ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式
- 作者: 山口周
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2019/07/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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はじめに
「20世紀的優秀さ」の終焉
本書のメッセージをまとめれば,次のようになります.
20世紀の後半から21世紀の初頭にかけて高く評価されてきた,従順で,論理的で,勤勉で,責任感の強い,いわゆる「優秀な人材」は,今後「オールドタイプ」として急速に価値を失っていくことになるでしょう.
一方,このようなオールドタイプに対置される,自由で,直感的で,わがままで,好奇心の強い人材=「ニュータイプ」が,今後は大きな価値を生み出し,評価され,本質的な意味での「豊かな人生」を送ることになるでしょう.
「正解を出す力」に,もはや価値はない
- 「価値創出」の源泉が,「問題を解決し,モノを作り出す能力」から「問題を発見し,意味を創出する能力」へとシフトしている.
- 「優秀さ」は文脈依存的な概念.つまり,世の中の要請に対して相対的に希少な能力や資質は「優秀さ」として高く評価され,逆に過剰な資質や能力は「凡庸さ」として叩き売られる.
ニュータイプは問題を「発見」できる人
- 私たちは人類史の中で初めて「問題が希少で解決策が過剰」という時代に突入しつつある.このような時代にあっては,ただ単に「問題解決の能力が高い」というだけでは価値を生み出せない.
ビジネスは常に「問題の発見」と「問題の解決」が組み合わされることで成立します.
しかし,現在は「問題」そのものが希少になっているわけですから,ボトルネックは問題の「解決能力」ではなく「発見能力」に発生することになり,結果として問題解決者の価値が低減する一方で,問題発見者の価値が上昇することになります.
第1章 人材をアップデートする6つのトレンド
- 私たちは,すでに必要とされている,ありとあらゆるモノを手に入れることができる時代に生きている.これはつまり,今日の日本ではすでに「問題が希少化」している.
- 私たちは「モノが過剰で,意味が希少な時代」を生きています.「モノ」がその過剰さゆえに価値を減殺させる一方で,「意味」がその希少さゆえに価値を持つというのが21世紀という時代.
- このような時代にあって,「役に立つモノ」を生産し続けようとするオールドタイプは価値を失うことになる一方で,希少な「意味」を世界に対して与えるニュータイプは大きな価値を生み出していくことになる.
- 「社会のVUCA化」(Volatile(不安定),Uncertain(不確実),Complex(複雑),Ambiguous(曖昧))
- 過去に蓄積した経験に依存し続けようとする人は早急に人材価値を減損させる一方で,新しい環境から柔軟に学び続ける人が価値を生み出すことになる.
- とりあえず試し,結果を見ながら微修正を繰り返していくという,いわば「計画的な行き当たりばったり」によって,変化する環境に対して柔軟に対応していくことが求められる.
- ある瞬間において環境への「最適化の度合い」はどうでもよくなり,むしろ変化していく環境に対して,どれだけしなやかに適合できるかという「柔軟性の度合い」の方が重要になってくる.
以上より導かれる結論は明白です.
つまり,多くの人は,人生の途上において複数回のキャリアチェンジを余儀なくされる,ということです.
私たちは一般に「この道一筋」とか「一所懸命」といったことを無批判に礼賛する強い傾向がありますが,変化の早い世界においてそのような価値観に頑なに囚われるオールドタイプは,リスクに対して非常に脆弱なキャリアを歩むことになります.
一方で,何が本業なのかはっきりしないままに複数の仕事に関わり,節目ごとに仕事のポートフォリオを大きく組み替えていくようなキャリアを志向するニュータイプこそ,リスクをむしろチャンスに変えていくような,柔軟でしたたかなキャリアを歩んでいくことになるでしょう.
第2章 ニュータイプの価値創造──問題解決から課題設定へ
1 問題を解くより「発見」して提案する
- 今後のビジネスではボトルネックとなる「問題」をいかにして発見し提起するのかがカギになる.そして,この「問題を見出し,他社に提起する人」こそがニュータイプとして高く評価されることになる.
