参謀の思考法
はじめに
- 「単なる優秀な部下」にとどまるか,「参謀」として認識されるかによって,評価のされ方に大きな差が生まれる.
- 組織運営などの問題で判断に迷ったり,困難に直面したりしたときに,意見を聞きたくなる,頼りにしたくなる人材を,心の中で「参謀」と位置づけていた.
- 平たく言えば,その人物の「見識」を高く評価していたということ.
- 「参謀」と評価していた人々は,「モノの考え方」「仕事に向かう姿勢」「人との向き合い方」など,根本的な部分で同じようなスタンスに立っていた.
現場に近い「立ち位置」にいて,現場と深いコミュニケーションができ,現場の“どうしようもない現実”を知り抜いている.
しかも,自社の「あるべき未来」を追求するバックキャスティング思考の重要性も深く認識している.
この二つの視点を備えた「参謀」がもたらす情報や提案は,現場から遊離した意思決定者が,「正しい戦略」をつくるために欠かすことができないものなのです.
第1章|上司は「機関」と考える
01|従順であることは「美徳」ではない。
- 社長になったからと言って,突然,完全な人間になれるわけではない.
- 相変わらず不完全なまま,社長としての職責を果たすためには,自分の能力の限界を補ってくれる「参謀」の助けが必要.
- ただ単に「指示・命令」に従順であることと,「指示・命令」の意図や背景までを理解したうえで行動することの間には,天地ほどの差がある.
- 前者は受動的に動いているだけであるが,後者は自分の頭で考えようとする主体性があるから.
- そして「参謀」になりうるのは,どんなことでも自分の頭で考えようとする人物.
02|リーダーの「先」を行くのが参謀である。
- リーダーの進む方向を見極めて,リーダーが最速で進めるように,「先回り」して準備できなければならない.
- 社長(リーダー)の最重要任務は「意思決定」
- つまり,社長を最大限にサポートするためには,参謀が,意思決定に必要な材料をすべて揃えて提示する必要があるということ.
- リーダーの後ろをくっついていく単なるフォロワーでは,参謀役を務めることはできない.
03|上司を「人」ではなく、「機関」と考える。
- 与えられた環境のなかで,結果を出していくほかないのが組織人の定め.
- 言い換えると,相性のいい上司に恵まれることは,ほとんどないということ.
- 会社というものは,もともと感情的な結びつきをベースに集まった集団ではないため,「相性」の問題を持ち出すこと自体がふさわしくない.
- それよりも,目的達成に集中すべき.
- 上司は,事業目的を達成するための組織された会社のひとつの「機関」なのだと捉える.
- 「好き」「嫌い」など関係なく,その「機関」を最大限に機能するようにサポートするのが自分の役割だと認識できる.
第2章|すべては「合目的的」に考える
05|上司とは異なる「自律性」堅持する。
- あくまで,上司が実現しようとしている目的を深く理解し,それに忠実に行動するのが参謀のあるべき姿.
- 上司の個性に合わせた「さじ加減」ができなければ,「情報が足りない」と判断され,結果として,上司が即断即決するのを阻害することになってしまう.
- 上司という「機関」を機能させるためには,上司の“作法”に合わせるのが合理的.
- 上司の不完全性を補うのが参謀の最重要任務だとすれば,参謀は,上司とは独立した思考力・判断力をもつ「自律した存在」でなければならないのは自明のこと.
06|「自己顕示」は非知性的な言動である。
- 組織人事はさまざまな力学のなかで決まるため,綺麗に能力順に並ぶなどということはありえない.
- だから,能力の高い人物ほど,上司に不満を抱くのは必然とさえ言える.
- 「手柄」を上司にあげるのは,効率のよい「投資」である.
- 自己アピールをせずに,上司を黙々と「機能」させ,職場を「機能」させている人物に対して,「あいつは,なかなかの人物だ」と評価を高めてくれる.
- 仕事ができるうえに,周囲から人間として一目置かれる人物は,職場における影響力が強いために,組織を動かすうえで非常に有益.
07|「トラブル」は順調に起きる
- 「自分は価値のある存在である」という自尊心を傷つけられた人は,必ず相手に「敵意」を抱く.
- 相手の「自尊心」を傷つけるようなことを,参謀は絶対に行ってはならない.
