不格好経営|チームDeNAの挑戦

第1章|立ち上げ

わが社最大のトラウマ

わが社最大のトラウマであり、その後の社風や戦略に大きな影響を与えた出来事なので、やはり書き残しておきたい。

開発が完了したはずのその日に、実際はコードが1行も書かれていないことが発覚したのだった。

麻呂顔の天使

本件で、自分でシステムをつくれない会社は他社のシステム開発を管理できないということを痛感した私は、エンジニア力の強化に取り組んだ。

しかしDeNAの技術力が飛躍的に高まったきっかけは、偶然このトラブルの直前に訪れている。

ビッダーズの誕生

同じ目標に向かって全力を尽くし、達成したときのこの喜びと高揚感DeNAの経営の中枢に据えよう。

互いに切磋琢磨し、ときに激しく競争しても、チームのゴールを達成したときの喜びが全員に共有され、その力強い高揚感でシンプルにドライブされていく組織をつくろう。

第2章|生い立ち

「最後」のプロジェクト

コンサルティングと会社経営は違いすぎて、ここで学んだスキルが直接、のちのキャリアにおおいに役立ったとはいえないが、それでも、ひとつの職業で曲がりなりにも通用する人材になれたことが一定の自信となり、その後の進路で頑張り抜く力を与えてくれた気がする。

あのときあのまま辞めていたら、もしかしたらどこへ行っても「ここでもダメなんじゃないか」とすぐに諦めてしまい、次から次へと転職を繰り返すジョブホッパーになっていたかもしれない。本当に、紙一重なんだなぁと思う。

第3章|金策

ヤフオクの背中

わが社は声の大きいユーザーに左右されないように、サービス改良の指針としてリピート率や離脱率などの数字を最も重視することを徹底しているが、インターネットサービスの黎明期、ノウハウが確立していないこの時代に、ユーザーと徹底的に対話することでサービス業の本質を手探りでつかんでいったことは、その後のDeNAの姿勢の基礎となった気がする。

第4章|モバイルシフト

異質なモバオク

同じ人物でも、モバイルユーザーのときとPCユーザーのときでは利用のパターンがまったく異なる別のユーザー人格となるというこの事実は、単にインターネットサービスの一端末としてモバイルを位置づけるのではなく、特化したサービスを展開することの重要性を我々にすり込み、同時に新しい巨大市場の可能性を示唆したのだった。

モバゲーの誕生

感謝すると同時に考えはじめた。守安を増やしたい。守安はあと何人生み出せるだろうか、と。あるいは、川崎、畑村だ。

そういう人材がどんどん生まれ、あるいは引き寄せられ、そして埋もれずにステージに乗っかって輝いていく組織にしたい。そうすれば、会社が成長するだけでなく、本質的な強さを手に入れることになる。これをどうやって成し遂げようか。

四苦八苦していた社長業が、だんだん楽しくなってきた。

川田のメッセージ

私はDeNAという会社がとても好きだ。その一番の理由であるDeNA内部の清々しさ、気持ちのよさは、川田の人格と仕事へのスタンスがべったり組織に乗り移ったものだと思っている。

誰よりも働く、人を責めない、人格を認める、スター社員に嬉々とする、トラブルにも嬉々とする。そして、俺は聞いていない、バイパスするな、などという言葉も概念もいっさいない。とにかく一歩でも、ちょっとでも前に進むことしか考えない。

その川田の姿勢が、成功やアイデアの帰属よりもチームの成功を優先し、「誰」でなく「何」を重視するDeNAの文化をしっかりと築いた。

DeNA クオリティー

人材は多様なほうが強い組織ができると信じている。クリエイティブな人、オペレーションが得意な人、数字に強い人、商売センスのある人、風が読める人、人に心を開かせることができる人、強い人、優しい人、いろいろな特技が必要だし、性格もバラバラなほうがチームは強いし面白い。

