思考の整理学

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

グライダー

  • 学校はグライダー型(自力では飛び上がることはできない)人間の訓練所である.飛行機人間はつくらない.
    • 言われた通りのことをするのは得意だが,自分で考えてテーマをもてと言われるのは苦手である.
    • 一般に,学校教育を受けた期間が長ければ長いほど,自力飛翔の能力は低下する.
  • 人間には,グライダー能力と飛行機能力とがある.
    • 受動的に知識を得るのが前者,自分でものごとを発明,発見するのが後者である.

われわれは,花を見て,枝葉を見ない.かりに枝葉は見ても,幹には目を向けない.

まして根のことは考えようともしない.とかく花という結果のみに目をうばわれて,根幹に思い及ばない.

  • 指導者がいて,目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるけれども,新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠である.

この本では,グライダー兼飛行機のような人間となるには,どういうことを心がければよいかを考えたい.

グライダー専業では安心していられないのは,コンピュータという飛び抜けて優秀なグライダー能力のもち主があらわれたからである.

自分で翔べない人間はコンピュータに仕事を奪われる.

不幸な逆説

いまの学校は,教える側が積極的でありすぎる.親切でありすぎる.何が何でも教えてしまおうとする.

それ見えているだけに,学習者は,ただじっとして口をあけていれば,ほしいものを口へはこんでくれるといった依存心を育てる.

学校が熱心になればなるほど,また,知識を与えるのに有能であればあるほど,学習者を受け身にする.本当の教育には失敗するという皮肉なことになる.

  • 数学は思考力をつけるというけれども,問題を与えられて,解答を出すのは,まだまだ受動的である.
    • 問題という枠の中でこそ積極的ではあるが,問題そのものは他から与えられたもので,自分で考え出したのではない.

朝飯前

  • 食後はゆっくり休む.その代わり,食前はすべてを忘れて仕事に神経を集中させる.
    • これには午前中をすべて朝飯前にするのがよろしい.八時前に起きても四時間ある.その間に,その日の仕事をすませてしまう.
  • 寝て疲れをとったあと,腹になにも入っていない,朝のうちが最高の時間であることは容易に理解される.
    • いかにして,朝飯前の時間を長くするか.


寝させる

  • 考えごとがあるから,着想が出てくる.
  • どうして,「一晩寝て」からいい考えが浮かぶのか,よくわからない.ただ,どうやら,問題から答えが出るまでには時間がかかるということらしい.
    • その間,ずっと考え続けていてはかえってよろしくない.しばらくそっとしておく.すると,考えが凝固する.それには夜寝ている時間がいいのであろう.
    • 大きな問題なら,むしろ,長い間,寝させておかないと,解決に至らない.
      • 考え出して,すぐ答の出るようなものは,たいした問題ではないのである.本当の大問題は,長い間,心の中であたためておかないと,形をなさない.

思考の整理法としては,寝させるほど大切なことはない.思考を生み出すのにも,寝させるのが必須である.

なにごともむやみと急いではいけない.人間には意志の力だけではどうにもならないことがある.それは時間が自然のうちに,意識を超えたところで,おちつくところへおちつかせてくれるのである.

いずれにしても,こういう無意識の時間を使って,考えを生み出すということに,われわれはもっと関心をいだくべきである.

カクテル

  • テーマがひとつだけだと,見つめたナベのようになる.これがうまく行かないと,あとがない.こだわりができる.妙に力む.頭の働きものびのびしない.
    • ところが,もし,これがいけなくとも,代わりがあるさ,と思っていると,気が楽になる.テーマ同士を競争させる.

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エディターシップ

  • どういう順序にするか.それがまず問題である.
    • ABCDEの順ではまるでおもしろくないことが,EDCBAとしたら,一変しておもしろくなるということがある.ECDABとすれば,また別の見え方をするであろう.
    • もっともよき順序に並んだときにもっとも大きな意味を生み出す.

次はある有名詩人が洩らした創造の方法である.

なにか考える.創り出そうとする.そして頭に浮かんでくることを片端から,ひとつひとつカードに書きとって行く.

カードがたくさんできたら,これをカルタとりのように並べる.そして,おもしろそうな順にとって行く.

こうして順序ができる.それを見直す.おもしろくないようだったら,また,カルタ取りをしなおす.

気に入る順序ができるまで何回でもこれを繰り返す.いよいよ,これでよしとなったら,カードを綴じ合わせる.

触媒

  • ものを考えるに当って,あまり,緊張しすぎてはまずい.何が何でもとあせるのも賢明ではない.
    • むしろ,心をゆったり,自由にさせる.その方がおもしろい考えが生まれやすい.没個性的なのがよいのである.
  • 寝させておく,忘れる時間をつくる,というのも,主観や個性を抑えて,頭の中で自由な化合がおこる状態を準備することにほかならない.
    • ものを考えるに当って,無心の境がもっともすぐれているのは偶然ではない.
    • ひと晩寝て考えるのも,決して,ただ時間のばしをしているのではないことがわかる.

