「言葉にできる」は武器になる。

「言葉にできる」は武器になる。

「言葉にできる」は武器になる。


はじめに

  • 考えていないことは口にできないし,不意を突かれて発言をするとき,つい本音が出てしまう.

「思考の深化なくして,言葉だけを成長させることはできない」




1.「内なる言葉」と向き合う

言葉で評価される時代

  • 人間は,相手の言葉に宿る重さや軽さ,深さや浅さを通じて,その人の人間性そのものを無意識のうちに評価している.
  • 「内なる言葉」:
    • 日常のコミュニケーションで用いる言葉とは別物であり,無意識のうちに頭に浮かぶ感情や,自分自身と会話することで考えを深めるために用いている言葉
    • 物事を考えたり,感じたりするときに,無意識のうちに頭の中で発している言葉
  • 考えるという行為は,頭の中でこの「内なる言葉」を駆使していると言い換えることもできる.
  • 「今自分が何を考えているのか」「頭の中にどんな内なる言葉が生まれているのか」を正確に把握することで,自然と「外に向かう言葉」が磨かれていく.

言葉には2つの種類がある─「外に向かう言葉」と「内なる言葉」

「言葉が意見を伝える道具であるならば,まず,意見を育てる必要がある」

  • 「相手が聞きたいのは意見であって,言葉そのものではない」
  • 言葉を生み出すプロセスには,次の二段階が存在する:
    1. 意見を育てる
    2. 意見を言葉に変換する
  • 歌川広重の作品(大はしあたけの夕立)によって「雨は線のように降っていたんだ」と気付き,認識するようになった: artsandculture.google.com

考えているのではない。頭の中で「内なる言葉」を発しているのだ。

「内なる言葉」と向き合う

  • 頭で考えていることを書いてみたり,口に出してみようとすると,言葉に詰まったり,思うように表現できないことが多い.
    • なぜなら,頭に浮かぶ「内なる言葉」は,単語や文節といった短い言葉であることが多く,頭の中で勝手に意味や文脈が補完されることで,あたかも一貫性を持っているかのように錯覚してしまうからである.

言葉にできないということは「言葉にできるほどには,考えられていない」ということと同じである.

どんなに熟考できていると思っていても,言葉にできなければ相手には何も伝わらないのだ.

  • 1人の時間を確保し,自分自身の中から湧き出る「内なる言葉」と向き合う.
    • ある出来事が起きたときに,どのような内なる言葉が生まれ,どのように物事を捉え,考えが進んでいくのかを,自分自身が把握すること.
  • 「内なる言葉」に意識を向けることは,「自分が考えがちなこと」と「もっとこうすべきかもしれない」といった傾向と対策を行うことを可能にする効果がある.

「人を動かす」から「人が動く」へ─言葉が響けば,人は自然と動きだす

  • 言葉に重みが生まれる最大の理由は,言葉を発する側の人間が,自身の体験から本心で語っていたり,心から伝えたいと思うことによる「必死さ」「切実さ」に因るところが大きい.

「人を動かすことはできない」.より正確に表現するならば,

「人が動きたくなる」ようにしたり,「自ら進んで動いてしまう」空気をつくることしかできないのだ.

  • 人は,物事に真剣に向き合っている人の意見は信用しようと思うし,自ら協力しようと思う.
    • 他者に思いを伝えるのであれば,それだけ本気で考え,信じていなければならないし,何かを手伝って欲しいと思っているのであれば,成し遂げたいことや理由が明確でなければならない.
    • 自分の考えに確固たる自信を持つためには,考えを深めることが必要不可欠.
  • 言葉を磨くことは,語彙力を増やしたり,知識をつけることではなく,内なる言葉と向き合い,内なる言葉を用いて考えを深めながら自分を知ることから始まる.

最後は「言葉にできる」が武器になる

  • 簡単に話すには,話そうとしていることについて深く知り,全体像を把握していなければならない.

漠然と考えるだけで終わらせるのをやめる.

そして,頭に浮かぶ断片に言葉という形を与え,組み合わせ,足りない文脈を加えるプロセスを行いたい.

この繰り返しによってはじめて,内なる言葉は鮮明なものになり,地層が積み上がるように思考に厚みが生まれていく.

  • 「内なる言葉」に意識を向け続ける習慣こそが重要である

頭の中に浮かぶ言葉をそのままにしておくことなく,単語でも箇条書きでも紙に書いて,見える化する.

すると,考え足りないところが見つかったり,自分の考えていることが表現しきれていない箇所に気付くことができる.




