外資系コンサルの知的生産術
まえがき|どうして,論理思考やフレームワークを学んでも知的成果を生み出せないのか?
- 「思考の技術」だけを高めても,知的生産性は向上しない.
- 知的生産性というのは「思考の技術」そのものよりも,「情報をどう集めるか」とか「集めた情報をどう処理するか」といった「行動の技術」,いわゆる「心得(行動技術)」によってこそ大きく左右される.
「思考の技術」はあくまで知的生産における「道具の一つ」でしかありません.
知的生産のプロセスを全うするためには,その他にもたくさんの「道具」や「コツ」が必要となります.
こういった特性を持った知的生産において,思考技術一点だけに焦点を当てて鍛えても,それはプロセスの中の一局面でしか使いようのない一種の「一発芸」を身につけるのと同じことですから,知的生産性が上がらないのも当たり前なのです.
逆の言い方をすれば,どんな地頭がよく,思考力に優れている人でも,「動き方」を知らなければ実社会で評価されるような知的生産物はまったくといっていいほど生み出せないということです.
第一章|知的生産の「戦略」
1|「顧客の知識との差別化」を意識する
- どのような知的生産物を生み出せば,この局面で勝てるのか?という点についての見通しをつける.
- ここが,知的生産全体の成否を分ける前半での大事なポイントになる.
- 自分の知的生産物を,どうやって他の知的生産物と差別化するか.この点を,まず考えなくてはならない.
- 知的生産においては「顧客(知的生産物の受け取り手)がすでに持っている知識との差別化」が一番大きな問題になる.
2|「新しさの出し方」を決める
- 「新しさ」には二つの出し方がある:
- 「広さで出す」
- 「深さで出す」
- 集めなければいけない情報の種類は,「広さ」と「深さ」のどちらで勝負するかによって大きく変わってくる.
- 情報収集に入る前に,「広さ」と「深さ」のどちらで勝負をかけるのか,まずは方向性をはっきりさせる.
3|顧客を明確化する
- 知的生産の初期段階では,生み出そうとしている知的成果物を届ける相手=顧客を明確化した上で,その人が何に付加価値を感じてくれるかをはっきりさせることが非常に重要.
4|要求されているクオリティを押さえる
- 知的成果物の品質ターゲットを決めることで,初めて情報収集や分析といった作業の工程も決まってくる.
- 知的生産の初期段階において,顧客が求めている知的生産物の品質クオリティを明確化させるようにする.
9|指示は,「行動」ではなく「問い」で出す
例えば,もし皆さんがプロジェクトチームのリーダーだとすれば,メンバーに対して「〇〇に関連する資料を,金曜日までになるべく沢山集めておいて」などという指示を出してはいけません.
そうではなく「〇〇に関して,この四つの問いについて答えが出せるような資料を集めておいて」と指示しなくてはならないのです.
これがつまり,情報収集に際して,指示は「行動」ではなく「問い」で出す,ということです.
- 「問い」で指示を出された方がはるかに何をやればいいのかが明確にイメージできる.
- 「ここまでわかればいいよ」という目安を提示されれば,自分が作業工程のどこまで進んでいるかを把握できる.
- 知的生産活動に従事する管理職の大事な役割は,「ここまでやれば及第点」というラインを指示すること.
- 置かれている状況,作業を依頼する人の力量,扱うテーマの難易度に応じて適切なミニマムラインの設定を行うのが,管理職の大事な仕事.
第二章|インプット
12|「よい質問=よいインプット」と知る
- 事前に「これだけははっきりさせたい」という問いを明確化しておく.
- よい質問は,よいインプットに直結する.
- 質問の具体性が高いと,こちらが知りたいと考えている論点,つまり「これだけははっきりさせたいというポイント」について,はるかに具体的で明確な回答が得られる.
14|「わかったふり」をしない
- 相手の話していることに多少なりとも疑問点や腑に落ちない点があった場合,素通りすることなく明確化させないといけない.
- インタビュー結果をアウトプットとしてまとめられない可能性が高まるから.
- 「よい質問」というのは「わからない」からできるのではなく,まったく逆に「完璧にわかる」からこそできる.
- 「ここまでは完璧にわかっているけど,ここから先がわからない」というときにこそ,質問は本当にシャープになる.
