イシューからはじめよ
はじめに|優れた知的生産に共通すること
- 「圧倒的に生産性の高い人」に共通していること:
- 彼らは「ひとつのことをやるスピードが10倍,20倍と速いわけではない」ということ.
意味あるアウトプットを一定期間内に出す必要のある人にとって,本当に考えなければならないことは何か.
この本はそのことに絞って紹介したい.
- 「何に答えを出すべきなのか」についてブレることなく活動に取り組むことがカギ.
序章|この本の考え方──脱「犬の道」
常識を捨てる
- この本の考え方として代表的なもの:
- 「問題を解く」より「問題を見極める」
- 「解の質を上げる」より「イシューの質を上げる」
- 「知れば知るほど知恵が湧く」より「知りすぎるとバカになる」
- 「1つひとつを速くやる」より「やることを削る」
- 「数字のケタ数にこだわる」より「答えが出せるかにこだわる」
- この本で言うところの「生産性」の定義は,「どれだけのインプット(投下した労力と時間)で,どれだけのアウトプット(成果)を生み出せたか」ということ.
- イシュー(issue)の定義:
- a matter that is in dispute between two or more parties(2つ以上の集団の間で決着のついていない問題)
- a vital or unsettled matter(根本に関わる,もしくは白黒はっきりしていない問題)
- 「イシュー度」:「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」
- 「イシュー度」の低い仕事は,どんなにそれに対する「解の質」が高かろうと,受益者(顧客・クライアント・評価者)から見たときの価値はゼロに等しい.
- 「解の質」:「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」
世の中にある「問題かもしれない」と言われていることのほとんどは,実はビジネス・研究上で本当に取り組む必要のある問題ではない.
世の中で「問題かもしれない」と言われていることの総数を100とすれば,今,この局面で本当に白黒をはっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ.
働いた時間ではなく,「どこまで変化を起こせるか」によって対価をもらい,評価される.
あるいは「どこまで意味のあるアウトプットを生み出せるか」によって存在意義が決まる.
そんなプロフェッショナル的な生き方へスイッチを入れることが,高い生産性を生み出すベースになる.
第1章|イシュードリブン──「解く」前に「見極める」
イシューを見極める
- 「何に答えを出す必要があるのか」という議論からはじめ,「そのためには何を明らかにする必要があるのか」という流れで分析を設計していく.
- チーム内で「これは何のためにやるのか」という意思統一をし,立ち返れる場所をつくっておく.
- 生産性が下がってきたときには,「そもそもこれは何に答えを出すプロジェクトだったのか」ということを整理する.
- イシューを見極めるためには「実際にインパクトがあるか」「説得力あるかたちで検証できるか」「想定する受け手にそれを伝えられるか」という判断が必要となり,ここにはある程度の経験と「見立てる力」が必要になる.
仮説を立てる
- 答えを出すべきイシューを仮説を含めて明確にすることで,ムダな作業が大きく減る.つまり生産性が上がる.
- 「これがイシューかな?」「ここが見極めどころかな?」と思ったら,すぐにそれを言葉にして表現することが大切.
- イシューを言葉で表現することではじめて「自分がそのイシューをどのようにとらえているのか」「何と何についての分岐点をはっきりさせようとしているのか」ということが明確になる.
- 人間は言葉にしない限り概念をまとめることができない.
- 言葉を使わずして人間が明晰な思考を行うことは難しい.
- イシューと仮説を言葉で表現するときのポイント:
- 主語と動詞を入れた文章にするとあいまいさが消え,仮説の精度がぐっと高まる.
- 「AかBか」という見極めが必要なイシューであれば,「〜はB」というより「Aではなくて,むしろB」という表現にしたほうが何と何を対比し,何に答えを出そうとしているのかが明確になる.
よいイシューの3条件
- よいイシューの3つの共通項:
- 本質的な選択肢である
- 深い仮説がある
- 答えを出せる
- 「きっちりと答えを出せる」ものでなければならない.
- 「今,本当に答えを出すべき問題であり,かつ答えを出せる問題=イシュー」は,僕らが問題だと思う対象全体の1%ほどに過ぎない.
条件①|本質的な選択肢である
- よいイシューはすべからく,それに答えが出るとそこから先の検討方向性に大きく影響を与えるもの.
- 「本質的な選択肢=カギとなる質問」
- 一見イシューのように見えても,その局面で答えを出す必要のないもの,答えを出すべきでないものは多い.
- イシューとは,「今,答えを出さなければならないこと」.
条件②|深い仮説がある
- ふつうであれば「ここまでスタンスをとるのか」というところまで一気に踏み込んでいる.
