「超」入門 失敗の本質
「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ
- 作者: 鈴木博毅
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2012/04/06
- メディア: 単行本
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序章 日本は「最大の失敗」から本当に学んだのか?
- 「想定外の変化」に対応する組織だけが生き残る.
- 大東亜戦争時の日本軍は,初期の快進撃から一転,守勢に立った後は「これまでの戦闘方法が通用しない」状態に大混乱し,突破口を見つけることが出来ずに敗戦を迎えた.
- 日本製品が世界を席巻した1980年までの成長神話の崩壊から,新しい時代への展開を必死で模索する現代日本は,日本軍と同じ弱点を露呈しているかのよう.
- 敗戦の真の要因は,日本的な思考法や日本人特有の組織論,リーダーシップにあると考えられる.
- 順調なときには強く全面展開しつつも,環境の転換期には一転して閉塞感に陥り,突破口を見出だせない姿は,日本の企業活動全般にも顕著な傾向である.
第1章 なぜ「戦略」が曖昧なのか?
01 戦略の失敗は戦術で補えない
- 「戦略」が明確であれば目標達成を加速させる効果を生み,逆に曖昧ならば混乱と敗北を生み出す.
- 大局的な戦略とは「目標達成につながる勝利」と「つながらない勝利」を選別し,「目標達成につながる勝利」を選ぶことだといえる.
02 「指標」こそが勝敗を決める
- 戦略とは「追いかける指標」のことであり,戦略決定とは「追いかける指標を決める」こと.
- 有効な指標を見抜く指標の設定力こそが最大のポイントとなる.
- 指標を正しく決めることが,「目標達成につながる勝利」を決める.
- 戦術とは戦略を実行する各種の行動.
- インテルは追いかける指標を「活用しやすさ」にした.一方で,日本企業は「処理速度」を追いかけていた.
- 勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略である.
03 「体験的学習」では勝った理由はわからない
- 日本の組織が採用しがちなのは,戦略の定義という意味での論理が先にあるのではなく,体験的学習による察知で「成功する戦略(新指標)を発見している」構造である.
- なぜ成功しているかの理由を正しく理解できなければ,その後勝利が劣化していくことを食い止める対策が生まれてこない.
04 同じ指標ばかり追うといずれ敗北する
- 古い商品を買っていたお客様が,新しい商品に乗り換えただけで売上総額は増えないため,売上を拡大するためには,「乗り換える」ことのない,別の業界のお客様に新しくアプローチする必要がある.
- 日本軍は,個々の戦闘結果と戦略を,分離して把握することができなかった.
- 体験的学習が追いつかない形で戦略(有効な指標)が切り替わっていく今,戦略の意味が理解できずに日本企業は閉塞感ばかりを感じているのではないか.
- マイクロソフトは,次の二つの指標を発見し,使いこなしたことが最大の成功要因.
- ソフトの互換性
- ネットワーク効果
- マイクロソフトのソフトであるワードやエクセルなどは,多くのユーザーを獲得することで標準のソフトとなり,自動的に新しいユーザーを取り込むことができるようになった.
- 言語と同じように,ソフトの世界でも,より多くの人とやり取りできるものを人は買うようになる.
- 現代ビジネスにおける競争には「同じ戦略で戦う」ことで勝てる戦場は,ほとんどないといっていい.
- アメリカをはじめとする海外企業は同じ指標で戦うのではなく,新しい指標を見つけて乗り込んでくる.対する日本は戦略の定義を理解せず,あくまで経験則で立ち向かっているのだから,このままでは勝てないのも当然.
第2章 なぜ「日本的思考」は変化に対応できないのか?
05 ゲームのルールを変えたものだけが勝つ
- 驚異的な技能を持つ達人の養成に,日本軍はかなりの力を注ぎ,実際に成果も挙げた.しかし,兵員練度の極限までの追求は,精神主義と混在することで,のちに日本軍の軍事技術・戦略の軽視にもつながった.
- 米軍はまったく逆の発想,「達人を不要とするシステム」で戦闘を段階的に転換させた.
- 「パイロットに高い操縦技能を期待しないでも勝てる」,「命中精度を極限まで追求しなくても勝ててしまう」という発想の転換.
- ところが,劇的な変化への対応に極めて弱かった.
- 従来から積み重ねた方法の精度ではなく,完全に異なる構造でゲームの勝敗がついてしまう新たな戦闘方法への移行.
