僕は君たちに武器を配りたい

はじめに

ブラック企業の多くは,根性と体力さえあれば誰にでもできるような仕事を社員に課す.

そのため,数年働いたところでより高いキャリアにつながるような人脈やビジネススキルを身につけることができない.

だから使い捨てられた若手社員は,次の仕事を探そうとしても自分の「売り」となる実績やスキルがないため,また人を使い捨てるブラック企業に就職することとなる.......

  • 本書は,「投資家的な生き方」のすすめである.
    • 一攫千金を狙うのではなく,自分の時間と労力,そして才能を,何につぎ込めば,そのリターンとしてマネタイズ=回収できるのかを真剣に考えよ,ということ.
    • 重要なのは,まず資本主義の本質を理解すること.


第1章|勉強できてもコモディティ

  • 世界中の先進国で,高学歴・高スキルの人材が,ニートワーキングプアになってしまう潮流が押し寄せている.
    • これまで大学が伝統的に提供してきた,「知識をたくさん頭脳につめこんで専門家になれば,良い会社に入れて良い生活を送ることが可能となり,それで一生が安泰に過ごせる」というストーリーが,世界規模で急激に崩れ去っている.
    • 勉強(努力)と収入は比例しない.残念ながら,それが今の日本の現実.
  • 現代の勉強ブームの「仕掛け人」たちは,「これからの知識社会では,学び続けなければ生き残れない」と世の中の人々を煽った.
    • 彼らが「これから必須の知識」として,その重要性をことあるごとに吹聴したのが,「英語」と「IT」と「会計」の知識である.
    • これは一種の「不安解消マーケティング」と呼ばれる手法である.何が正しいか分からないからこそ「これさえあれば」が受けるのである.
  • コモディティ」という概念:
    • コモディティ(commodity)とは英語で石鹸やブラシなどの「日用品」を指すときによく使われる言葉.
    • 経済学や投資の世界では,市場に出回っている商品が,個性を失ってしまい,消費者にとってみればどのメーカーのどの商品を買っても大差がない状態.それを「コモディティ化」と呼ぶ.

コモディティとは前述したように,「スペックが明確に数字や言葉で定義できるもの」という意味である.個々の商品の性能自体が高いか低いか,品質が優れているかどうかは,関係がない.

人間の採用においても同じことだ.学歴が博士課程の人を募集するのであれば「博士」というスペックで,もしくは六大学以上の学歴でTOEICが900点以上というスペックで募集をかける.そうすると,そこに集まった人は「みな同じ」価値しかない.そこで付加価値が生まれることはないのだ.

こうして,いかに人を買い叩くか,という競争がグローバル市場の中で行われ,ホワイトカラーの労働力そのものがコモディティ化してしまった.

  • 資格やTOEICの点数で自分を差別化しようとする限り,コモディティ化した人材になることは避けられず,最終的には「安いことが売り」の人材になるしかない.

これからの日本では,単なる労働力として働く限り,コモディティ化することは避けられない.

それでは,どうすればそのようなコモディティ化の潮流から,逃れることができるのだろうか.それには縷々述べてきたように,人より勉強するとか,スキルや資格を身につけるといった努力は意味をなさない.

答えは,「スペシャリティ(speciality)」になることだ.

スペシャリティとは,専門性,特殊性,特色などを意味する英単語だが,要するに「ほかの人には代えられない,唯一の人物(とその仕事)」「ほかの物では代替することができない,唯一の物」のことである.概念としてコモディティの正反対といえる.

スペシャリティになるためには必要なのは,これまでの枠組みの中で努力するのではなく,まず最初に資本主義の仕組みをよく理解して,どんな要素がコモディティスペシャリティを分けるのか,それを熟知することだ.


第2章|「本物の資本主義」が日本にやってきた

  • 資本主義を支える根本的な原理は「より良いものが,より多く欲しい」「同じものなら,安いもののほうがいい」という,人間の普遍的な欲望に基づいている.
    • 資本主義の社会では,市場に集まったそれぞれの人が,自由にお金とモノをやりとりすることで,自然にうまくいくという考え方をとる.

どういう人ならば,資本主義の社会でお金を増やすことができるのか.

簡単にいえば,「より少ないコストで,みんなが欲しがるものを作った人」である.

その逆に,みんなが欲しがらないものを作ったり,必要以上のコストをかけて作る行為は,社会的に無駄な行為となり,自然と淘汰されていく.

これが,資本主義の基本的な構造である.