- 一般的に信じられている信念や前提を突き崩せないかを常に考えるようにしたい.
- 「人が何かを理解する」というのは,「2つ以上の異なる基地の情報に新しいつながりを発見する」ことだと言い換えられる.
条件③|答えを出せる
- どのようにアプローチをしようとも既存のやり方・技術では答えを出すことはほぼ不可能という問題は多い.
- 「答えを出せる範囲でもっともインパクトのある問い」こそが意味のあるイシューとなる.
- 「答えが出せる見込みがほとんどない問題」があることを事実として認識し,そこに時間を割かないことが重要.
イシュー特定のための情報収集
- イシューを明確化し,肝となる検証をスピーディに進め,仮説を刷新してこそ,真に生産性の高い毎日が実現する.
第2章|仮説ドリブン①──イシューを分解し,ストーリーラインを組み立てる
イシュー分析とは何か
- 生産性を劇的に高めるためにもっとも重要なのは,「本当に意味のある問題=イシューを見極めること」.
- だが,これだけでは「バリューのある仕事」は生まれない.
- イシューを見極めたあとは「解の質」を十分に高めなければならない.
-解の質を高め,生産性を大きく向上させる作業が,「ストーリーライン」づくりとそれに基づく「絵コンテ」づくり.
- この2つを合わせて「イシュー分析」と言う.
- 劇的に生産性を高めるには「このイシューとそれに対する仮説が正しいとすると,どんな論理と分析によって検証できるか」と最終的な姿から前倒しで考える.
STEP1|イシューを分解する
- 多くの場合,イシューは大きな問いなので,いきなり答えを出すことは難しい.
- そのため,おおもとのイシューを「答えを出せるサイズ」にまで分解していく.
- 分解したイシューを「サブイシュー」という.
- サブイシューを出すことで,部分ごとの仮説が明確になり,最終的に伝えたいメッセージが明確になっていく.
- イシューを分解するときには「ダブりもモレもなく」砕くこと,そして「本質的に意味のある固まりで」砕くことが大切.
- 「最後に何がほしいのか」から考え,そこから必要となる要素を何度も仮想的にシミュレーションをすることが,ダブりもモレもないイシューの分解の基本となる.
- イシューを分解し,課題の広がりを整理することには,次の2つの効用がある:
- 課題の全体像が見えやすくなる
- サブイシューのうち,取り組む優先順位の高いものが見えやすくなる
- 仮説はイシューを分解したあとでも非常に大切.
- イシューを分解して見えてきたサブイシューについてもスタンスをとって仮説を立てる.
- 見立て(仮説のベースとなる考え)があればそれに越したことはないが,なくても強引にスタンスをとる.
- あいまいさを排し,メッセージをすっきりさせるほど,必要な分析のイメージが明確になるから.
STEP2|ストーリーラインを組み立てる
- イシューを分解し,そのサブイシューに個々の仮説が見えれば,自分が最終的に何を言わんとするのかが明確になる.
- 最終的に言いたいことをしっかりと伝えるために,どのような順番でサブイシューを並べるのかを考える.
- 必要な問題意識・前提となる知識の共有
- カギとなるイシュー,サブイシューの明確化
- それぞれのサブイシューについての検討結果
- それらを総合した意味合いの整理
- 人に何かを理解してもらおうとすれば,必ずストーリーが必要になる.
- それが研究であれば論文の流れであり,ビジネスであればプレゼンの流れである.
- どういう順番,流れで人に話をすれば納得してもらえるのか.さらには感動・共感してもらえるのか.それを,分解したイシューに基づいてきっちりと組み立てていく.
- ストーリーラインは検討が進み,サブイシューに答えが出るたびに,あるいは新しい気づき・洞察が得られるたびに,書き換えて磨いていくもの.
- ストーリーラインは生きものであり,分析もデータ収集もすべてはこれにしたがう「しもべ」に過ぎない.
- ここで明確な言葉にできない考えは,結局のところ人に伝えることができない. - ストーリーラインづくりの基本形は「空・雨・傘」と呼ばれるもの:
- 「空」──〇〇が問題だ(課題の確認)
- 「雨」──この問題を解くには,ここを見極めなければならない(課題の深堀り)
- 「傘」──そうだとすると,こうしよう(結論)
第3章|仮説ドリブン②──ストーリーを絵コンテにする
(実験には)2つの結果がある.
もし結果が仮説を確認したなら,君は何かを計測したことになる.
もし結果が仮設に反していたら,君は何かを発見したことになる.
