大局観
- 作者:羽生 善治
- 発売日: 2011/02/10
- メディア: 新書
第一章|大局観
1|検証と反省
- 将棋界には,「反省はするが,後悔はしない」という言葉がある.
- 確かに反省は必要だが,それが済めばいつまでもうじうじと後悔する必要はなく,その経験や体験を自分自身の実力を上げていくうえで必要不可欠なプロセスとして受け止め,消化し,昇華させることが大切なのである.
- 「勝ちに不思議の勝ちあり,負けに不思議の負けなし」
- 勝負事には「幸運な勝利」はあっても,「不運な負け」はない.「負け」には何かしらの理由がある.
- いったい何が負けの原因だったのか,きちんと検証し,反省する必要がある.
- 選択肢が多ければ多いほど,いろいろな可能性があるということになるが,そのぶん,迷いや後悔は多くなる.
- ここが現代の抱えているジレンマでもあるし,ぜいたくな悩みと言えるのかもしれない.
2|感情のコントロールはどこまで必要か
- 「読み」とは,ロジカルに考えて判断を積み上げ,戦略を見つける作業のこと.
- 将棋では,自分がこう指すと相手がああ指す,そこで自分はこう指すと,次の手,またその次の手を,順を追って考えていくことで結果の可能性を探る.
- 一方,「大局観」とは,具体的な手順を考えるのではなく,文字通り,大局に立って考えること.
- パッとその局面を見て,今の状況はどうか,どうするべきかを判断する.
- 複雑な状況で決断を下す時は,この「大局観」で無駄な「読み」を省略でき,正確性が高まり思考が速くなる.
- 「大局観」を身につけると,未知の場面にも対応できるようになり,失敗を回避する方法ができ,さまざまな場面における重要な要素を抜き出せるようになる.
- 「大局観」は多くの経験から培われるもので,自分以外の人間の過去のケースをたくさん見ることでも磨かれていく.
- いわば,「大局観」には,その人の本質的な性格や考え方がとても反映されやすい.
- 経験を積めば積むほど「大局観」の精度は上がっていく.
日常の練習も,対局中の決断には重要な要素であると思う.
「あれだけ頑張ったのだから間違えるわけがない」と思えれば,実際に間違えないかどうかは別として,自信を持って決断ができるだろうし,それが迷いを消すことにもなる.
3|リスクを取らないことは最大のリスクである
私は三つのことを駆使して対局にのぞんでいる.
一つは「直感」.そして「読み」.もう一つが「大局観」である.
これらを組み合わせて次の手を考えている.
4|ミスについて
- 答えが出ない時にどの手を指すかということは,棋士が最も悩むところだが,ある意味では最も面白いところでもある.
- 答えがわからない場面は,必ず出てくる.その時に何をするのか,どのように考えるのかが,とても大事なことなのである.
- 上達して進歩するプロセスとは,ミスを徐々に少なくしていくことである.
将棋に限らず日々の生活のなかでも,一つの選択によって極端にプラスになるわけでもないし,取り返しのつかないマイナスになるわけでもない.
地道にプラスになるような小さな選択を重ねることで,いつか大きな成果に至るのではないかと思っている.
第二章|練習と集中力
1|集中力とは何か
- 「大局観」とは具体的に,全体を見渡す,上空から眺めて全体像がどうなっているかを見ることである.
- たとえば,道に迷ったとき,空からその地形を見て,右に行けばいいとか,左に行けば近いとか,また,この道を行けば行き止まりだとかを瞬時に把握すること.
- 集中に関して何が重要かと考えると,それはモチベーションである.
- やる気のないなかで集中を作り出すのは至難の業だ.裏を返せば,モチベーションが上がれば自然に集中力も増すことになる.
- 時間の感覚が残っている時は,浅い集中だと思っている.
2|逆境を楽しむこと
- 本人が無気力では,どんなに潜在的な能力があっても,優れた資質があっても,多くの時間があっても,何も残すことができない.
- モチベーションの高さが才能を開花させる
- 才能に恵まれたのではなく,偶然の幸運によって情熱を注ぐ対象にめぐり会うことができた,ということに尽きるのではないか.
- モチベーションを上げて結果を出すための方法として,目標を設定するやり方がある.
- もう少し頑張れば今までと異なる景色が見える"次なるステージ"を目標とすること.
3|毎日の練習がもたらす効果
- 「続けること」は偉大な才能である.