- 改善を継続することで「小さな変化」を洗練させていく日本軍は,「劇的な変化」を生み出す米軍に,ゲームのルールを変えられて敗退したと考えることができる.
- モノづくり大国として「高い生産性」と「高品質」を武器に世界市場を席巻した日本製品が,現在では製品単体の性能ではなく「ビジネスモデル戦略」で敗退している.
06 達人も創造的破壊には敗れる
- 「創造的破壊」とは,従来の指標とは大きく異なる「劇的な変化」を意味する.
- 米軍は技術研究者の自主性・独立性を強く尊重することで,彼らの才能を最大限発揮させた.
- 一方の日本軍は,権威によって現場や優れた技術者を抑圧し,トップの考えたことが正しいという主張を繰り返して自由を認めなかった.
- 単に新しい技術ではなく,「戦局を変える新技術」がカギだった.(新技術により,勝敗を決定する要因が変わった.)
- 日本企業の高い技術による製品が,米国企業の戦略的な知財マネジメントによって,「戦いの仕組みを変えられて負ける」という現状.
- ルール・仕組み自体を変えてしまうような創造的破壊を生み出せば,圧倒的に有利な状況を作り出せる.
07 プロセス改善だけでは,問題を解決できなくなる
- 「プロセス改善」とはスタートラインとなる「思想・手法」を同じままに,その過程を最大限改良することで,結果をより良いものにしていく作業だと考えることができる.
- プロセス改善での成功体験は,努力至上主義や精神論と大変結びつきやすい性質を持っている.
- 「現場の努力が足りない」という安易な結論は,直面する問題の全体像を上級指揮官が正しく把握していないことに本当の原因があるのではないか.
- 「ダブル・ループ学習」とは,「想定した目標と問題自体が違っている」のではないか,という疑問・検討を含めた学習スタイルを指す.
- このダブル・ループ学習の実行には,現地第一線の部隊が直面している問題を,組織の上層部や対策決定権者が正確に理解することが前提として必要.
第3章 なぜ「イノベーション」が生まれないのか?
08 新しい戦略の前で古い指標はひっくり返る
- イノベーションを創造する3ステップ
- 戦場の勝敗を支配している「既存の指標」を発見する
- 敵が使いこなしている指標を「無効化」する
- 支配的だった指標を凌駕する「新たな指標」で戦う
- 一連のイノベーションの実現は,優位である敵が持っている指標をまず見抜くことが必要であり,その指標を無効化する方法を探し,支配的だった指標を凌駕する新たな指標で戦うことで成し遂げられている.
- 高い技術力を誇る日本の家電メーカーが苦戦を続けるのは,消費者の指標を変化させるイノベーションではなく,単に技術上の高性能を追求しており,効果を失っている指標を追いかけているからだと推測される.
09 技術進歩だけではイノベーションは生まれない
- スティーブ・ジョブズのイノベーション
- ジョブズは,マイクロソフトと戦ったことでネットワーク効果という指標の威力を痛感し,ピクサーで映画業界に関わることで流通の威力と消費者目線の大切さを知ったのかもしれない.
- イノベーションを創り出すには,現時点で支配的に浸透している「指標」をまず見抜く必要がある.
- 成功体験の単なるコピーではなく,対象の中に隠れて存在する「戦略としての指標」を発見する思考法に慣れるべき.
10 効果を失った指標を追い続ければ必ず敗北する
- あらゆる成功の起点は「勝利するために必要な指標」を見抜く眼力だと言える.
- 勝利を左右するのは「どちらの側がより正確に勝利への指標を理解しているか」だと考えられる.
- 「戦略とは追いかける指標」であるという本書の定義.
- 技術が向上して高性能になったとしても,消費者が「これを購入したい!」と思わない変化であれば,それはイノベーションではない.
第4章 なぜ「型の伝承」を優先してしまうのか?
11 成功の法則を「虎の巻」にしてしまう
- 日本軍の強み
- 体験的学習によって偶然生まれるイノベーション
- 練磨の極限を目指す文化
- 米軍の強み
- 戦闘中に発生した「指標(戦略)」を読み取る高い能力
- 相手の指標(戦略)を明確にし,それを差し替えるイノベーション
- 日本人と日本組織の中には,過去発見されたイノベーションを戦略思想化し,「虎の巻」としたい欲求がある.
- 乗り越えられない問題は,実は視点の固定化が生み出しているのかもしれない.