絵コンテとは何か
- イシューが見え,それを検証するためのストーリーラインもできれば,次は分析イメージをデザインしていく.
- 基本はいつでも,「最終的に伝えるべきメッセージ(=イシューの仮説が説明されたもの)」を考えたとき,自分ならどういう分析結果があれば納得するか,そして相手を納得させられるかと考えること.
- 「どんなデータがあれば,ストーリーラインの個々の仮説=サブイシューを検証できるのか」という視点で大胆にデザインする.
STEP1|軸を整理する
- 単に「〇〇について調べる」ではなく「どのような軸でどのような値をどのように比較するか」ということを具体的に設計する.
- 「分析とは何か?」
- 「分析とは比較,すなわち比べること」
- 分析と言われているものに共通するのは,フェアに対象同士を比べ,その違いを見ること.
- つまり,分析では適切な「比較の軸」がカギとなる.
- どのような軸で何と何を比較するとそのイシューに答えが出るのかを考える.
定性的な分析であろうと定量的な分析であろうと,どのような軸で何と何を比べるのか,どのように条件の仕分けを行うのか,これを考えることが分析設計の本質だ.
STEP2|イメージを具体化する
- 実際にチャートのイメージを描くと,どのぐらいの精度のデータが必要か,何と何の比較がカギになるのかがはっきりする.
- 仮説で「急に変化が大きく出るだろう」と思うところがあれば,そのあたりについては細かくデータを取っておく必要がある.
- 分析,また分析的な思考における「意味合い」は,「比べた結果,違いがあるかどうか」に尽きる.
- 明確に理解し得る違いとして,典型的なのは次の3つ:
- 差がある
- 変化がある
- パターンがある
- 「こういう結果がほしい」と思いつつ,楽しみながらやっていくことがコツ.
- 明確に理解し得る違いとして,典型的なのは次の3つ:
知覚の特徴から見た分析の本質
- 知覚の視点から見たとき,留意しておきたい神経系の特徴が4つある:
- 閾値を超えない入力は意味を生まない
- 不連続な差しか認知できない
- 理解するとは情報をつなぐこと
- 情報をつなぎ続けることが記憶に変わる
第4章|アウトプットドリブン──実際の分析を進める
アウトプットを生み出すとは
- 僕たちがやっているのは「限られた時間で,いかに本当にバリュー(価値)のあるアウトプットを効率的に生み出すか」というゲーム.
- どれだけ価値のあるイシュー度の高い活動に絞り込み,そのアウトプットの質をどこまで高めることができるか,それを競うゲーム.
- ストーリーラインと絵コンテに沿って並ぶサブイシューのなかには,必ず最終的な結論や話の骨格に大きな影響力を持つ部分がある.
- そこから手をつけ,粗くてもよいから,本当にそれが検証できるかについての答えを出してしまう.
- 重要な部分をはじめに検証しておかないと,描いていたストーリーが根底から崩れた場合に手がつけられなくなる.
トラブルをさばく
- 「できる限り先んじて考えること,知的生産における段取りを考えること」を英語で「Think ahead of the problem」と言う.
- これは所定時間で結果を出すことを求められるプロフェッショナルとして重要な心構え.
軽快に答えを出す
「いわゆる天才とは次のような一連の資質を持った人間だとわしは思うね.
・仲間の圧力に左右されない.
・問題の本質が何であるかをいつも見失わず,希望的観測に頼ることが少ない.
・ものごとを表すのに多くのやり方を持つ.一つの方法がうまく行かなければ,さっと他の方法に切り替える.
要は固執しないことだ.多くの人が失敗するのは,それに執着しているというだけの理由で,なんとかしてそれを成功させようとまず決め込んでかかるからじゃないだろうか.
ファインマンと話していると,どんな問題が持ち上がっても,必ず<いやそれにはこんな別の見方もあるよ>と言ったものだった.
あれほど一つのものに固執しない人間をわしは知らないよ」
- 停滞を起こす要因として,最初に挙げられるのが「丁寧にやり過ぎる」こと.
- 「60%の完成度の分析を70%にする」ためにはそれまでの倍の時間がかかる.80%にするとさらに倍の時間がかかる.
- 一方で,60%の完成度の状態で再度はじめから見直し,もう一度検証のサイクルを回すことで,「80%の完成度にする半分の時間」で「80%を超える完成度」に到達する.
- 一回ごとの完成度よりも,取り組む回数(回転数)を大切にする.
- 「完成度よりも回転数」「エレガンスよりもスピード」という姿勢を実践することで,最終的に使いものになる,受け手にとって価値のあるアウトプットを軽快に生み出すことができる.
