「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!

序章|不確かな世の中を安定させる大数の法則

大数の法則」とは,ひと言でいうと「ひとつひとつは予想が難しい物事も,それらがたくさん寄せ集まると,全体としての振る舞いは安定する」というものだ.

  • 1つの保険会社がたくさんの契約者を持つことで,大数の法則が働く.
    • ひとりひとりを見れば,その人がいつ亡くなるかは本人にすら分からないが,何万人もの被保険者の集団を考えれば,1年間にどのくらいの割合で「死亡」というイベントが発生するかを正確に予測できる.
  • 民主主義がなぜ機能するかを数学的に考えたとき,大数の法則が土台となっていることが分かる.
    • 「皆がばらばらに行動するからこそ,全体としての結果が安定する」という数学的法則が現代社会に活かされている.


第1章|大数の法則の活躍ぶりを見てみよう!

ある出来事が起きる確率を理論的に計算し,実際の経験と比較したとする.

経験数が少ないうちは理論上の確率は当てにならないが,

その出来事の経験数が増えれば増えるほど.経験上の確率は理論上の確率に近づいていく.」

  • 経験上の確率が理論上の確率に収束していくことを,数学の用語で「確率収束」という.
  • 大数の法則は,確率論と呼ばれる数学の分野で最も重要な定理の1つとされている.
    • なぜ重要かというと,起きるかどうかわからないことについて理論的に考えようとするときに,大数の法則が指針を与えてくれるから.
    • 理論上の確率はあくまで机上の話にすぎないので,実際にやってみると,その確率の通りに物事が起きていくわけではないことが分かる.
    • つまり,「理論上の確率」と「実際の経験」を結びつける何かが必要ということになる.それこそが,大数の法則である.
    • いわば,大数の法則は「イデア界(理論上の確率)」と「現実世界(経験上の確率)」の橋渡しというわけ.
  • 大数の法則が働くためには,ひとつひとつのサイコロが「互いに独立(無関係)」でなければならない.
  • 同一性が崩れてしまう(外れ値がある)と,大数の法則が成り立たなくなってしまう.

大数の法則のフレーズ:「経験数が少ないうちは,理論上の確率は当てにならない」

  • ビギナーズラックという言葉も,小数の法則で説明することができる.
    • 大数の法則によれば,実力の違いは何度もゲームをやらなければ実際の成績に反映されてこない.
      • 実際は,たった数回ならば実力不相応に勝つことがあっても不思議ではない.
    • けれども人々は,ほんの数回のゲームの結果も実力のとおりになると考えてしまう.
  • 中心極限定理」によると,経験上の確率と理論上の確率のズレの大きさは,大まかに言って経験数の平方根に反比例する.
    • つまり,経験数が4倍になればズレは半分になる,経験数が9倍になればズレは1/3になるということ.
    • このことから,大数の法則を働かせるためには,経験数をなるべく多くすることがいかに大切かがわかる.


第2章|世の中では大数の法則がこんなに働いている

  • 最近注目されているのが,複数のアルゴリズムを同時に動かして,多数決で結果を出させるやり方.
    • このやり方は,複数のアルゴリズムを1つのまとまり(アンサンブル)として使うので,アンサンブル学習と呼ばれる.
    • それぞれのアルゴリズムを単独で使った場合よりも,アンサンブル学習の方が結果が良くなる例が多く確認されている.
  • GDPとは,ある期間(1年,四半期など)に国内の経済活動で生み出された付加価値の総和のこと.
    • 付加価値とは,モノの値段から,それを作るのにかかった費用を引いた金額のこと.
  • 人口と経済の安定性は密接に関係している.
    • ひとりひとり,またはそれぞれの企業が労働によって生み出す付加価値は,色々な理由で大きくブレる.
    • つまり,それぞれの経済主体が生み出す付加価値は,サイコロの目と同じように確率的に変動する.
    • けれども,無数の経済主体が集まった"日本経済"という全体で考えると,大数の法則によってGDPが安定してくる.
    • 多くの企業があって,それぞれの判断や行動が独立しているということは,そこに大数の法則が働くということ.


第3章|大数の法則を社会に活かす条件とは?

  • 大数の法則が社会に活かされている様々な場面において満たされている共通の条件:
    1. 多くの参加者がいること
      • 現代人は豊かで,お互いを信用している.
    2. それぞれの参加者が独立して判断・行動していること(独立性)
      • 人々の自由が保証されていることで,「独立性」が担保される.
    3. 特権階級が出てこないようなルールがあること(同一性)
      • 現代人は,法の下で皆平等である.
    4. 大数の法則を活用するための仕組みが整っていること
      • 現代人は,テクノロジーの恩恵を受けられる.
  • 人々の集団が良い結果を出すためには,多様性が重要な役割を果たす.
    • 多様性は集団の問題解決能力を高める上で重要.
    • 集団としての予測の誤差 = 個人の平均的な誤差 - 多様性の大きさ
      • ここで最も重要なのは,「個人の平均的な誤差」と「多様性の大きさ」が,同じ重みで影響を及ぼすという点.
      • 言い換えれば,多様性は個々人の能力と同じくらい重要だということになる.

ほかの人と異なるツールボックス(問題の捉え方,解決のためのアプローチ,結果を予測する方法など)を持っていれば自分の希少価値が高まり,長期的に見ればキャリア形成に有利に働くことは確かだ.

例えば,同僚に英語ができる人が少ないからといって,自分もできなくてよいというわけではない.

多様性の観点から考えれば,むしろ逆だといえる.

つまり,同僚に英語ができる人が少ないということは,自分が英語を学ぶことで社内での価値を向上させることができるわけだ.


第4章|「大数力」アップでワンランク上の自分を目指そう

大数の法則が教えてくれるのは,「小さなことをこつこつ積み重ねる人が成功する」ということだ.

大数の法則によれば,実際の結果が理論に近づいていくまでには何度もチャレンジする必要があるので,相応の時間がかかるのであった.

つまり,ワンランク上の自分を目指そうとして何かを始めても,それが期待通り(理論通り)の成果を生むまでには時間がかかるので,気長に待たなければならない.

また,"大数"というだけあって,頭で考えるよりも,とにかく実践することが大切だ.

大数の法則は,経験数を積み上げる中で,即ち,たくさん実践していく中で働いてくるものだからである.

  • 「いいアイデアを得る最良の方法はたくさんのアイデアを持つことだ」
    • 思いついたことを次々と実行に移すことで,2つのノーベル賞を受賞した.
    • ショットガン的に様々なアイデアを実践したからこそ,ノーベル賞級の成果が生まれた.

少なくとも経済的な成功という側面で見る限りは,生まれ持った頭の良さよりも性格のほうが重要だということが示されたわけだ.

より具体的には,誠実さや,何事にも興味を持って積極的に取り組む姿勢が重要ということ.

周囲の人に誠実に接していたり,いろいろなことに積極的に取り組んだりと言った日々の少しずつの行動の違いが,人生の成功につながっていくのである.

  • 大数の法則を生活に活かすためのキーワードは「こつこつ堅実に」ということ.
    • 期待通り(理論通り)の結果が出るためには,長い時間をかけて地道に積み上げていく必要がある.
    • 大切なのは,うまくいかないときに小数の法則に囚われて途中で諦めてしまわないこと.
    • また,「周りと違っていても気にしない」ということも重要である.
      • 自分は何者か,どういう意見を持っているのかを,会議で,SNSで,ブログで,本で発信していく.
      • そうやって,日々を1%ずつ変えていく「大数ライフ」が,あなたをワンランク上へ連れて行ってくれる.