自由闊達にして愉快なる
井深大 自由闊達にして愉快なる―私の履歴書 (日経ビジネス人文庫)
- 作者:井深 大
- 発売日: 2012/11/02
- メディア: 文庫
第2部|その後の井深大
1 トリニトロン開発物語
- 井深の意地・哲学:
- 人のやらないことをやる,人のまねは絶対にしない.
- 顧客を驚かすほどの技術でなければ,開発する意味がない.
井深の足跡をたどると,何を開発するかという目標は,自分の好奇心や興味に基づいている.
天才といえるのは,その目標がだいたいにおいて結果的に大衆の潜在的なニーズと重なっていたことだ.
「ウォークマン」も,井深がこんなものが欲しいと言ったところから始まっている.
- 目標(作るもの)をまず明確にして開発を引っ張る「ターゲット・ドリブン」が固い信念だったため,「基礎研究のための基礎研究を嫌った」.
- ことをなすリーダーは,異常な粘り強さを備えている.
- 井深は,何事も頭だけで理屈をこねて「できません」というのを嫌った.
- 駄目でもともとの精神で,まずやってみようという姿勢を貫いてきた.それが当時のソニーの社風になっていた.
「勘です.感性ですよ.私はそんなに頭がよくないから,理屈を理解してその理屈の上に立ってどうこうと判断しない.
(中略)日本の教育は知性ばかりで,感性というものを育てようとしない.
感性を育てる教育をぜひ進めるべきだと,心からそう思いますね」.
4 技術者としての信念
「真のコミュニケーションは,相互に自分の意志をはっきり示し,意見が通じることを確認し合って,はじめて成り立つものであります.
社内の最近の動きをみていると,命令を下し,それに対する結果を報告することぐらいでコミュニケーションが完全に行われているのだと思っているふしが,多々見受けられます」.
- 「井深さんがデジタルを嫌ったのは,人間の感性をものすごく大切にしていたからだと思います」
- さらに井深は「シンプル・イズ・ベスト」という設計思想を持っていた.
- 複雑な機構を認めず,無駄のない簡潔な設計を最上と考えて譲らなかった.
- 自分の考えに合わないものでも.担当者が熱意をもって取り組むのならば,やらせてみるかと目をつぶる柔軟さもまた,井深の一面だった.
5 ウォークマン開発,もう一つの物語
- 何から何まで常識破りだったから,空前の世界的な大ヒットになった.
- 音楽は部屋で静かに聴くものという通年を取り払い,戸外でも楽しめるという新しいライフスタイルを提案した点で,まさにイノベーションだった.
6 衰えぬ探究心
- 「教育の内容を切り換え,知識重点から,人間の心へと重点を移す」と提案している.
- 「二十一世紀の人類のかぎりない発展のためには,科学技術だけに頼ってはダメであって,"心"の開発が同時に進展しなければならないだろう」とも書いている
井深大語録
- 「いたずらにつまらぬ競争の渦中に飛び込むよりは,新しい分野を開拓してゆく事こそ,ソニーの進むべき最善にして唯一の道であると,私は確信している.」
- 「なぜソニーはそんなに大きく期待される様になったかといいますと,まず第一に,ソニーは人の真似をしないということでしょう.第二には,何でもかんでも作るというのではなく,出すからには人々にピンとくるものをピンとくる様な方法で出すということでしょう.」
- 「自分の働くところを,自分の才能をどう伸ばすべきかを本気になって考えてほしい.自分の能力が最高に発揮できる,もてる力をフルに発揮して自分というものをさらに高めることのできる場所を探すのは,あなたの権利であり義務である.人に頼ってはならない.あなたのことをあなた以上に知っている人はいないのだ.」
- 「私どもの研究,開発は,理解の解明を行っているのではなく,具体的に,ソニーの役に立つ,社会の役に立つものに形づけていくことが必要です.われわれは理学をやっているのではなく,工学をやっている.そこに大きな違いがあります.」
- 「私は日本の企業が量で競争するのは,限界に近づいていると思います.全然新しい分野のものを造り出し,新しいインダストリーを造り出していくという心構えをもたなければなりません.」
- 「ただ与えられたものだけをこなしていくだけでは,21世紀の世の中では通用しないだろうと思います.時には,型破りで枠からはみ出たことも,勇気と野心と熱意を持って,実際の行動に移していかなければなりません.」