12 成功体験が勝利を妨げる
- しがらみや偏見,先入観がゼロである優秀な第三者のCEOがインテルにやって来た場合,明らかに汎用品となり価格競争の激しいDRAMから撤退すると予測したことで,インテルの経営陣はようやく「古い虎の巻」を手放すことができた.
13 イノベーションの芽は「組織」が奪う
- 海軍軍人たちは,自分たちの知らなかった技術・兵器であるレーダの重要性を,ほとんど理解することがなかった.
- 海軍の強固な思い込みが,民間研究者たちの成功の扉を固く閉ざしていた.
- 技術的イノベーション自体は,個人の研究者・科学者が行うことができても,成果に育てられるかどうかは,組織内に浸透する意識構造に非情なまでに左右されてしまう,
第5章 なぜ「現場」を上手に活用できないのか?
14 司令部が「現場の能力」を活かせない
- 日本軍の組織運営の失敗に共通する点は,大きく二つある.
- 上層部が「自分たちの理解していない現場」を蔑視している
- 上層部が「現場の優秀な人間の意見」を参照しない
- 現場最前線からのフィードバックを頻繁に取り入れて活用した米軍とは好対照.
15 現場を活性化する仕組みがない
- 「組織を活性化するには,各自に精一杯仕事をさせることが重要である」
- 実戦で結果を出した少数の優秀な者に,できるだけ多くの仕事を与えるのがいい.
16 不適切な人事は組織の敗北につながる
- 評価制度の指標変更は,組織運営最大のイノベーション
- 明確な指針が浸透することで,評価される指標に合致する行動を全軍人が目指すようになる.
- 人事評価と人材配置は,それ自体が組織のメンバーに対して強い影響力を発揮する.なぜなら,組織を構成する人物が生み出した成果をどう評価して,その人物をトップがどう扱うかは,メンバー全員の関心事だから.
- 「優れた人材」を最適な場所に配置することは,戦場の勝敗に直結する最重要要素.
- 「勝つ側は必要な行動を行い,負けた側はその理由を述べるだけ」
第6章 なぜ「真のリーダーシップ」が存在しないのか?
17 自分の目と耳で確認しないと脚色された情報しか入らない
- 最前線で兵士から直接集めた情報・意見は米軍機の適切な性能向上に大きく寄与した.
- 現代ビジネスにおいては「最も利益が期待できる,あるいは利益に関わる場所」が最前線だといえる.
- 重要なポイントは,トップあるいはリーダーが,この瞬間に最前線が直面している問題を,どれだけ正確に把握できているか.
- 現地・最前線の実情が,常に何重ものフィルターを通したあとでしか伝わらなければ,トップが正確な判断をすることはほぼ不可能.
18 リーダーこそが組織の限界をつくる
- リーダーとは「新たな指標」を見抜ける人物.
- 新たな指標としての戦略は,現場から生まれることが多く,リーダーはその価値を見抜く必要がある.
- 失敗するリーダーに共通するのは,周囲の意見や目の前の現実を否定し,自己の意見や思い込みに固執しすぎてしまうこと.直面している問題への「捉え方を変えない」.自分の意見を捨てない.
20 居心地の良さが,問題解決能力を破壊する
- 「問題への使命感」「危機感」「覚悟の強さ」が問題解決力を支える.
第7章 なぜ「集団の空気」に支配されるのか?
21 場の「空気」が白を黒に変える
- 本来その問題が正しいか間違っているか判断すべき基準として,影響する比率が1%にも満たないことを取り上げて,問題自体を一方的に決めつけてしまう空気の醸成は,断固見破らなければならない.
22 都合の悪い情報を無視しても問題自体は消えない
- 労力,コストをすでに費やしたプロジェクトが,実は「不適切」であったことが途中でわかったとき,私たちはそれを潔く止めることができるだろうか(コンコルド効果).
- 「状況が実態より良いようなフリをすることは,最終的にはほぼ確実に破滅になつながる」
23 リスクを隠すと悲劇は増大する
- リスクをあらかじめ公表・周知させることは,次の二つのメリットがある:
- リスクとされている事象に注意を払う人が増える.
- リスクを理解していることで,不意打ちを避けられる.
- リスクには次のように対応すべき:
- 最大限迅速に「早く」対応する.
- 何より「真実」を正確に把握する.
- リスクを隠すのではなく「周知徹底」することで予防につなげる.