- 問題解決の世界では,「問題」を「望ましい状態と現在の状況が一致していない状況」と定義する.
- つまり「ありたい姿」を明確に描くことができない主体には,問題を定義することができない.
「問題の不足」という状況は,そもそも私たち自身が「世界はこうあるべきではないか」あるいは「人間はこうあるべきではないか」ということを考える構想力の衰えが招いている,ということなのです.
つまり「問題が足りない」というのは「ビジョンが不足している」というのと同じことなのです.
- ニュータイプはまず「あるべき姿」を構想し,その「あるべき姿」と「現場」とのギャップから「問題」を発見していくことで,人々が取り組むべき「問題」を明確にする.
- 日本企業は,今後,自ら「あるべき姿」を構想する必要がある.
2 革新的な解決策より優れた「課題」
常に「こういう問題が解決できたら素晴らしい」「こういうことが可能になったら痛快だ」という具体的な「解決したい問題」が明確にあり,それを解決するための手段がたまたま画期的なものであったために,周囲から「イノベーション」と賞賛されているだけで,元から「イノベーションそのもの」を目指していたわけではないのです.
- イノベーションというのは「結果として形成される認識」であって,初めからそこを目指して頑張るようなものではない.
- 用いられているテクノロジーがいくら先端的なものであっても,それがなんらかの社会的課題の解決につながらないのであれば,そのイノベーションが大きな価値を生み出すことはない,ということをセグウェイはわかりやすく示している.
- ニュータイプはあくまで「課題の設定とその解決」にこだわる.
3 未来は予測せずに「構想」する
- 昨今のビジネス現場においては「予測=未来はどうなるか」という論点が議論されるばかりで,より重要な「構想=未来をどうしたいか」という論点はないがしろにされがち.
- 本当に考えなければいけないのは,「未来がどうなるのか?」という問題ではなく「未来をどうしたいのか?」という問題であるべき.
第3章 ニュータイプの競争戦略──「役に立つ」から「意味がある」へ
4 能力は「意味」によって大きく変わる
- 人のモチベーションの量は「意味」によって大きく変わる.
- 他者からモチベーションを引き出すには「意味」が重要であり,「意味」の与え方によって人の働き方には雲泥の差が生じてしまうということになれば,この「意味」を引き出すニュータイプの能力こそが組織の競争力を左右することになる.
- このような世界において才能ある人材を集め,彼らの潜在能力を全開させるためには「意味」が重要.
- 21世紀に入って大きな存在感を示している企業の多くが,「何のために存在する会社なのか」という「問い」に対して明確な「意味」を与えている.
5 「作りたいもの」が貫通力を持つ
- これまで「なぜ売れないのか」という問いについては考え抜いていたはずなのに「そもそも自分は何が欲しいのか,何が作りたいのか」ということは考えたことすらなかった.
- 「人の心を動かすような切っ先の尖った提案」がなければ,情報が広い範囲にわたって共有されることはない.
オールドタイプが相変わらず,市場の多数派におもねるようにして製品やサービスを考案するのに対して,
ニュータイプはフォーカスをまず優先し,グローバル市場への貫通力を高めることによってスケールを得るという戦略をとる.
6 市場で「意味のポジション」をとる
- グローバル化が進むほど「役に立つ」市場の頂点は「高く,狭く」なり,ごくごく少数の「グローバル勝ち組企業」以外は生き残ることができない「真っ赤っかのレッドオーシャン」になる.
- 一方で,なんらかの「意味」にフォーカスを絞ることで独自のポジションを獲得するニュータイプは,「グローバル×ニッチ」という「爽やかなブルーオーシャン」を自らの居場所にすることになる.
日本企業の多くは相変わらず「役に立つ」市場でコストを下げ,利便性を高めることで競争に勝つという戦略を追求しているようですが,グローバル化が進めば,この市場では世界のトップ数社しか生き残れない,という点についてはよくよく考えておく必要があります.
