    • 「なんだか嫌だ」「なんだか変な感じがする」と思ったら距離を取る.
    • 正当な理由がなくても「キライだから,なるべく関わらない」でいい.

これまで自力でがんばってきた繊細さんの中には,ひとりでなんとかすることが当たり前になっていて,「頼る」「誰かに相談する」という選択肢がそもそも頭に浮かばなかった,という人も.まずは「人に頼る」という発想を持ってほしいのです.

棚からファイルをとる,話を聞いてもらう,といった軽めのことから,仕事のお願いまで,「これ,誰かにお願いできないかな?」と考えてみてください.

繊細さんにしてほしいのは,「ちょっとしたことを,軽く頼む」練習です.小さなことでも言葉にして頼り,助けてもらう経験を積むことで,「人に頼ってもいいんだ」という感覚がつかめてきます.

「ちょっとお願い☆」は,繊細さんの人生を支える言葉.小さなことから頼る練習をしていくうちに,大きな相談事もできるようになっていきますよ.


どれだけ物事を深く考えるか、どれだけ相手の気持ちを深く受け取れるか、といった「心の深さ」には、個人差があると私は考えています。

世の中には、物事を深く考えることがそもそも「ない」人、相手の話を深く受けとる感覚がそもそも「ない」人がいます。深さのあるなしは、優劣ではなく、背の高い低いと同じような性質だと考えてください。

繊細さんは、相対的に心が深い傾向にあります。


見たいときに見て、疲れたら閉じる。自分のペースを保ちやすく、さらに、一度会っただけではなかなか話せない心の深部まで発信できるという点で、SNSは繊細さんと相性のいいアイテムです。

共感しあえる人に見つけてもらうには、まわりに合わせた発信ではなく、自分が「いい!」と思ったもの、自分の心から出てくるものを発信してください。とにかく「自分が好きなもの」「思ったこと」「感じたこと」を、文章や絵、写真などで発信するのです。

毎日の中で何を思い、何を感じるかは、一人ひとり違います。好きなものや感じたことを綴るのは、すなわち自分そのものを表現すること。その表現を見てつながった人は、あなたの思いや感性に惹かれた人です。自分の好きなものや感じたことを発信することで、自分の価値観に合った共感しあえる相手が、あんたを見つけやすくなるのです。


5人に1人が繊細さんとはいえ、繊細さんは世の中全体で見ると少数派です。同じ感覚を持つ人が少ない分、どうしても、相手に深く理解された経験が少ない傾向にあります。

何か大変なことがあったら、「こんな自分はだめだ」と責めるのではなく、「つらいなぁ。よくがんばってきたな」と自分を慰め、いたわる。

自分の中に、自分の居場所をつくること。自分の味方でいること。それが、人とあたたかく関わるために一番必要なことなのです。


第4章|肩の力を抜いてのびのび働く技術

マルチタスクを乗り切るシンプル習慣

繊細さんはマルチタスクが苦手な傾向にあります。「一度にあれもこれもと仕事を頼まれるとパニックになりそうになる」と話す人も。

繊細さんは、さまざまなことを感じとり、深く考えながら仕事をします。一つひとつの仕事に集中して丁寧に仕上げるのが得意です。

仕事が押し寄せると「あれもこれも」と頭の中で考えが舞って目の前の仕事に集中できず、よけいに慌ててしまう。そんなとき「一つひとつやっていこう!」という合い言葉には、目の前の仕事とは関係ない考えを頭から追い払う効果があります。


そこで私がおすすめしているのは、重要なものをひとつだけ選ぶこと。すべてに優先順位をつけなくていいから、絶対に今日やらなければならない大切な仕事を、ひとつだけ選びます。そして、やる。

重要なものを選んで一つひとつやることで、仕事が確実に片付いていきます。もしこの方法でやっても終わらないのであれば、それは、自分ができる仕事量を超えているということ。

上司に相談してやらない仕事を決めてもらう、同僚に手伝ってもらうなど、他の人の力を借りる必要があります。ひとりで全部やろうとせずに、まわりの人に相談してみてくださいね。

最大の悩み──「いつも私だけ忙しい」から脱出するには

なぜ、繊細さんは忙しいのでしょうか?

繊細さんは非・繊細さんより多くの物事に気づくため、気づいたことに片端から対応していると、処理する量が単純に多くなり疲れ果ててしまうのです。

そのため、気づいたことに半自動的に対応するのではなく、対応すべきものと放っておくものを自分で選ぶ必要があります。

「気づかないあの人」の真似をしてみよう

あれもこれもと仕事に追われるときは、気づかない同僚を思い浮かべて、「あの人でもここまでやるだろうか」と考えてみてください。「やらないかも」「もうちょっと手を抜くかも」と思ったら、自分も手をゆるめてみる。気づかない同僚をモデルに、少しずつ自分の「やらなきゃ」の縛りをゆるめてみましょう。

率先して動くのをやめても、休憩しても、大丈夫。自分がすべてを背負わなくても、仕事は案外進んでいくのです。

「いいと思えること」を仕事にする

繊細さんは感じる力が強く、良心的。心の中の小さな違和感を「まぁいっか」と流したり、なぁなぁにしたりすることができません。

いいと思えるものを扱うと工夫して成果をあげる一方で、いいと思えないものに関わると消耗してしまう。そんな繊細さんがやりがいを持って働くには、自分が扱う商品やサービスを「いい」と思えるかどうかも大切なのです。