現場が信頼してくれるようになると,徐々に,「実は,“ちょっと”まずいことがあってね...」「“ちょっと”相談に乗ってくれないか?困ってることがあるんだ」といった相談を受けることが増えていきました.
この「ちょっと」という声をかけられることが,参謀の試金石になります.
これこそが,参謀たる者の重要な資質であり,「2級の参謀」と「1級の参謀」を分ける尺度にもなるのです.
- 現場から自然と「悪い報告・相談」が集まり,未然に大きなトラブルを防止することができれば,現場からも,社長からも信頼を勝ち取ることができる.
- その結果,参謀としての仕事がより一層やりやすくなる好循環が始まる.
08|上司を守ろうとして貶める「愚者」になるな。
- 上司にとって「好敵手」として認められることこそが,参謀として「気に入られる」ということ.
第3章|「理論」より「現実」に学ぶ
09|本で学んだ「知識」は危険である。
- 「知識」を学ぶ最良の教師は,本ではなく人である.
- そのテーマについて熟知している人に頭を下げて,教えてもらうことに勝る勉強方法はない.
- 読書は,人に教えてもらう前の予習だと思ったほうがいい.本を読んでもわからないことを,人に直接教えてもらうことで知識が深まる.
- 本で読んだことを真に受けるのではなく,人に教えてもらったことや自分の実体験と付き合わせてみる.そのプロセスでこそ,地に足のついた「知識」が蓄積されていく.
- ありがたいことに,会社は「教師」の宝庫.
- 営業部門,技術部門,製造部門,開発部門,財務部門,管理・総務部門など,すぐ近くに,それぞれの領域で現実に仕事を動かしている専門家集団がいる.
- 「知識」を身につけたければ,彼らのもとを訪れて,教えを請えばいい.
- 教えを請われて嫌な気がする人はいない.人に頼られるのは嬉しいことであるため,「教えてほしい」と言ってくる人には,誰だって好感をもつ.
10|「理論家」に優れた参謀はいない。
- 現実は常に個別性を持っているため,一般化した理論からはみ出す部分が必ずある.
- 100%理論どおりに現実が動くなどということはありえない.
- 現実をしっかりと観察して,「原因」さえ正確につかめば,あっけないほど簡単に「答え」は出るもの.
- すべての「答え」は,「現場」に落ちている.
- 「現場」で起きていることを丁寧に観察して,「現場」のメンバーの声に耳を傾ければ,必ず「解決策」「改善策」は見えてくる.
- 「現場」と真摯に向き合うことが,正しくモノを考える出発点であり,その姿勢を徹底する人こそ,頼れる参謀に成長していく.
11|議論で「勝つ」という思考を捨てる。
- 相手を論破するようなかたちで,意思決定者の意向を受け入れさせることに,本質的な意味はない.
- 「論理」という力で,相手をねじ伏せることに意味はない.
- 参謀にとっての「勝利」とは,上司の意思を相手に心の底から納得してもらうこと.
- そして,上司の意思を実現するために,現場が主体性をもって,自律的に実行するようになることにほかならない.
13|参謀は「1円」も稼いでいない。
- 会社を動かし,利益を出しているのは現場.
- 「1円」たりとも稼いでいない本社は,現場に食べさせてもらっている.
- だから,本社が現場のお手伝いをさせていただくというのが正しい認識.
14|コンサルタントはあくまで「使う」ものである。
- 社内にいる人材は,会社の現状を客観的に見ることが難しい.
- 現場から離れている,または,現場・現実感覚がない経営層の目には,ときに,理路整然としたコンサルタントの戦略提案が非常に魅力的に映る.
- 企業体力をつけるとは,自社の普通の能力の人間たちが,自分たちの頭で考え,自分たちが試行錯誤する──すなわち「自分たちの力」で──「持続的に成長する」組織をつくり上げることにほかならない.
第4章|「原理原則」を思考の軸とする
15|トップと「ビジョン」を共有する。
- 「自己利益」を度外視してモノを考えられるかどうかが決定的に重要.
- 参謀に求められる根本的な資質は「調整力」ではなく,「会社のあるべき姿」を描くビジョンを形成する力であり,そのビジョンを実現するための「創造力」.
- 社長として判断に迷ったときに,相談したいと思う相手は,端的に言うと「話の合う」人物.