- 本当に専門家に対して「鋭い質問」ができるのは,専門家と同様のバックグラウンドがあって同じ土俵に立っている人だけ.
18|現場観察を活用する
- いい仮説というのは,繰り返し観察されるパターンに気付くことで初めて得られる.
- いい仮説は,1~2時間の観察をいくら繰り返しても決して得られない.
19|「現地現物」を「現地見物」にしない
- 現地見物(ただ単に行って見てきました)を避けるための2つのポイント:
- あらかじめ確かめたい「問い」を明確化して現場に臨む
- 「ここはどうなっているのか?」「どうして,こうなっているのか?」「何が原因なのか?」
- 仮説(「問い」に対する現時点での答え)を持って臨む
- あらかじめ確かめたい「問い」を明確化して現場に臨む
22|青い鳥を探さない
- 21世紀の日本を生きるわたしたちが仕事上で向き合うことになる「難問」には,どこにも答えなどないのだ,ということを覚悟しておく.
- インプット=情報収集という作業は,答えを紡ぐための材料になる情報を集めるという作業以上のものではないことを,肝に銘じておく.
23|「とにかく,なんとかする」という意識を持つ
- イノベーションのほとんどは「思いついた人」ではなく「あきらめなかった人」が実現している.
24|学習のS字カーブを意識する
- ある領域についての書籍を3~5冊程度読めば,その分野に関する読書の限界効用は急激に低下し,10冊も読めば,それ以上の読書が与えてくれる限界効用はほとんどなくなる.
- 基本書・概説書を5冊読み込んで,それでもなおプロセッシングが前に進まないということであれば,そもそもプロセッシングのアプローチに無理がある可能性がある.
- 闇雲なインプットに走ることなく,「そもそも何をしようとしているのか?」「何が求められているのか?」「このやりかた以外にアプローチはないのか?」といった根本的なポイントについて考え直す.
第三章|プロセッシング
25|文脈を意識する
- 「プロセッシング」とは,「集めた情報を分けたり,組み合わせたりして,示唆や洞察を引き出す」こと.
- 知的生産のプロセッシングのおいて重要なのは,「その局面において重要な意味合いや示唆だけを引き出す」ということ.
- もう少しくだけた言い方をすれば「じゃあ,どうすればいいの?」という答えにつながるような示唆や洞察を引き出す,ということ
26|「行動」を提案する
- 「行動を提案する」というのはつまり「ではどうするべきか?」という問いに対して解答を出す,ということ.
- わたしたちが知的成果として世に訴えられる情報は基本的に「事実」「洞察」「行動」の3種類しかない.
- この枠組みに当てはめれば評論家というのは「洞察までしかアウトプットできない人」ということになる.
- 「行動の提案」まで踏み込むことで初めて価値を生み出す.
- 知的生産に従事する際には,常に,最後は「では,どうすればいいのか?」という問いに対して答えを出すのだ,という気概を失ってはいけない.
27|常にポジションを取る
- 決断力というのは要するにポジションを取れるかどうかということ.
- ポジションを取る,というのは,知的生産のみならず,リーダーシップにおいても必須の要件になる.
- ポジションを取らないと評論家になってしまう.
- ポジションを明確化するということは,知的生産のクオリティを高めるにあたって,もっとも重要なポイントの1つ.
28|最初からポジションを取る
- 知的生産の初期段階において,たとえ情報が不足しているように感じられたとしても,現時点でのベストエフォートとして明確なポジションを取る.
- ポジションというのは常に,現時点でのベストエフォートにならざるを得ない.
- その時点で頭の中にストックしてある関連情報や過去の類似事例にもとづく推察によってポジションを決める.
- ポジションを一度取った上で,新しい情報がそれを反証するのであれば即座にそのポジションを捨てる,という柔軟さ,腰の軽さが必要.
30|答えは探さず,来させる
- 集まった情報から解が導けないというのは,思考力の問題なのではなく,集まった情報の量か質に問題がある.
- 正しく「問い」が設定されて,情報がちゃんと集まれば,答えは誰の目にも明らかな形で自然に立ち現れてくる.
- 「よい答え」というのは,ニュアンスとしては,力ずくに探し出すものではなく,ごく自然に目の前に立ち現れるもの.