セレンディピティ

  • 中心的関心よりも,むしろ,周辺的関心の方が活潑に働くのではないかと考えさせるのが,セレンディピティ現象である.
    • 視野の中央部にあることは,もっともよく見えるはずである.ところが皮肉にも,見えているはずなのに,見えていないことが少なくない.
    • 寝させるのは,中心部においてはまずいことを,しばらくほとぼりをさまさせるために,周辺部へ移してやる意味をもっている.
    • そうすることによって,目的の課題を,セレンディピティをおこしやすいコンテクストで包むようになる.
    • 人間は意志の力だけですべてを成し遂げるのは難しい.無意識の作用に負う部分がときにはきわめて重要である.


情報の"メタ"化

  • 思考の整理というのは,低次の思考を,抽象のハシゴを登って,メタ化していくことにほかならない.
    • 整理,抽象化を高めることによって,高度の思考となる.普遍性も大きくなる.

思考や知識の整理というと,重要なものを残し,そうでないものを,廃棄する量的処理のことを想像しがちである.

もちろん,そういう整理もあるけれども,それは,古い新聞,古い雑誌を,置き場に困るようになったからというので,一部の入用なもの以外は処分してしまうのに似ている.物理的である.

本当の整理はそういうものではない.第一次的思考をより高い抽象性へ高める質的変化である.

いくらたくさん知識や思考,着想をもっていても,それだけでは,第二次的思考へ昇華するということはない.量は質の肩代わりをすることは困難である.


整理

  • 勉強し,知識を習得する一方で,不要になったものを,処分し,整理する必要がある.
    • 頭をよく働かせるには,"忘れる"ことが,きわめて大切である.

忘却のさまざま

忘れるときにも,ほかのことをすればいい.

ひとつの仕事をしたら,すぐそのあと,まったく別のことをする.それをしばらくしたら,また,新しい問題にかかる.

長く同じことを続けていると,疲労が蓄積する.能率が悪くなってくる.ときどき一服してやり,リフレッシュする必要があるのはそのためだ.

しかし,別種の活動ならば,とくに休憩などしなくても,リフレッシュできる.

  • 汗を流すのが忘却法として効果がある.
    • 気分爽快になるのは,頭がきれいに掃除されている,忘却が行われている証拠である.
    • 適度のスポーツは頭の働きをよくするのに必須の条件でなくてはならない.
    • 散歩も体を使うことで,忘却を促進する効果がある.

忘れられるのは,さほど価値のないことがらである.

いかに些細なことでも,興味,関心のあることは決して忘れたりはしない.

忘れるとは,この価値の区別,判断である.

すてる

  • 整理とは,その人のもっている関心,興味,価値観によって,ふるいにかける作業にほかならない.
    • 価値のものさしがはっきりしないで整理をすれば,大切なものをすて,どうでもいいものを残す愚をくりかえすであろう.
    • すてるには,その人間の個性による再吟味が必要である.これは没個性的に知識を吸収するのに比べてはるかに厄介である.
    • たえず,在庫の再点検をして,すこしずつ慎重に,臨時的なものをすてて行く.

とにかく書いてみる

ひとつひとつ,順次に書いて行く.

どういう順序にしたらいいかという問題も重要だが,初めから,そんなことに気を使っていたのでは先へ進むことができなくなる.とにかく書いてみる.

書き進めば進むほど,頭がすっきりしてくる.先が見えてくる.

もっともおもしろいのはあらかじめ考えてもいなかったことが,書いているうちにふと頭に浮かんでくることである.

そういうことが何度も起これば,それは自分にとってできのよい論文になると見当をつけてもよかろう.

テーマと題名

長く説明しなければならないほど,考えが未整理なのである.

よく考え抜かれてくれば,おのずから中心がしぼられてくる.

ホメテヤラネバ

  • 思考はごくごくデリケートなものである.
    • いい考えが浮かんでも,そのときすぐにおさえておかないと,あとでいくら思い出そうとしても,どうしても再び姿を見せようとしない場合もある.
  • まわりにうまくほめてくれる人がいてくれれば,いつもはおずおずと臆病な思考も,気を許して,頭を出してくれる.
    • 雰囲気がバカにならない.いい空気のところでないと,すぐれたアイディアを得ることは難しい.


三上・三中

  • まず,本を読んで,情報を集める.
    • それだけでは力にならないから,書いてみる.
    • たくさん書いてみる.そして,こんどは,それに吟味,批判を加える.こうすることによって,知識,思考は純化される.

散歩中にいい考えにぶつかることは,古来その例がはなはだ多い.ヨーロッパの思想家には散歩学派がすくなくない.

散歩のよいところは,肉体を一定のリズムの中におき,それが思考に影響する点である.

もうひとつ,ものを考えるのによいのが,入浴中である.思考にとっても血行をさかんにする入浴が悪いはずはない.


コンピューター

  • 人間が,真に人間らしくあるためには,機械の手の出ない,あるいは,出しにくいことができるようでなくてはならない.
    • 創造性こそ,そのもっとも大きなものである.
    • これからの人間は,機械やコンピューターのできない仕事をどれくらいよくできるかによって社会的有用性に違いが出てくることははっきりしている.
    • コンピューターがあらわれて,これからの人間はどう変化して行くであろうか.それを洞察するのは人間でなくてはできない.これこそまさに創造的思考である.


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