富士フイルムの『変える力』
- 作者:伊藤公介
- 発売日: 2017/06/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
まえがき
- 富士フイルムが写真フィルムの衰退の危機から立ち直ったのは,写真フィルムで培った技術を他の分野に応用して成功したから.
- 自分が持つ技術を改めて見直して,新しいヒット製品開発に結びつけた結果.
- 大企業においてこれほど大胆な構造改革ができるところはほかにない.
第1章|決断力・スピード・実行力で脱本業に成功!!
コダックと富士フイルムは基本的に同じ技術を持っているのだから,富士フイルムが生き残れるならコダックも生き残れるはずだった.
それができなかったのは,イノベーションを実現できたかできないかの問題だった.
- 市場が開いているのに売れないのは,販売網構築やブランドイメージ構築の自助努力が足りないのである.
- 大企業が破綻する時に共通する心理:
- 成功体験にこだわり続ける
- 富士フイルムにおいて化粧品事業の果たす役割は大きい:
- 化粧品事業の展開は企業イメージの維持向上という点からきわめて重要なポイント
第2章|富士フイルムを変えた徹底的な構造改革と成長戦略
- 売上の6割,利益の3分の2を叩き出している写真フィルム関連の事業が,簡単になくなるとは誰も思わない.
- そのため,デジタルの時代が到来しつつあることはわかっていても,全社的に危機感を抱き,構造改革に乗り出すことはできなかった.
- 成長戦略の最初の一歩は,これまで培ってきた技術を整理しなおすことだった.
- 苦境にあえぎながらも,売上げの6〜8%の研究開発費を捻出し続けることは,一般のメーカーでは考えられない.
- 研究開発型の代表である大手の製薬会社よりも,富士フイルムのほうが絶対額では大きい.
- どんなに苦しいときでも研究開発費の水準を落とさなかった.
- いかに新しい事業に巨額の研究開発費を投入しても,ゼロから始めるのでは時間も手間も資金もかかる.
- その手間を省いて,スタート地点を短縮するのがM&Aの効果.軌道に乗せるまでの"時間を買う"のである.
第3章|ヘルスケア事業で1挑円を狙うメディカルイノベーション戦略
- 写真フィルム市場がほぼ失われた富士フイルムは,次の成長エンジンとしてヘルスケア領域に狙いを絞っている.
富士フイルムの構想としては,次のコアビジネスとしてヘルスケア分野で1兆円.
富士ゼロックスのドキュメントビジネスで1兆円.
その他のビジネスで1兆円という事業構造にあると思われる.
第4章|他社が真似できない技術でシェアを獲得するオンリーワン戦略
- 富士フイルムの商品戦略で特徴的なのは,オンリーワン戦略.
- 先進独自の技術でオンリーワンの商品を打ち出して,圧倒的なシェアを取り込む.
- 写真フィルムで培ったコア技術が広がりを見せ,そうしたオンリーワン商品をいくつもそろえている.
第5章|オープンイノベーションで"爆発的な変化"を作り出せ!!
なぜ富士フイルムは絶好調の時代にデジタルを手掛けたのか.
1981年にX線画像診断システムを開発し,完全デジタル化を実現するなど,もともとデジタル技術を手掛けていたから,デジタルの将来性は予見していた.
だからこそ,「どうせデジタル化は否応なしに進む.他の企業にやられるくらいなら,いっそうちでやればいい」(富士フイルム関係者)という発想だった.
- 2年をかけてまとめられた,4つのマトリックス:
- 「既存の技術」で「既存市場」で新たに商品化できるもの
- 「新しい技術」を「既存市場」で使えるもの
- 「既存技術」で「新しい市場」に適用できるもの
- 「新しい技術」で「新しい市場」に使えるもの
2014年,創立80周年を機に新しいコーポレートスローガン「value from innovation」を制定した.
「イノベーション」は,改革とか革新,新しい技術の導入などという意味だが,組織の末端までイノベーション意識を行き届かせ,社員個々の発想や改善を重ねていく,いわば下からの意識改革を図っていこうとしたものだ.