ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」
- 作者:荒木 香織
- 発売日: 2016/02/19
- メディア: 新書
はじめに|メンタルコーチという仕事
メンタルは鍛えることができるのです.
その意味で,メンタルはスキルなのです.
第一章|最高のパフォーマンスを発揮するためのメンタルスキル
- 「プレ・パフォーマンス・ルーティンとゲン担ぎはまったく違います」
- ゲン担ぎは迷信.
- 対してプレ・パフォーマンス・ルーティンは,そのパフォーマンスを行う際に生じるであろうさまざまな雑念を取り払い,ルーティンを正確に行うことだけに集中するためのもの.
- 「ルーティンを持っている選手のほうが,持っていない選手に較べると,成功体験が多い」
- プレ・パフォーマンス・ルーティンでもっとも大切なことは,「目的を明確にする」こと.
- もっとも重要なのは,理想とする動作を確立し,それを完璧に遂行できたかどうかということ.
ラグビー選手が恐怖心を残したまま試合に臨んでは勝てません.
こうした恐怖心を取り除くためにはどうすればいいのでしょうか?
もっとも重要なのは,自分でコントロールできることと,できないことを明確にすることです.
「相手が大きい」「スピードが速い」これは自分にはどうしようもありません.
相手を小さくすることも,遅くすることもできないのです.
ならば,自分がコントロールできることをやるしかありません.
- 平常心で臨んでも,決していい結果は出ない.むしろ,適度に興奮し,不安もある程度抱えている状態のほうがいいパフォーマンスができると言われている.
- 不安があればより集中しようとするし,準備も入念に行わざるをえないから.
緊張したり不安に感じたら,"それであたりまえだ,それを感じられるのはいいことなんだ"と思ってください.
「緊張したらダメだ」「落ち着かなければいけない」と思ったら,かえって逆効果.
緊張感が襲ってきたからといってパニックにならず,そうなったときは,いいパフォーマンスができる兆候だと思うようにしてください.
- 切り替えるために,仕事が終わったらシャワーを浴びてから練習に出ることを勧めたら,うまくいく人が多かった.
第二章|自分に自信をつけるためのメンタルスキル
- 人は,何のためにそこにいるのか,何のためにそれをやるのかということがわからないと,みずから積極的にコミットしようとは思わない.
- 誰かに言われてやるのではなく,主体性をもって取り組むことで,モチベーションは高まり,維持できる.
- 自分で具体的な課題をみつけ,考え,向上しようとする姿勢をつねに忘れない.
- 人は成功することで喜びを感じ,それが自信となってさらなる目標に向かうための意欲を促し,より高みを目指して前進できる.
- けれども,その成功体験をいつまでも引きずってしまうのはよいことではない.
- なぜなら,それは「過去のもの」であるから.つまり,基準が過去.
彼らはほんとうにラグビーが好きで,試合に出られる・出られないに関係なく,日々最大限の努力を惜しまない.
素直に人の話を聞き,なんでも吸収しようとする.だからこそ,代表に残ることができたのです.
成功体験を,自分の中でどこかに自信として持っておくのはいい.
「あれができたのだから,絶対がんばれる!」
そうやってエネルギーにするのはすごくいいことだと思います.
ですが,そこにすがりついてしまうと,
「あんなにできたのに...」「こんなはずじゃない...」
と考えてしまう.そうなると,自分が苦しくなって,自信やモチベーションを失ってしまう.
成功体験は甘美であるがゆえに,ときには毒にもなるのです.
日本では「つねに謙虚に生きなさい」とよく言われますが,それはこういう意味だと私は思っています.
- 自分が何のためにここにいるのか,何をしているのかわからない状態にしない.
- 自分に楽しみや刺激がある.あるいは自分が学んでいる,前に進んでいると感じられる.
- そうなると,人は自主的に目標に向かって取り組むことができる.
- きちんと役割と責任を与えて,それを評価する.
- これは,控え選手や裏方的な存在に甘んじている人のモチベーションを維持するのに,非常に大切なこと.
- 試合には出ないけれどもチームのサポートに徹する選手は,外国のチームにはいないよう.
- ほめることが大切ないちばんの理由は,言葉で「よかったよ」と言われることで,「ほめられたときのことを記憶する」ということ.
- 記憶することで,自分のいいところを確認できる.
- そうやってうまくいったときの感覚,身体の感覚や心の感覚を覚えておくと,次も連続して成功させる自信につながる.
- なので,いいところは「いい」と,しっかり認めてほめてあげることが,自信をつけ,モチベーションを上げるには非常に大切.
- 自信のある・なしは,表情や姿勢,仕草や話し方などの態度におのずと表れる.
- 自身がある人は姿勢がよく,堂々としていて,歩くときも前を向いている.
第三章|目標を達成するためのメンタルスキル
- 自分なりに目標を設定することで,実際に何をしないといけないかが明確になる.
- 「過程に関する目標を持って練習に臨んでいたかどうかが大きな分かれ目となる」ことが明らかとなった.
- 「過程に関する目標」は意欲を持ち続けることや集中することにつながる.
いまの自分にはちょっと高いかもしれないけれど,その実現に向けて前向きに取り組む.