- 2019年現在,グーグルの検索エンジンにおける市場シェアは36カ国で90%を超えている.これは「役に立つけど,意味がない」という市場において,国境をまたいだグローバル競争が起きると最終的にどのような状況になるかを端的に示す例と言える.
- 現在の市場においては「役に立つ」よりも「意味がある」ことに経済的価値が認められている.
モノが飽和し,モノの価値が中長期的な低落傾向にある時代だからこそ,これからは「役に立つモノ」を生み出せる組織や個人にではなく,「意味」や「ストーリー」を生み出すことができるニュータイプに,高い報酬が支払われる時代がやってきている.
- イノベーションの文脈で大きな論点になる「デザイン」と「テクノロジー」はコピーに弱いが,その製品やブランドが持っている固有の「意味」はコピーできない.
- なぜなら「意味」の形成には膨大な情報量が必要であり,膨大な情報量を市場に蓄積するためには非常に長い時間がかかるから.
- 「意味」を競争力の中核に据えることができた企業は,コピーに対して極めて堅牢な事業を創り出すことができる.
7 共感できる「WHAT」と「WHY」を語る
- ビジネスにおいて私たちが向き合う大きな論点には「WHAT=目的は何か?」「WHY=それはなぜ大事か?」「HOW=どうやってやるのか?」の3つがある.
- 「バケツの水を他のバケツに移動し,終わったらまた元のバケツに戻す」といった「まったく意味を感じることのできない仕事」こそが「最も過酷な強制労働」であり,これを何日もやらされた人間は発狂してしまう,と書き残されている.
- こういった指摘は,私たち人間にとって本当に重要なのは,労働の「量」よりも,実は「質」の方なのだという示唆を与えてくれる.
- ビジョンに求められる最も重要な要件,それは「共感できる」ということ.
第4章 ニュータイプの思考法──論理+直感の最適ミックスへ
8 「直感」が意思決定の質を上げる
- 筆者の問題意識をシンプルに記述すれば,「企業の意思決定があまりにも論理偏重に傾くとパフォーマンスは低下する」ということになる.
- 現在の世界において「希少なもの」を生み出そうとするのであれば,「直感と感性」を駆動せざるを得ない.
9 「偶然性」を戦略的に取り入れる
- 「中長期の生産性向上」と「短期の生産性向上」がトレードオフの関係になっている.
- 厳しい「規律」=「常に新しい商品が生み出され続けること」を実現するために,戦略的に「遊び」=「研究者はその労働時間の15%を自由に使って構わない」を盛り込んでいる.
- コントロールする領域に意図的に遊びを設けて,偶然が入り込む余地を設けている.
- 「何の役に立つのかよくわからないけど,なんかある気がする」という直感.
- 世界を変えるような巨大なイノベーションの多くは「何となく,これはすごい気がする」という直感に導かれて実現している.
10 ルールより自分の倫理観に従う
- これからの時代は,自分の中にある「真・善・美」の基準に照らして,自分たちの行動を律していかなければ大きなカタストロフィを回避することはできない.
11 複数のモノサシを同時にバランスさせる
- コストだけが増加しているのに価値は増加していない,というよりむしろ,機能があまりにも増えたことで使い勝手が悪くなり,かえって効用は低減している.
- 現在の日本では,「モノ」から「意味」へと価値の源泉がシフトしている.
第5章 ニュータイプのワークスタイル──ローモビリティからハイモビリティへ
13 自分の価値が高まるレイヤーで努力する
- 「練習が技量に与える影響の大きさはスキルの分野によって異なり,スキル習得のために必要な時間は決まっていない」
- ある職場で人一倍努力しているのになかなか成果が出ないというとき,もしかしたらそれは努力不足なのではなく,そもそも「場所が悪い」,つまりその仕事が求める資質と本人の資質がフィットしていない可能性がある.
