問題発見力を鍛える
はじめに
必要な能力が一変した
- VUCAの時代の集大成とも言えるのが,今回の新型コロナウィルスの世界への直撃.
不確実性が上がれば上がるほど,「そもそも何が問題なのか?」を考える能力が重要になってきます.
不確実性が高い時代には「与えられた問題を上手に解く」のではなく,問題が与えられたら「そもそもこれは解くべき問題なのか?」と疑ってかかり,「解くべき問題はこちらである」と逆提案する能力が重要です.
本書はそのためのヒントを提供することを達成目標とします.
絶好のチャンス
たとえば問題とは,変化している現実と昔から変わっていないルール(「ハンコ」が最もわかりやすい例と言えるでしょう)との間に生じた歪みであり,そこに生じる「歪んだ事実」と「あるべき理想像」とのギャップです.
問題とはあくまでも私たちの事象のとらえ方であり,「時代の変化」は旧来のもののとらえ方と現実との間にギャップを生み出し,それが問題となります.
「問題」とはネガティブにとらえられがちかも知れませんが,うまい解決策を見つけることですべて新しい機会に変わっていきます.
VUCAの時代や新型コロナ危機というのは,問題発見力がある人にとっては限りない機会を次から次へと提供してくれる絶好のチャンスだということです.
第1章|なぜ問題発見力が問われる時代になったのか
VUCAの時代に必要な「問題発見力」を高める思考回路とは
- 本書における「問題」というのは,日々の仕事や生活でち直面する以下のような解決すべき課題のこと:
- 「問題」を解決していくためには,まずは問題そのものを適切な形で発見して定義する必要がある.
- つまり,問題解決の前には,その発見と定義があり,そこで初めて問題解決が可能になる.
- 時代の変化やAIの発展に伴って,その重要性が,川下側の問題解決から川上側の問題発見にシフトしてきている.
- 今後重要性が高まっていくのは,「与えられた問題を解く」ことから「自ら能動的に問題を発見する」ことになる.
獲物を見つける力が必要な時代に真っ先に考えるべきこと
- 変化が激しいということは,獲物の位置が流動的だということ.
- 獲物の現在地を特定するための情報も少なく,確実に獲物を捕まえることが難しくなってきたことがいまの時代の特徴.
単に「言われたことを忠実にこなす」のではなく,上司のニーズを理解した上で「頼まれてもいないこと」(でもそのニーズに合ったこと),そして「先進事例(=誰かが既にやったこと)から学ぶ」のではなく,「誰もやっていないことを考える」ことを能動的に提案していく姿勢が部下には求められるのです.
思考回路の転換というのは,スマホやPCの世界にたとえるなら,単に「問題発見」というアプリケーションを追加すればよいのではなく,そもそもこれまでやってきた「問題解決」というアプリケーションとは,寄って立つOSそのものを入れ替えなければいけないというレベルの話なのです.
なぜAI時代に問題発見の重要性が増すのか?
- 現在のAI技術が最も得意とするのは,「明確に定義された問題に対する最も適当な答えを膨大なデータ(ビッグデータ)から推論する」こと.
- AIに与える問題は明確に「変数」が決められて,それを同じく明確に定義された前提条件の下で最適化するような問題であることが求められる.
- 問題が明確に定義できて,膨大なデータが手に入る領域はAIに任せて,人間はさらにその上流の,まだ明示的に語られていない問題を自ら能動的に見つけていくことが重要になる.
本当に解くべき問題は何か?「疑う力」で、真の問題を発見する
- 問題解決:ある問題が与えられたときに,「How」を問うことで具体化し,絞り込んでいく.
- 問題発見:ある問題が与えられたときに,「Why」を問うことで視野を広げて新たな問題を見つけに行く.
- 全ての情報収集には必ずその「上位目的」がある.
- 上位目的を考えることで,仕事の依頼主(顧客や上司)にとっての「さらに重要な問題」を見つけることができる.
第2章|問題発見は常識を疑うことから始まる
「自分がダメだという自覚のない人」が思考停止する理由
- 「無知の知」:
- 無知であることそのものよりも,自分が無知であることを自覚していないことの方が問題としては大きいということ.
- 問題なのは,無知であることではなく,無知の無知,つまり無知であることを自覚していないことなので,無知であることを自覚することが重要だということ.
- 問題発見とは,「未知の未知」の領域を常に意識した上でそれを「既知の未知」(=新たな問題)に変えていくことなので,そもそもの世界観が「無知の知」であることがスタートポイントになる.
- 「未知の未知」を意識している人は,自分の理解できないものを見るとそこで思考回路が起動して「何か自分に見えていないことがあるのではないか?」と疑って新たな問題を見つけようというモードに入る.
- 「無知の知」を自覚している人は,常に自分の知らないことがないかとアンテナを張っている点で「外側を向いて」いる.
「スマホをいじりながら話を聞く人」に起こってはいけない理由
- 対面コミュニケーションができなくなった時代には,「いかに人の目を見ない状態でコミュニケーションできるか」の方が重要なスキルになっている.
「非常識人」になるための5つの基本
- 「常識」という言葉は「自分では正しいと以前から信じているが,実はその理由を説明できない」状況において発せられる言葉.
- 逆に言えば,その常識を説明するために考えることで,新たな問題が見つかるということ.
- その常識の理由や背景を「なぜ?」と考えることで,新たな常識が生まれてくる.