  • 戦後長らく日本が担っていた「世界の製造業」の地位は,とっくの昔に中国に移り変わっている.
    • だから,これまでの日本の得意技であった『ものづくり』にこだわる意味はまったくない.
    • 『ものづくり』にこだわる限り,ますます日本は世界の市場性を失っていくことが明白.
  • 今後は,個人レベルでビジネスモデルを変える,または新たなビジネスモデルを作り出す,ということに挑戦しなければ,多くのビジネスマンが生き残ることができなくなっていく.


第3章|学校では教えてくれない資本主義の現在

  • 業種・業界を問わず,商品がコモディティになってしまった業界は,商品を安く仕入れて,安く売るしかない.
  • 企業を見極めるポイントは「お客さんを大切にしているか」
    • 顧客を大事にする会社は,従業員も大切にする.
    • 逆にいえば,顧客を大切にしない会社は,従業員も大切にしない会社.
    • 会社のビジネスモデル自体がお客さんを小馬鹿にしている,あるいは馬鹿なお客さんをターゲットとしている会社には,長期的には未来がない.


第4章|日本人で生き残る4つのタイプと,生き残れない2つのタイプ

  • 資本主義社会の中で安い値段でこき使われず(コモディティにならず)に,主体的に稼ぐ人間になるためには,次の6タイプのいずれかの人種になるのがもっとも近道となる:
    1. 商品を遠くに運んで売ることができる(トレーダー)
    2. 自分の専門性を高めて,高いスキルによって仕事をする人(エキスパート)
    3. 商品に付加価値をつけて,市場に合わせて売ることができる人(マーケター)
    4. まったく新しい仕組みをイノベーションできる人(イノベーター)
    5. 自分が起業家となり,みんなをマネージ(管理)してリーダーとして行動する人(リーダー)
    6. 投資家として市場に参加している人(インベスター=投資家)
  • しかしそのうち「トレーダー」と「エキスパート」は価値を失いつつある.


第5章|企業の浮沈みのカギを握る「マーケター」という働き方

  • これから生き残れるビジネスパーソンのタイプは「マーケター」「イノベーター」「リーダー」「投資家」の4種類の人間.
    • 望ましいのは,一人のビジネスパーソンが状況に応じて,この4つの顔を使い分けること.
  • マーケター:「顧客の需要を満たすことができる人」
    • 人々の新しいライフスタイルや,新たに生まれてきた文化的な潮流を見つけられる人.自分自身で何か画期的なアイディアを持っている必要はない.
    • 重要なのは,世の中で新たに始まりつつある,かすかな動きを感じ取る感度の良さと,なぜそういう動きが生じてきたのかを正確に推理できる,分析力.
    • さらに,売るモノは同じでも,「ストーリー」や「ブランド」といった一見捉えどころのない,ふわふわした付加価値や違いを作れること.
    • 「差異」=「ストーリー」を生み出し,あるいは発見して,もっとも適切な市場を選んで商品を売る戦略を考えられる人間.
  • 企業が衰退を避けるには,イノベーションを繰り返して,商品の差異を作り続けなければいけない.
    • 全産業の「コモディティ化」が進む世の中で,唯一の富を生み出す時代のキーワードは,「差異」である.
    • 「差異」とは,デザインやブランドや会社や商品が持つ「ストーリー」と言いかえてもいい.
    • わずかな「差異」がとてつもない違いを生む時代となった.

アップルの苦境を救ったのもスペックや機能ではなく,「色」や「デザイン」だったのである.

  • ある分野ではコモディティ化して価値を失ってしまった技術でも,まったく別の分野に応用することで新しい価値を生み出す可能性がある.
  • 個人の働き方においても,マーケティング的視点で工夫をすることが「稼げる人」と「稼げない人」を分けるポイントとなる.
    • 現在では,個人の働き方においても自分の「ビジネスモデル」を環境の変化に合わせて変えていくことが求められる.そのときに必要なのが「マーケター」の考え方.
    • マーケターにとって非常に重要な能力は,自分の商品やサービスの「信者」を作り出すこと.
      • 「信者ビジネス」にも問題点がある.ブームを持続させようと新製品を無理して出し続けるうちに,ますます「教祖に依存して,自分の頭では物事を考えない人」を狙わざるを得なくなってくる.
  • 個人を相手に金融商品を売る会社にとって,いちばんありがたい顧客となるのは,「自分の頭で物事を考えない」人々.そしていつの時代もそうした人々はたくさんいる.
    • つまり,個人を相手に商売するときは,「人数がたくさんいて,なおかつ情報弱者のターゲット層」のほうが効率が良い.