- 挫折して逃げる.ただし逃げるときにタダでは逃げない.そこから盗めるものはできるだけ盗んで,次のフィールドで活かす.そのようにしてフィールドを越境しているからこそ,知識や経験の多様性が増加し,それがやがてユニークな知的成果の創出につながる.
14 内発的動機とフィットする「場」に身を置く
- 「上司からの命令で動くエリート」と「内発的動機に駆動されるアマチュア」という構図は,インターネット黎明期の頃から,たびたび見られた戦いの構図であり,多くの場合は前者が後者に完敗するという結果になっている.
- 「高い業績を継続的に挙げてきたエース」が,必ずしも内発的動機に駆動されているとは限らない.
- リソース面で優位にあった大企業が敗れた最大の要因はモチベーション.
- パフォーマンスを高めるためには「モチベーションのマネジメント」が必要になる.
15 専門家と門外漢の意見を区別せずフラットに扱う
- 門外漢の集団からなるクラウドは膨大な人数からなっているため,最新の知識を持つ人がどこかしらにいることになる.
- 過去の偉大な発見・発明の多くが「門外漢」によってなされている.
- 専門家に過度に依存することは課題設定あるいは問題解決の能力を著しく毀損してしまうという危険性が示唆される.
- 専門家だけで凝り固まったコアに問題解決を依存しようとするよりも,素人を含めた門外漢の意見を専門家のそれと分け隔てなく受け入れる方が,高い問題解決能力を持つことになる.
第6章 ニュータイプのキャリア戦略──予定調和から偶有性へ
16 大量に試して,うまくいったものを残す
- 何が「良い」かは試さないとわからない
- 我々のキャリアは用意周到に計画できるものではなく,予期できない偶発的な出来事によって決定される.
- アマゾンは実は「試行と撤退」の達人
- 「とにかく試してみる」というアプローチは今後ますます強力かつ迅速になる.
- ニュータイプは「とりあえず試してみて,結果をみて修正する」というダイナミックなアプローチを取る.
- 「撤退の巧拙」にこそ,新規事業創出の巧拙の差を生み出す真因があるのではないか.
- ズルズルと従前の取り組みを続けたまま,無為に時間を過ごしてしまう人が多い.理由はシンプルで,そのような人は,「始められない」のではなくて「やめられない」.
17 人生の豊かさは「逃げる」ことの巧拙に左右される
- 「勝ち目がないとわかったときには損失を最小化するために迅速に撤退する」のは戦略的に極めて正しい.
- 「たよりになるのは,事態の変化をとらえるセンス,偶然に対する勘,それだけだ」
- これだけ不安定な世の中になり,事業の短命化が明らかになっている状況では,「逃げる」ことの巧拙は人生の豊かさを左右するとても大きな要因になりつつある.
第7章 ニュータイプの学習力──ストック型学習からフロー型学習へ
19 常識を相対化して良質な「問い」を生む
- 「構想力」を高めるためには,「リベラルアーツ」が必要になる.
- 「役に立つ」の軸に沿って目盛りを高めるのはサイエンスの仕事であり,「意味がある」の軸に沿って目盛りを高めるのがアートの仕事.
- 組織の上層部になればなるほど,仕事の重心は「問題の設定」へと傾斜し,組織の下部になればなるほど,その比重は「問題の解消」へと傾斜することになる.
- 私たちが当たり前の前提として置いている常識の数々は,実は常識でもなんでもない,「今,ここ」でしか通用しない局所的・局時的な習慣に過ぎない.
- 目の前の世界において常識として通用して誰もが疑問を感じることなく信じ切っている前提や枠組みを,一度引いた立場で相対化してみる,つまり「問う・疑う」ための技術がリベラルアーツの真髄.
- スティーブ・ジョブズは,カリグラフィーの美しさを知っていたからこそ「なぜ,コンピューターフォントはこんなにも醜いのか?」という問いを持つことができた.
- 「常識への違和感」が,誰も気づいていない新しい問題の提起へとつながる.