第3章|問題発見とは新しい「変数」を考えること
なぜ「なぜ?」は何度もくり返すべき」か|5Wにおける「Why」の特殊性
- 問題発見は,問題解決とはある意味で正反対の思考回路である:
- 問題解決の「How」は与えられた問題の外枠を疑わずに,内向きに考えること.
- 問題発見の「Why」は外側に向かって新たな問題を探しにいく.
- 5Wの中でも「Why」は特別な存在.
- 4Wへの回答は「名詞で一言」で終わるが,「Why」への回答だけが「〇〇だから」となる.
- 4Wは「点」,「Why」は「線」.0次元と1次元という,「次元の違い」がある.
問題発見とは新しい「変数」を考えること
- 問題を発見する段階においては,なるべく大きな視点に立ち,視野を広げることで,観点をさまざまに拡散させてみることが重要.
- 逆に問題を解決する場面では,必要以上に視野を広げずに収束型で考えることが重要.
- 定義された問題(=変数の集合)の各々の変数を最適化するのが問題解決.
- そもそもどういう項目で比較するのか.さらに言えばその比較表にない項目を新たに作り出して新たな顧客ニーズに応えようとするのが問題発見.
問題発見の仕方を体系的に理解する方法
- 新型コロナ対策は,「経済活動」(を最大限維持すること)と「感染者数」(を最小限にすること)という2つの変数のトレードオフが解くべき問題だった.
- 問題発見は新たな変数へと拡大させて別の問題を考えていくのに対して,問題解決ではある変数を分解することで,どこから着手すべきかという方向に向かっていく.
「ポジティブな文句を言う」ことが問題発見のコツ
- 「いまよりも良くなった状態」(あるべき姿)を思い浮かべてその状況と現状との違いを「問題」として定義する.
- 「あえて普段から意識していないとできない」
第4章|「ギャップ」に問題発見のヒントあり
「顧客の期待値をコントロールする」重要性に気づいていますか
- 問題とは「ギャップ」のことであり,ギャップには大きく分けて2通りある:
- ネガティブ側のもの,つまり通常状態にもどすべき負の状態のもの.
- ポジティブ側のもの,つまりあるべき望ましい姿と現状とのギャップ.
新しいビジネスは「偏在」を発見することから生まれる
- 問題発見の目のつけどころの一つは偏在に目を向けること.
- その偏在を解消する(「偏在」を「遍在」に変える/平準化する)ことで問題を解決することが可能になる.
- シェアリングエコノミーは,まさにこのような偏在を解消するための解決策として登場した.
- たまにしか使わないようなもの(つまり利用時期が偏在しているもの)については,所有から共有へという流れが加速している.
ますます重要になる「アナロジー思考」
- アナロジーを簡単に表現すれば,「遠くから借りてくる」ことを意味する.
- アナロジー思考には,2つ考慮すべきことがある:
- さまざまな世界に関心をもち,特に自分から遠い世界の知識を普段から得ておくこと.
- 「一見まったく異なるもの」を抽象度の高い共通点でつなぐ抽象化の力.
簡単に真似されないビジネスを生む発想法
- 「アナロジー」と「パクリ」の違い:
- 単なるパクリ:
- 五感で感じられる真似
- 誰でもすぐにわかる類似点
- 「具体」レベルの共通点
- 「近くの世界」からもってくる
- 「アナロジー」:
- 「心の五感」(思考力)を用いた真似
- わかる人にのみわかる類似点
- 「抽象」レベルの共通点
- 「遠くの世界」との共通点
- 単なるパクリ:
- 「具体と抽象」:
- 具体:直接目で見たり手で触ったりといった五感で感じることができるもの
- 抽象:目や耳でなく「心の五感」,つまり思考することによって感じられるもの
- パクリとは五感のレベルの真似であり,アナロジーとは「心の五感」(思考力)のレベルでの真似で,これが「具体と抽象」の相違.
- 抽象度の高い真似は,多くの場合問題にならない.
- 抽象度を上げれば上げるほど,多くのものが同じになってくるので,これをいちいち咎めることは不可能.
第5章|「具体と抽象」を駆使して自分の頭で考える
「線を引く」ことの功罪を理解する
- 目に見える具体的なものだけでなく,物事を抽象化してとらえることが問題を発見する上で重要.
- 抽象化というのは,「まとめて分類する」ということ.「カテゴリーで考える」とも言える.
- 問題発見の観点から言えば,線引きが行われれば必ず「歪み」が発生するところが「目の付け所」になる.
コミュニケーション上の問題は「具体と抽象」のギャップから生まれる
- 自分の良く知っている領域ではものごとを細分化して=具体的にとらえるのに対して,自分の良く知らない領域では大ぐくりにして=抽象的にとらえるのが私たちの癖.
- このメカニズムを理解していれば,相手の事情を考えてみるといった形で無用の軋轢を減らすことも可能になる.
終章|問題発見力を鍛えるために今後やるべきこと
問題発見力を上げるために普段から意識しておくこと
- 他人に見つけた問題を自分の問題として改善につなげていけば,ネガティブな問題がポジティブな改善へと変わっていく.
- 問題解決におけるボトルネックは,川上側の問題発見とその明確な定義へとシフトしてきている.
- 問題を定義するとは,本書の言葉で言えば,問題の変数を定義するということ.
- ここで言う「変数」というのはビジネスで言えば,「単位時間あたりのアクセス数」とか「若年世代のリピート率」といったもの.
- 問題を定義するとは,本書の言葉で言えば,問題の変数を定義するということ.