- 「話の合う」というのは,自分が思考の根底においている「ビジョン」を共有しているか否か,この一点に尽きる.
- 「ビジョン」を共有していれば,「問題意識」のレベルも一致しているため,いきなり議論の核心に触れることができる.
- しかも,「ビジョン」をもっている人物は,自分や自分が所属する部門の「個別的利益」を超えて,会社が「あるべき姿」に近づくために,創造的な思考を働かせる.
16|仲間と力を合わせる「楽しさ」」を知る。
- 若いころから,直属の上司のみならず,社内の上層部との接点を増やし,会食などの場も含めて,彼らが語る「ビジョン」に触れる機会をつくることは,非常に重要なことと言える.
トップと同じレベルの「ビジョン」を描けるように研鑽するのはもちろん重要なことですが,
それ以上に大切なのは,眼の前の仕事において,自分なりの「理想」や「ビジョン」を思い描いて,周囲の人たちを巻き込みながら,それを実現する経験を積み重ねることです.
もちろん,一社員が実現できる「理想」「ビジョン」の規模は小さいかもしれませんが,それを実現する経験こそが大切だと思うのです.
- 単に,与えられた仕事をこなすだけでは面白くない.
- 会社に貢献するという前提のもと,自分が「面白い」と思うことをやってみるのが正解.
そもそも,この世の中には,「完成された仕事」というものはありません.
どんなに完成されたように見える業務システムが構築されている職場であっても,必ず,改善できること,新しくできることはあります.
実際,皆さんも,「こんなふうになったらいいな」「もっとこんなふうにすればいいのに」と思ったことがあるはずです.
その思いこそが,「理想」「ビジョン」なのです.
与えられた仕事をこなすだけでは面白くない.自らが思い描いた「理想」や「ビジョン」を実現しようとチャレンジするからこそ,仕事は面白くなるのです.
17|参謀は常に「自分の言葉」で語る。
- 参謀は,社長の「意思」を深く理解したうえで,「自分の言葉」で社内外を説得できなければならない.
- 重要なのは,社長の「意思」を,「自分の言葉」で語れること.
- 考えうる限りの「観点」から,ほんとうに腹の底から納得できるまで,社長の真意,決定の背景を確認する.
- 徹頭徹尾,「自分の言葉」で語ろうとする人物でなければ,決して本物の参謀にはなれない.
18|「原理原則」を思考の軸とする。
自分の頭で考える──.
これが,参謀の基本です.
意思決定者であるリーダーの指示を,そのまま受け入れるのではなく,自分の頭で,その意図や真意,背景などを吟味し,必要であればしっかりとリーダーと議論をして,十分に腹落ちできるまで考え抜く.
そして,もしも,リーダーの指示に疑義があるならば,それを率直に指摘する.
この思考プロセスがなければ,参謀としての役割を果たすことはできません.
- 強度の重圧がかかったときに,”ほんの少し”だけ「原理原則」を逸脱してしまう.
- その”弱さ”によって,思考が狂っていってしまう.
19|「制約」こそが思考の源である。
- 「解決すべき問題」が明らかになれば,頭は勝手に「答え」を探し始める.
- 「問題をきちんと述べられれば,半分は解決したようなものだ」
- 問題を明確に設定することさえできれば,なんらかの解決策は必ず見えてくる.
第5章|人間関係を「達観」する
21|結局、自然体で「仕事」を楽しむ人が強い。
- 参謀と認識されることは,人事的に抜擢されることと深い相関関係があるのは間違いのないこと.
- 参謀は,上司に対して率直な指摘をすることによって,上司が「裸の王様」になるのを防ぐ機能を果たさなければならない.
絵を描くというのは,「完成形=ビジョン」思い描いて,それを具現化すること.
そして,それまでになかった「作品」をつくり上げることに,えも言われない喜びが存在します.
私は,それと同じ喜びを,会社のなかで「新しい価値」をつくりだすことに見出したわけです.
しかも,絵を描くときは自分ひとりで完結できますが,会社で「作品」をつくり上げるには,周囲の人々と力を合わせる必要があります.
おわりに
- メンバー一人ひとりが主体性を発揮することによって,その能力を最大限に「機能」できるようにすることこそが,リーダーの仕事.