弁護士においても,その資格を手にすること自体には,ほとんど意味がないことがお分かりただけただろうか.

資格や専門知識よりも,むしろ自分で仕事を作る,市場を作る,成功報酬ベースの仕事をする,たくさんの部下を自分で管理する,というところにこそ,「付加価値」が生まれるのである.

それに対して単に弁護士資格を持っているだけの人は,まったく価値のない「野良弁」になってしまう.稼げない「野良弁」と,すごく成功している弁護士を分けるのは,弁護士資格ではなく,そうした新しいビジネスを作り出せる能力があるかどうかなのだ.


第6章|イノベーター=起業家を目指せ

  • 自分が働いている業界について,どんな構造でビジネスが動いており,金とモノの流れがどうなっていて,キーパーソンが誰で,何が効率化を妨げているのか,徹底的に研究するのである.
    • そうして自分が働く業界について表も裏も知り尽くすことが,自分の唯一性を高め,スペシャリティへの道を開いていく.
    • そして常日頃から意識して,業界のあらゆる動向に気を配ることで,「イノベーション(物事の革新)」を生み出すきっかけと出会うことができる.
  • 歴史に名を残すイノベーターも,必ず最初はどこかの業界に続して働き,そこで知識と経験,スキルを蓄えた.
  • 既存のものを,今までとは違う組み合わせ方で提示すること.それがイノベーションの本質.
    • 今すでにあるものの組み合わせを変える,見方を変える,そうすることによってイノベーションを起こすことができる.
    • DSやWiiも「枯れた技術の水平思考」と呼ばれる考え方で,すでに使い古された技術の組み合わせで作られた商品.


第8章|投資家として生きる本当の意味

  • 「投資」は,畑に種を蒔いて芽が出て,やがては収穫をもたらしてくれるように,ゼロからプラスを生み出す行為である.
  • 資本主義社会では,究極的にはすべての人間は,投資家になるか,投資家に雇われるか,どちらかの道を選ばざるを得ない.
    • 株を所有するしないにかかわらず,私たちの社会は株主(資本家)なしには存続できない.
    • 自分自身が勤める職場も株式会社であるならば,その時点で自分という労働力を株主に提供することで,その見返りに報酬を得ているということになる.
  • 投資家として生きるのならば,人生のあらゆる局面において,「ローリスク・ローリターン」の選択肢を選んで安全策をとるより,「ハイリスク・ハイリターン」の投資機会をなるべくたくさん持つことが重要となる.
  • サラリーマンとは,ジャンボジェットの乗客のように,リスクをとっていないのではなく,実はほかの人にリスクを預けっぱなしで管理されている存在なのである.
  • 投資は,長期的な視点で富を生み出し続けるか,人が信頼できるか,の2点で判断する.
  • 投資家的に生きるために必要なのは,「真実」に気づく「ニュースの裏を読む力」である.

基本的に新聞には,誰かが「アナウンスしてほしい情報」だけが載っている.

新聞やテレビで公開された情報は,誰か声の大きな人間が,世間を自らの望む方向に誘導するために流している情報だと考えるべきなのだ.

真に価値のある情報というのは,みんなが知った瞬間に,その価値がなくなってしまう.つまり,本当に儲け話につながる話は,いっさい新聞には載っていないのである.

  • 人間の行動(アウトプット)は,インプットの結果である.だから行動を変えようと思うならば,インプットを変えなければならない.

「投資」とは,お金を投資することだと一般的に思われているが,本質的な「投資」とは,自分の労働力や時間,人間関係を投資することでもあるのだ.

先行きが見えにくい時代だからこそ,ある時点でのひとつの投資活動が,その後の自分の未来を大きく変えるのである.


第9章|ゲリラ戦のはじまり

  • 「今ある技術を組み合わせることで,世界を変えるイノベーションを生み出すことがいくらでもできる」
  • 売りになるスキルや知識のない人が英語を勉強してもそれほどの価値は産まないが,技術者や起業家のような「売る物」がある人は,英語ができないと非常に損をする.
    • 自分のスキルと英語によるコミュニケーションを組み合わせることで自分の価値を何倍にも高めることができる.
  • 社会に出てから本当に意味を持つのは,インターネットにも紙の本にも書いていない,自らが動いて夢中になりながら手に入れた知識だけ.
    • 自分の力でやったことだけが,本物の自分の武器になる.
  • 公開されている情報からでも,普通の人がやらない「一手間」をかけることで,大きな果実を手に入れられる.


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