その結果,達成したことが自信となり,そこからはじめて次のステップに進むことができるということが研究で明らかになっているのです.
非現実的なものではなく,自分がきちんと行動に移すことができること.それが目標設定には大切なのです.
- 人は成功を体験し,達成感を得ることで,「次はもっとがんばろう」という意欲が湧いてくる.
- そのためには,あえて絶対にクリアできる目標を設定し,それを連続してクリアしていくことも必要.
- 「いついつまでに達成する」と明確にしておくこと.これがないと,目標とは言えない.
- いちばん大切なのは,言うまでもなく,掲げた目標を達成すること.ときには引き算も必要.
- 要は,「どこにたどり着きたいのか」.それがいちばん大切なのであって,そのためのプロセスはひとつではない.
第四章|困ったときのメンタルスキル
- 「チョーキング」:
- 極度のプレッシャーや不安に対処しきれなくて,パフォーマンスが劇的に悪くなること.
- チョーキングは起こるものだと想定して,日ごろから準備をしておくことが必要:
- プレッシャーを受け入れる
- 「期待されているということは,自分に可能性があるからなんだ」と考えることができれば,それはエネルギーになる.
- プレッシャーのなかで意思決定をする経験を積む
- トレーニングのなかで試合を想定してパフォーマンスをする.
- 考えうる状況を設定して,そのなかでつねに冷静にふるまえるよう,訓練をする.
- 不安のレベルを下げる方法を身につける
- 「呼吸法」が挙げられる.
- 大切なのは,「落ち着くために深呼吸するのだ」と意識してすること.
- プレッシャーを受け入れる
- 南アフリカレベルのチームや選手であっても,想定外のことが次から次へと起こると,修正するのは難しい.
- 想定外のことが起きたときに大切になるのが,そうなったらどうするか,あらかじめ対処法を準備しておくこと.
- そのためには,自分がいつ,どのような場合に緊張するのか,どんなときに腹が立つのか,頭の中が真っ白になってしまうのか,それを知っておくことが必要.
イライラしていいことがあるでしょうか.
他人のパフォーマンスに腹を立てても,自分自身にとっては決してプラスにはなりません.
むしろ,自分のパフォーマンスを低下させてしまうでしょう.自分がミスをする可能性も高まってしまいます.
他人のミスは,自分でコントロールできることではありません.自分が納得できないことをほかの選手がしてしまったとしても,自分ではどうしようもないのです.
ならば,そんなことに無駄なエネルギーは使わないほうがいい.そんな時間があるなら,自分ができること,しなければいけないことに集中したほうがいい.
- 思考停止はなんらかのツールがないと難しいので,イライラしたら「これを触る」とか「これを見る」,あるいは「何かを叩く」というふうに,自分なりのツールをあらかじめ決めておくのがお勧め.
- ただし,その動作や行為は,「考えるのをやめる」という目的のためだけに使う.
- 何をすればリラックスできるか,自分で理解しておくこと.
- なんとなくそれをするのではなく,意識的にリラックスするためにすることが重要.
- 不安の原因をひとつひとつ抽出し,書き出すなどして整理し,それぞれ対処法を探していく.
ストレスとは,簡単に言えば「自分ができると思っていること」と「やらなければいけないこと」の差によって生じます.
たとえば,「ここに二時間座っていなさい」と言われたら,たいがいの人はできるはず.これが一〇時間になるとどうか.
「いやだなあ」と感じるでしょう.それがストレスです.
「ストレスがたまって...」
そういう話をよく耳にします.でも,理論的にはストレスは「たまる」ものではありません.
いくつかのストレスが並行して生じている状態.おそらくそれを「たまる」と表現しているのだと思います.
たとえば,仕事がうまく進まない,夫婦間にトラブルがある,お金に困っている...それらが合算されて,ごちゃまぜになっているから,どうしていいかわからなくなるのです.
- もっともよいのは,ストレスを「挑戦」と受け止められること.
- 挑戦と受けと止めることにより,注意・集中力が高まり,やる気も高まるとされており,勇気も出ると言われている.
スポーツと違って,一般的な仕事や日常生活においては,たとえミスをしてもたいがいは瞬時に切り替えなくてもいい.時間があります.
であれば,なぜミスが起こったのか,失敗したのかを考え,次はそうならないように準備をすればいい.
どうすればいいのかわからないのなら,周りの人に聞けばいいし,教えてもらえばいい.
人に聞くというのも,ひとつの能力であり,スキルなのです.
- 先輩でも同僚でも友人でもいいから,「自分よりちょっとできるな」という人をみつけ,観察してみるのも,自信をつけるにはいい方法.
第五章|受け止め方を変えるメンタルスキル
- プレッシャーが重圧になるか,それともエネルギーになるか.それはあなた自身がどう受け止めるかにかかっている.
- ミスや失敗も,やはり受け止め方で変わってくる.
- 「経験」と思うことができれば,次の成功へのステップにすることができる.
- 「失敗」と考えれば,後悔するか,そのままスルーしてしまうけれど,「経験」ととらえれば,うまくいかなかった原因を探り,対策を考えるはず.
うまくいかなかったときは,「失敗した」ではなく,「いい経験をした」と言うようにしたいものです.