成果を生み出すテクニカルライティング

第1章|成果創出の基盤はコミュニケーション能力にあり

1-1|実務能力とコミュニケーション能力の意外な関係

エンジニア・研究者には、次の2つの能力が求められる。

・研究開発を適切に推進する実務能力

技術的内容を分かりやすく伝えるコミュニケーション能力

1-2|実務能力──成果を生み出すメインエンジン

エンジニア・研究者に期待される第一の能力「実務を推進する能力」は、次の2つの能力から構成される。

・課題を発見する能力

・解決策を考える能力


「少しでも理想に近づくために、いま具体的に何をすればよいか」を発見する能力(問題を課題に分解する能力)こそ、第一に問われる実務能力なのです。


理想と現実とのギャップを「問題」として捉え、そのギャップを埋めるためのシナリオを描き、そのシナリオに沿って問題を「課題」に分解する力が「課題を発見する能力」です。

研究開発の現場において技術的な課題を明確化するためには、やはり言語化がカギになります。


人間は言葉を使って物事を考えるため、「文章として表現する」ことが最も思考を明晰にします。

つまり、課題を文章として表現することで、自分がその課題をどのように捉えているかが初めて理解できるのです。


「解決策を考える能力」とは、「結果から得られる情報量(インパクト)が最大になるアプローチを嗅ぎ当てる能力」と言い換えられます。

仮説の検証に使った対象を観察し、そこに「自分が気づかなかった何か」を発見し、小刻みの軌道修正を繰り返して仮説を立て直す能力とも言えるでしょう。


人間は言葉を用いて記憶を外部化し、考えたことを整理・編集し、それを確認してさらに思考を深化させられたからこそ、科学技術を発展させられたのです。

1-3|コミュニケーション能力──実務能力を伸ばす成長エンジン

エンジニア・研究者に期待される第二の能力「コミュニケーション能力」は、次の2つの能力から構成されます。

・相対化する能力

言語化する能力


「現時点ではどのようにして何がどこまで達成されているか」を明確にしているからこそ、それを基礎として「自身の取り組みは、何をどのようにして、目標までの距離をどれほど縮めるか」を正確に測れるのです。


いま自分は何を課題として認識し、どのようなアプローチで、先行技術のどの部分をどのように改善しようとしており、その結果として何と何が峻別されてどのような利益がもたらされるのか、これらを腹に落とす必要があります。当然ながら「峻別」とは相対化のことであり、「既存」に対する「新規」の位置づけを意味します。


まずは相対的な位置関係を理解したうえで、何かを捨てて何か選び、本質的な構造をはめ込む──これが、複雑な事象をシンプルにして「文章」という制約の大きい形式に落とし込むための唯一の方法であり、これを正確に行う能力こそ「言語化する能力」です。


「文章の上手・下手」と「言語化の巧拙」とを混同し、「うまく伝わらない」という課題に対して「文章が下手だから」という仮説を設定し、この課題解決に向けたアプローチとして「文章術のスキルを身につける」を採用するのは、間違っているということです。

しかも、当の本人は「解決できた気分になっている」(だって文章はうまくなったから)ので余計に始末が悪いと思います。

1-5|成果を生み出すためのコミュニケーション能力

これまで説明してきたことを再度まとめると、エンジニア・研究者に求められる「コミュニケーション能力」とは、先行技術との相対的な関係に基づいて課題を設定し、仮説を立て、解決策を検討する──こうした一連の思考を整理し、言語によって見える化し、自身の取り組みによって「達成されたこと」と「課題として残されたこと」とを浮き彫りにする能力です。


PDCAを的確に回せれば、その分野の課題をしっかりと見渡すことができ、「いまどうなっているか」「次はどうすればよいか」を見通せる能力・知見、つまり、エンジニア・研究者としての実務能力も向上します。

結局、言語によって筋の通った説明ができるため、自身の取り組みを論理的に改善していけますし、他人に伝えることもできるようになるのです。

第2章|テクニカルライティングの黄金フォーマット