NATURE FIX|自然が最高の脳をつくる

プロローグ──戸外の大気は人を元気にする強壮剤

マッケロンはある論文で次のように述べた.

「平均すると,被験者は都会にいるときより,屋外の緑豊かな場所や自然のなかに身を置いているときのほうが有意に,かつ確実により深い幸福感を覚えている」

都会にいるときと豊かな自然がある環境(とくに海岸沿い)にいるときの幸福度の差は,ひとりでいるときと友人と一緒にいるときの差よりはるかに大きく,なにもしていないときと歌やスポーツなど好きなことをしているときとの差と同程度だった.

  • わたしたちが自然のなかですごさなくなったことには,理由がある:
    • 「自然と隔絶した生活を続けるうちに,人々は自然から得られる快楽の恩恵を過小評価するようになり,自然のそばですごすのを避けるようになったのかもしれない」

自然環境に身を置く時間がなくなったため,自然に接すれば心身ともに元気になることを実感する機会もなくなった.

自然に触れるとより健康に,より創造的になるうえ,思いやりをもてるようになり,社会や人とうまく関われるようになることは,さまざまな研究からもあきらかになっているのに,そうした研究結果にはだれも目もくれない.自然は文明社会に大いに貢献するというのに.

  • 本書は,詩人や哲学者には太古から自明であったこと,つまり「どこにいるか」が幸福度を左右するという事実の背景にある科学をさぐっていく.
  • 本書で紹介するさまざまな研究者が,自然には人間を元気にする力があることを立証できると口をそろえている.

脳の神経細胞はじつに敏感に自然に反応する.

それが科学的に裏づけられていることを,本書をとおして多くの人に知ってもらいたい.

こうした科学的知識を得られれば,自然の景観が人の脳と深くつながっているという事実を驚きをもって理解できるはずだ.


PART1|「ネイチャーニューロン」をさがして

1|バイオフィリア効果

  • バイオフィリアとは:
    • 「人間が他の生きた有機体と情緒の面で生まれつき密接な関係をもっていること」
  • バイオフィリア仮説:
    • 「自然のなかにある穏やかで生命を育む要素により,人間が心の平静,明晰な認知機能,共感,希望といったものを取り戻す力を得る」
    • バイオフィリア仮説は,以下の理由の説明にもなる:
      • わたしたちがいまでも海沿いに家を建てる理由
      • アップル社の社名が果物にちなんでいる理由
      • アップル社のOSの各バージョンに高貴なネコ科の肉食動物やサーフィン・スポットや国立公園にちなんだコードネームがつけられている理由
  • 意識していようがいまいが,自然こそが人のふるさと.

「休暇がとれたら町には出かけず,自然のある場所に行く.一か月に一度,週末はそうした場所に出かける努力をする.

週に一度は公園に行く.庭仕事もいい.都会を歩くときには芝生の上を歩くのではなく,木立の下を歩くようにする.静かな場所に行く.水辺もいいでしょう」

2|脳を最大限に活かすには


PART2|最初の五分間──身近な自然

3|嗅覚とフィトンチッド

4|聴覚と小鳥のさえずり

5|視覚とフラクタル


PART3|一ヶ月に五時間──自然に触れる習慣で変わる


PART4|三日間──大自然が脳に与える効果


PART5|庭のなかの都市