31|「長く考える」のではなく「何度も考える」
- 長く考えるよりも,短く何度も考える方が突破口を見つけやすい.
- せいぜい五分程度の思考を,時間と場所を変えて繰り返し行う.
- 思考の総量は「考える時間」の量よりも「考える回数」の量によって決まる.
32|「分析」以外の脳のモードを使う
- プロセッシング:
- 前工程:集められた情報を分析して細かいピースに分けていくという作業を行い(拡散的作用),
- 後工程:細かいピースを組み合わせながらその多くは捨て,結論としてのまとめを作り上げていくという統合を行う(収斂的作用).
33|論理と創造のモードを使い分ける
- プロセッシングの工程において折り返し点を回る際に,分析→統合へとモードを切り替えると同時に,論理→創造へとモードを切り替える.
- 知的生産では「統合」「分析」「論理」「創造」の四つの脳のモードを,段階に応じてうまく使い分けることが求められる.
- 「分析」:複雑で絡み合った事柄を一つひとつの要素や成分に分け,その構成などを明らかにする.
- 「統合」:断片的な情報を組み合わせて新しい示唆や意味合いを生み出すモード.
- 「論理」:結論の妥当性が保たれるように推論を積み重ねていくモード.
- 「創造」:積み重ねを省いて一気にゴールをイメージするモード.
- 知的生産では「統合」「分析」「論理」「創造」の四つの脳のモードを,段階に応じてうまく使い分けることが求められる.
35|ピンと来るオチから逆算する
プロセッシングの前半と後半で脳のモードを分析+論理から統合+創造へと切り替える,という指摘を行いましたが,そのような切り替えの前後に,直観的に「これが打ち手じゃないか?いや,これしかない」という答えがアタマに浮かんでくることがあります.
この「フワッ」と直観的に浮かんだアイデアを筆者はとても大事にしています.
なぜなら,本当によい答えというのは往々にして緻密に思考を積み上げて生まれるものではなく,「ハッ」としたときに天啓のように与えられることが多いからです.
- 分析的・論理的な知的作業を積み重ねていく作業を経て生み出された知的生産物は,せいぜい及第点に達するだけで,圧倒的なクオリティを持つことはない.
- 分析と論理というのは基本的に人と同じ答えを得るための作業でしかないから.
39|とにかく紙に書いてみる
- 思考を深めようと思ったら,まずとにかく紙に書き出してみる,自分のアタマの中の情報や思考を,アタマの外に出して相対化してみるということが重要.
61|作用と反作用を意識する
- 何か,極端に目盛りが触れているモノやコトがあった場合,その逆側に振れた目盛りがその背後に潜んでいるのではないか,と考えることで大きな気付きが得られることがある.
第四章|アウトプット
64|「Less is more=少ないほどいい」と知る
- 情報は「Less is more=少ないほどいい」:
- 行動を起こさせるためにはメッセージが明快に伝わる必要があり,メッセージを明快にするためには余計な情報をできる限りそぎ落とす必要があるため.
- 一般に日本のホワイトカラーは,資料に情報を詰め込みすぎる傾向がある.
- 心積もりとして「情報の量とクオリティはむしろ逆相関する」という価値観を持っておく.
67|ベクトルではなく,到達点を伝える
- ビジネスにおいては「向き」よりも座標上の任意の点を明確化することが必要.
- アウトプットが「ベクトル」から「到達点」に変わることで,関係者にとって,何をいつまでにどれくらいまで進めればいいのか,ということが明確になる.
第五章|知的ストックを厚くする
75|ストックが厚くなると洞察力が上がる
- 洞察力とは,以下の二つの問いに対して答えを出す力:
- 「目に見えない現象の背後で何が起きているのか?」
- 「この後,どのようなことが起こり得るのか?」
76|知的ストックで常識を相対化する
- スティーブ・ジョブズは,カリグラフィーの美しさを知っていたからこそ「なぜ,コンピューターフォントはこんなにも醜いのか?」という問いを持つことができた.
77|知的ストックで創造性が高まる
78|ストックを厚くするべき知識分野
- 対象の分野について,三〜五冊程度,定番といわれる概説書や教科書に目を通しておけば,一般的な文脈での知的生産に十分なレベルの知的ストックは構築できる.
- 知的生産においては何よりも差別化が重要.