自分が思う「いいこと」ができる仕事に就くと、働くたびに「今日もいいことをしたなぁ。よかったなぁ」と心が満たされていきます。

「がんばっても自信を持てない」ときのチェックポイント

「同僚の得意に注目して、自分の得意に目が行かない」「今の仕事のメインが、実は苦手のカタマリ」となると、ずっと川を上り続けるような果てしないがんばりが続きます。

「苦手なこと」は「向いていない」ともいえます。向いていないことをがんばっても努力の割には成果が出ない。苦手に意識を向けることでかえって自信を削られ、不安と焦りでへとへとになってしまうのです。

仕事では、苦手の克服よりも得意を活かすほうが断然おすすめです。得意なことは、自分に合っていること。楽しいから自然と努力でき、自然な頑張りで結果を出せる。結果が出るからさらにやる気が出て、自分から工夫を重ねる。何度もやるうちに習熟し、もっと大きな成果につながる。

仕事で得意を活かし始めると、やる気と成果のトルネードが起こるのです。

「幸せに活躍できる仕事(適職)」の選び方

画一的な答えはないものの、600名を超える繊細さんたちから相談を受けて、繊細さんが充実感を感じながら幸せに働くための条件がわかってきました。それは次の3つです。

1.想い──やりたいこと、いいなと思えること

2.強み──得意なこと

3.環境──職場環境や労働条件

これらが満たされるところに、幸せに活躍できる仕事=適職があります。

全力で逃げるべきときがある

仕事は本来、自分を幸せにしてくれるもの。繊細さんが自然体で、肩の力を抜いて実力を発揮できる仕事が世の中にあります。自分に鞭打つようなストレスフルながんばりはあくまで「期間限定」にしてください。自分に鞭打つがんばりが長期間続いているのなら「何かおかしい」と疑問を持たねばなりません。「この働き方をこれからも続けていくんだろうか」と、立ち止まって考える時間が必要です。

心身を壊してまでやるべき仕事など、ないのです。

「この仕事/職場にい続けたらまずい」そう思ったら、同僚にどれだけ迷惑をかけようと、仕事の責任が残っていようと、すべて放り出して全力で逃げてください。

人生には逃げるべきときがあります。仕事よりも他人よりも、自分の心身を最優先にしてください。

まわりに相談することで、働きやすい環境を作る

仕事環境は上司に相談。「まわりに人がいないほうが集中できます」と伝えたところ、「集中したいときは空いている会議室を使っていいよ」と言ってもらえました。

困りごとを言葉で伝えることで、助けてくれる人が現れます。「こんなことで困っています」「こうしたいんですが、いいでしょうか?」と、まわりの人に打ち明けることから始めてくださいね。


第5章|繊細さんが自分を活かす技術

繊細さんに共通する「5つの力」

全力を出すには、自由に感じていい、安心できる場所にいることが大切です。

ストレスの強い仕事のあとなど感覚が鈍っているときには、のんびりお茶を飲んだり空を眺めたりと、心と体をゆるめる時間をとってみてください。心と体がのびのびすると、繊細な力を発揮しやすくなります。

自分の本音を大切にすると、どんどん元気になる

繊細さんが、自分のままで元気に生きる鍵。それは、自分の本音──「こうしたい」という思いを、何よりも大切にすることです。「お散歩したい」「ゆっくり眠りたい」といったプライベートでの望みから、「あの人、苦手だな」「今日は残業せずに帰りたいな」といった職場での望みまで。

自分の「こうしたい」という思いを感じとり、一つひとつ叶えようと行動することで、「私はこれが好き」「こうしたい」と、自分の軸が太くなっていきます。自分の軸が太くなるにつれ、相手の感情や意見に左右されにくくなり、人の中でもラクに過ごせるようになる。やりたいことができるようになる。

繊細さんは、自分の本音を大切にすることでたくましくなっていくのです。春の空気や美しい空、まわりの人のあたたか気持ちなど、細やかに感じとる繊細な感性を持ったまま、嫌なものや不快なものなど、自分に必要ないものをすーっと流せるようになります。

繊細な感性を信頼すると、嫌なことにそもそも遭遇しにくくなります。繊細な感性をコンパスに、自分にとっていいもの、悪いものを見分けることで、自分を雑に扱う人と距離をとり、自分に合わない職場を選ばないようになるからです。

自分の本音を知る3つの方法

自分の本音を知るにはどうしたらいいのでしょう?

繊細さんは、世間の声やまわりの人のニーズの影響を受けやすくなっています。そのため、どれが自分の本音でどれが世間の声なのか、注意深く見極める必要があるのです。

本音を知る方法1|言葉を手がかりに読み解く

まず一番簡単な見分け方は、「こうしたい」なのか「こうしなきゃ」なのかです。

「こうしたい」は、本音の可能性がありますが、「こうしなきゃ」は、世間の声。本当はそうしたくないということです。

本音を知る方法2|繊細な感覚を感じる

「こうしたい」と呟いたとき、あるいはそうすることを想像したとき、

「窮屈な感じがする」「暗い気持ちになる」「義務感がある」のならば、少なくとも「今は」やりたくないのです。

繊細さんによくあるのは、がんばりすぎて疲れ果てているケースです。

やりたいことが、「眠りたい」「休みたい」でもいいのです。ゆっくり眠りたい、休みたいなどの気持ちが出てきたら、どうか自分を休ませてあげてください。

やりたいことをやると、心身にエネルギーが溜まります。エネルギーが溜まれば、自然と何かしたくなります。本当にやりたいことへ、スムーズに向かえるようになるのです。