第5章|メッセージドリブン──「伝えるもの」をまとめる
「本質的」「シンプル」を実現する
- イシュー,それを基にしたストーリーラインに沿って分析・検証が済んだら,あとはイシューに沿ったメッセージを人に力強く伝わるかたちでまとめる.
- 「イシュー度」が高く,「解の質」も高いアウトプットだけが人の心にインパクトを与え,価値を納得させ,本当に意味のある結果を生み出すことができる.
- プレゼンテーションや論文は,第一に聞き手・読み手と自分の知識ギャップを埋めるためにある.
- 聞き終わったとき,あるいは読み終わったときに,受け手が語り手と同じように問題意識をもち,同じように納得し,同じように興奮してくれているのが理想.
- このためには,受け手に次のようになってもらう必要がある:
- 意味のある課題を扱っていることを理解してもらう
- 最終的なメッセージを理解してもらう
- メッセージに納得して,行動に移してもらう
- 「イシューからはじめる」という当初から貫いてきたポリシーそのままに,「何に答えを出すのか」という意識を発表(プレゼン・論文)の全面に満たす.
- シンプルにムダをなくすことで受け手の問題意識は高まり,理解度は大きく向上する.
- 「イシューからはじめる」世界では「何となく面白いもの」「たぶん大切だと思うもの」などは要らない.
- 「本当にこれは面白い」「本当にこれは大切だ」というイシューだけがあればよい.
- 複雑さは一切要らない.意識が散るようなもの,あいまいなものはすべて排除する.ムダをそぎ落とし,流れも構造も明確にする.
ストーリーラインを磨き込む
プロセス①|論理構造を確認する
- イシューもそれを支えるサブイシューも明確で,それを検証するための話の構造は,結論をピラミッド型に支える「WHYの並べ立て」もしくは「空・雨・傘」のいずれかをとっているはず.
- カギとなる洞察や理由はダブりもモレもない状態であることを確認する.
プロセス②|流れを磨く
- 優れたプレゼンテーションとは,「ひとつのテーマから次々とカギになるサブイシューが広がり,流れを見失うことなく思考が広がっていく」もの.
- 最終的なメッセージを明確な論理の流れのなかで示していくことが理想.
- 聞き手には「わかりやすいか」という視点とともに,「聞いていて引っかかるところはないか」という視点でもコメントをもらう.
プロセス③|エレベータテストに備える
- エレベータテストとは「仮にCEOとエレベータに乗り合わせたとして,エレベータを降りるまでの時間で自分のプロジェクトの概要を簡潔に説明できるか」というもの.
- このテストによって,「自分がそのプロジェクトや企画,論文についてどこまで本当に理解し,人に説明し,ひいては売り込めるようになっているか」について測ることができる.
チャートを磨き込む
- チャートは「メッセージ・タイトル・サポート」という3つの要素からできている.
- 優れたチャートが満たすべき条件というのは以下の3つに収斂する:
- イシューに沿ったメッセージがある
- 1チャート1メッセージを徹底する.2つ以上のメッセージを突っ込んだとたんにわけがわからなくなる.
- 「何を言うか」とともに「何を言わないか」も大切になってくる.
- 浮世絵や枯山水の庭と同様,焦点を絞り,本筋に関係のないところは大胆に削り捨てる.
- 枝葉の小さな論点が太い論点を濁らせることは避けたい.
- (サポート部分の)タテとヨコの広がりに意味がある
- タテとヨコの比較軸を磨く
- 軸の切り口を思い切って見直すことで,分析がすっきりして,意味合いがはっきりするケースは多い.
- サポートがメッセージを支えている
- メッセージと分析表現を揃える
- この分析(サポート)で本当にこのメッセージが明確に検証できるのかをチェックする.
- 単なるデータの集積ではなく,本当に何かを伝えるためのチャートが生まれる.
- イシューに沿ったメッセージがある
「コンプリートワーク」をしよう
- 「人から褒められること」ではなく,「生み出した結果」そのものが自分を支え,励ましてくれる.
- 生み出したものの結果によって確かに変化が起き,喜んでくれる人がいることがいちばんの報酬になる.
- クライアントや自分の会社に約束した価値を無事届けた,このこと自体が何とも言えない達成感を生む.
おわりに|「毎日の小さな成功」からはじめよう
- 毎日の仕事・研究のなかで「この作業って本当に意味があるのか?」と思ったら立ち止まってみよう.
- そして,「それは本当にイシューなのか?」と問いかけることからはじめよう.