- 人と異なるストックを構築して,そこから生まれるユニークな情報の組み合わせ=アイデアによって差別化する.
- そのためにはなんといっても「人と違うインプット」が求められる.
79|読みたい本だけを読む
- ある本を読んで人が面白いと思えるかどうかは,読み手の文脈次第.
80|メタファー的読書とメトノミー的読書を使い分ける
- 大事なのは,一冊の本が与えてくれた疑問やテーマを軸にして読書を展開していくことで,一冊一冊の本を数珠のようにつなげていくこと.
- なんの関係性もない本をバラバラに読んでいっても,こういう絵柄は立ち上がってこない.
- 効率的に分厚い知的ストックを作るためには,自分なりの好奇心やテーマを設定して,本と本を数珠でつないでいくようなイメージ,しりとりをやっていくようなイメージでインプットする.
- そして,インプットされた情報が,他のどの情報とつながっているかをイメージしてみることで,効率的に知的ストックを厚くすることができる.
83|英語でのインプットを心がける
- インプットを日本語に限定してしまうと,知的ストックは非常に偏ったものになってしまいかねない.
- インプットの量・質を向上させて良質な知的ストックを作りたいと思うのであれば,積極的に英語でのインプットを心がける.
84|常に「問い」を持つ
- インプットの量を恒常的に高い水準に保つためのカギの一つが「好奇心」.
- 好奇心というのは要するに質問をたくさん持っているということ.
- 「これはどうなっているんだろう?」「なぜなんだろう?」「恐らくこうなっているんじゃないかな?」という問いを持って,その問いに対する答えを得るためにインプットを行うと,インプットを楽しめるばかりでなく,定着率も高まって結果的にストックも充実する.
86|ガベージイン=ガベージアウト
- まずは名著・定番といわれているもの,つまり「ハズレ」がなさそうな評価の確立したインプットをしっかり押さえることが重要.
- 評価の確立していない新刊のビジネス本をあれこれつまみ食いするよりも,名著・定番を繰り返し,繰り返し読んで考える方が時間の費用対効果としては高い.
- 「深く鋭く読むべき本を見つけるために,大量の本を浅く流し読みする」
- ある程度,古典や名著に通暁してくると,「ゴミ」に対して目が利くようになってくる.
87|身の丈にあったインプットを
- どんなに名著・定番といわれている本であっても,自分の関心や身の丈に合わないインプットは結局のところストックとして定着しない.
88|欠損があっても構わない
- 知識の欠損を埋めるために全方位に厚い知的ストックを形成させようとすると,自分の時間という貴重な戦略資源を逐次分散投入させてしまう可能性がある.
- いつもは六十点でやりすごしながら,ココゾというときに百五十点を取りにいく,というのが知的生産における勝ち方.
89|「いいインプット」を見極める二つの軸
- 「いいインプット」を見極めるには二つの軸がある:
- 「世間の評価」:「名著・定番」or「未評価・新刊」
- 「自分の評価」:「面白い」or「つまらない」
91|「時間を防御する」という意識を持つ
- よほど意識的に自分の時間を防御しない限り,インプットのための時間は他の誰かに奪われ,その人の富に変換されてしまう.
- 時間というのは個人が自由に分配の意思決定をできる唯一の投資資源.
- その時間を良質なインプットのために使えば,その時間は自分の正味現在価値に変換される.
- 自分の時間を奪いに来るさまざまな組織や個人から,自分の時間をできる限り防御する,という意識を持つ.
96|情報という魚を選り抜く
- 興味深い情報,感銘を受けた逸話など,「オッ」と思うような情報に接したら,とにかくその情報を採集しておく.
97|情報という魚に優先順位をつける
アンダーラインを引きつつ一冊の本を読了したら,アンダーラインを引いた箇所のうち,どこをイケスに放り込むかを選別します.
ここでポイントになるのが,優先順位付けによる選抜です.アンダーラインの箇所がどんなに多かったとしても,イケスに放り込むのは九つまで,としてください.
なぜかというと,あまりに多いと,アンダーラインを書き写すという作業そのものに嫌気がさしてしまうからです.
- 転記先の条件は「どこからでも精度の高い検索ができる」こと.
- 選り抜きを転記する最大の目的は「忘れる」ため.