- 「地道に,確実に,一歩一歩進み続けることができる」ということこそが,最も素晴らしい才能だと思うのだ.
- 毎日,着実に練習を続けていくには,モチベーションを保ち続けなければならない.
- そのための大事な要素となるのは,「意外性」ではないだろうか.
- 意表を突くような「意外性のある出来事」が起こると,それがほどよい刺激となり,モチベーションを維持するうえで効果があるように思うのである.
- 「慣れ」によって余裕が生まれる.
- 将棋や自転車に限らず,ものごとを言語化して説明できるようになるためには,対象に関する深い理解と洞察が必要のようだ.
- たくさんの詰め将棋の問題を解き慣れることによって,美的センスが磨かれていく効果もあると私は思っている.
- 詰め将棋の場合,手順の美しさや型の美しさがわかるようになると,格段にスピードが上がる.
十代の頃には,江戸時代に創作された詰め将棋をよく解いていた.とにかく難しかったという印象がある.
一日考えてもわからないことがしょっちゅうあり,つまずいてしまうと一週間,一ヶ月と時間がすぐに過ぎてしまう.
それでも続けられたのは,手順の美しさと構想力に感動したからだ.その感動が,問題に挑戦を続ける大きな原動力となった.
- 基本や基礎をしっかりと固めるためには,とにかくある一定のまとまった時間を費やさなければ身に付かないし,そこからの大きな進歩も考えられない.
- 停滞期には,どうしてもモチベーションが落ちてしまうので,練習の質を見直すアプローチは,気持ちを切り替える意味でも効果があるような気がする.
- さらに私は,練習をする意味として,安心を買っている面もあると思っている.
- 「これだけ努力をしたのだから大丈夫だろう」「これだけ頑張ったのだからミスをするわけがない」という気持ちになるために,たくさんの練習をするわけだ.
4|教える事について
- 教えてもらう前に,自分で考える習慣をつけることが大事.
人間というのは,自分でわかっていることに関しては手早くポイントだけを取り出して相手に教えて,たくさんの説明をつい省略してしまいがちだ.
そのせいで,教わる側が理解しにくくなってしまうこともある.人に教えるときには,自分が理解した時点まで戻ってていねいに相手に伝えないと,うまく理解してもらえないのではないか.
また,そのプロセスのなかで,教わる側が積極的に質問することがとても重要だと思う.質問をすれば,何を理解していないのか,何を誤解しているのかが,教える側にとてもよくわかるからだ.
それに,同じことでも繰り返し説明されることによっ,理解が深まるケースも多い.
- 一方的に入ってきた知識は,一方的に出て行きやすい.しかし,自分で体得したものは出て行きにくい.
第三章|負けること
4|知識とは
- 「大局観」では「終わりの局面」をイメージする.
- 最終的に「こうなるのではないか」という仮定を作り,そこに「論理を合わせていく」ということである.
- 情報や知識を集めたとしても,それだけでは大きな意味や価値を持たない,あるいはその価値は日々,下落を続けている.
- なぜなら,知識は実際に活用することによって,初めて意義を持つから.
- 必要な情報・知識というのは,日々刻々と変わってゆくものだから,大胆に捨ててしまい,必要なタイミングで拾い上げればいい.
- そして,拾い上げた情報を基本に新たな創造をして,供給側に回るわけである.
5|直感について
直感とは,数多くの選択肢から適当に選んでいるのではなく,自分自身が今までに積み上げてきた蓄積のなかから経験則によって選択しているのではないかと,私は考えている.
だから,研鑽を積んだ者でなければ直感は働かないはずだ.たくさんの実戦を経験するなかで,考える材料が増えてゆき,少しずつではあるが,直感の精度が上がっていったのだと思っている.
ある程度の経験を積まないことには,磨かれた直感にはならないのである.
- 経験を積む以外に直感を磨く方法は,自分のとった行動,行った選択を,きちんと冷静に検証すること.
- きちんと論理立てをして説明できるのが直感で,なんだかわからないがこの方が良いと考えるのが閃き.
- 直感も閃きも,あまり過信せず,一つのツールとして上手に使いこなすのが肝要.
第五章|理論・セオリー・感情
1|勝利の前進
- 真面目とは,「表面的なことにとどまらない本質的な意味を知る,理解する」という意味.
- ものごとの奥深くにある場所まで到達するためには,真面目な態度でなければならない,ということ.
5|ブラック・スワン
- 実戦では十手先を予想するのはとても難しい.