そんなバラバラな個性のなかで共通して持っていてほしいことはこの5点だけ、と定め、DeNAクオリティーの全員達成に向けて動き出した。

  • DeNA Quality
    • DeNAでは、チームとして最大限のパフォーマンスを発揮するために、全社員に必要な共通の姿勢や意識として「DeNA Quality」を掲げている。
  • デライト(Delight)
    • 顧客のことを第一に考え、感謝の気持を持って顧客の期待を超える努力をする。
  • 球の表面積(Surface of Sphere
    • 常に最後の砦として高いプロフェッショナル意識を持ち、DeNAを代表する気概と責任感を持って仕事をする。
  • 全力コミット(Be the best I can be)
    • 2ランクアップの目線で、組織と個人の成長のために全力を尽くす
  • 透明性(Transparency & Honesty)
    • チームワークとコミュニケーションを大切にし、仲間への責任を果たす
  • 発言責任(Speak Up)
    • 階層にこだわらず、のびのびしっかりと自分の考えを示す

第5章|ソーシャルゲーム

公取立ち入り検査

会社はよいときもあれば苦しいときもある。自身がどのような状況であれ、他社に偽りのない尊敬と感謝の気持ちを持ち続け、その気持ちに基づいて行動する会社こそが真の一流企業だ。

第6章|退任

闘病プロジェクト発足

事業の最先端で活躍するわかりやすいスターもいれば、いわゆる裏方で地味にDeNAを支える人もいる。そういったすべての人のおかげでDeNAが発展し、皆のいろいろな夢が叶えられていく。

普段業務中に、トントンと肩を叩いて、ねえねえ、ありがとう、とはなかなか言えないから、このように感謝の気持ちを表現できる機会をいただけて、本当によかった。

第7章|人と組織

社長の時間の使い方

創業期から一貫して多大な時間とエネルギーを費やしてきたのが採用活動である。DeNAの競争力の源泉は、とよく訊かれるが、答えは間違いなく「人材の質」だ。

人材の質を最高レベルに保つためには、①最高の人材を採用し、②その人材が育ち、実力をつけ、③実力のある人材が埋もれずにステージに乗って輝き、④だから辞めない、という要素を満たすことが必要だ。

コンサルタントと事業リーダーとの違い

コンサルタントとして、A案にするべきです、と言うのには慣れているのに、Aにします、となると突然とんでもない勇気が必要になる。

コンサルタントの「するべき」も判断だ。しかし、プレッシャーのなかでの経営者の意思決定は別次元だった。「するべきです」と「します」がこんなに違うとは。

人が育つ組織

会社は学校でも親でもないので、人材育成が究極の目的ではないが、人材の成長を重視していない会社はない。組織の成長は人材の成長によってもたらされるからだ。また、人材が成長する会社には、優秀な人が集まってくる。

なぜ育つか、というと、これまた単純な話で恐縮だが、任せる、という一言に尽きる。人は、人によって育てられるのではなく、仕事で育つ。しかも成功体験でジャンプする。それも簡単な成功ではなく、失敗を重ね、のたうちまわって七転八倒したあげくの成功なら大きなジャンプとなる。

だからDeNAでは、その人物が精一杯頑張ってできるかできないか、ギリギリの仕事を思い切って任せることにしている。

優秀な人の共通点

自分が接したすごい人たちを思い浮かべてみると、なんとなく「素直だけど頑固」「頑固だけど素直」ということは共通しているように感じる。

労を惜しまずにコトにあたる、他人の助言には、オープンに耳を傾ける、しかし人におもねらずに、自分の仕事に対するオーナーシップと思考の独立性を自然に持ち合わせている、ということではないかと思う。

社長についていきます?

管理職かメンバーのひとりかというのは、上下関係ではなく役割の違いだ。人をまとめる仕事と、ひとりのエキスパートとして腕を振るう仕事に上下があるとは思えない。

会社での立場が人間の上下関係ではないことは確かで、そこをはき違えると下品なリーダーとなってしまう。従属ではなく、独立した人間として尊敬し合うチームであってほしい。

女性として働くこと

得るものと与えるものは、その瞬間でバランスがとれている必要はない。時間をかけてバランスさせようと努めればよい。

かけた迷惑の分だけ、感情のヒダも豊かになる。できるときに仕事を頑張ったり、ほかの人を助けたりしていけばよいと思う。