2. 正しく考えを深める「思考サイクル」

内なる言葉の解像度を上げる

  • 2種類の言葉:
    • 会話やメールなどで使っている「外に向かう言葉」
    • 物事を考えるために無意識に使っている「内なる言葉」

内なる言葉を磨く唯一の方法は,自分が今,内なる言葉を発しながら考えていることを強く意識した上で,

頭に浮かんだ言葉を書き出し,書き出された言葉を軸にしながら,幅と奥行きを持たせていくことに尽きる.

「思考サイクル」で正しく考えを深める

  • 「思考サイクル」:
    1. 思考を漠然としたものではなく,内なる言葉と捉える.
    2. 内なる言葉を,俯瞰した目線で観察する.
    3. そして,考えを進めることに集中し,内なる言葉の解像度を上げる.
  • ゲームを行うかのように気軽に取り組んだほうが効果的
    • 真剣に行おうとすればするほど,身体も心も固くなり,内なる言葉を自然に書き出すことができなくなってしまう.

①頭にあることを書き出す<アウトプット>

  • 書き出そうとする作業を習慣化させることが重要であり,その結果「今自分はこう思っている」「こんな言葉が浮かんだ」ということが鮮明になってくる.
  • とにかく書き出す.頭が空になると,考える余裕が生まれる.

②「T字型思考」で考えを進める<連想と深化>

  • 「なぜ?」「それで?」「本当に?」を繰り返す:
    • 「なぜ?」:考えを掘り下げる
      • 「なぜ?」を繰り返すことで,より抽象度が高く本質的な課題について考えることができるようになる.
    • 「それで?」:考えを進める
    • 「本当に?」:考えを戻す
      • より広い視野で物事を捉え直すきっかけになる
  • 常に,自分が考えている抽象度を意識する.
    • 思考の迷子にならないようにするため
    • 思考の迷子は,具体的に突き詰めて考えており,視点が狭くなりすぎているときに起こる

③同じ仲間を分類する<グルーピング>

  • ①②は自分の内面と向き合うという繊細で主観的な作業であるが,③はできるだけ客観的でなければならない.
  • 重複がないようにするための指針・軸:
    • 時間軸:過去or 現在 or 未来
    • 人称軸:自分 or 相手・他人
    • 事実軸:本当のこと or 思い込み
    • 願望軸:やりたいこと or やるべきこと
    • 感情軸:希望 or 不安

⑤時間を置いて,きちんと寝かせる<客観性の確保>

  • 常に1つのことばかりを考えていると,無意識のうちに考えが狭くなってしまったり,冷静な目線を持つことができなくなることがある.
  • 「見つめる鍋は煮えない」:
    • 十分に考えた後で,ゆっくり寝かせる時間を取ると,自然と思考が煮詰まっている.
  • 時間を置くのは,2~3日程度が目安.
  • 求めずして思わぬ発見をする能力のことを「セレンディピティ」と呼ぶ:
    • 日本語では「計画的偶然性」と訳されることも多く,ただの偶然ではない.
    • 日頃からの課題意識と行動によって潜在的に情報感度が高くなり,気づく力が強化されている状態.
  • 先へ先へと急ぐだけでなく,急ぐからこそ時間を置いて,考えを寝かせることも重要.

⑥真逆を考える<逆転の発想>

  • 真逆を考えることで「自分の常識では考えないこと」「考えられなかったこと」「考えが及ばないこと」へと思いを馳せる.
  • 自分の常識とは自分が育ってきた環境における常識でしかなく,他人にとっては非常識であり,言葉を換えれば先入観であることが多い.
    • 真逆を考えることは「自分の常識や先入観から抜け出す」ことにつながり,半ば強制的に別の世界へと考えを広げていくことなのである.
  • 「自分がこれからどのように生きていきたいか」を例にすると,以下のような真逆を考えることが可能になる:
    • 仕事で成功する⇔成功ではなく,いい仕事をする
    • 世の中をあっと言わせたい⇔1人ひとりに寄り添う仕事をする
    • 自分磨きを怠らない⇔仕事で自分を磨く
    • 専門性を高めたい⇔何でも屋になる
    • 同期で一番になる⇔同期なんて気にせず,自分と向き合う
    • 継続は力なり⇔瞬発力で勝負する
  • 否定としての真逆,意味としての真逆,人称としての真逆を用いることで,思考は確実に広がっていく.

⑦違う人の視点から考える<複眼思考>

  • 特定の誰かを思い浮かべることで,その人になりきって,ある課題や物事をどう考えるかを想定してみる.
  • 自分が今相対している製品やサービスに対して,「なぜ買うのか」「なぜ買わないのか」「どこが良かったか」「どこが悪かったか」を考える.
    • しかし,このままではサンプル数1の偏った情報でしかないため,自分ではない誰かを想定しながら考えを進めていく.
      • 例えば,普段からその製品やサービスを利用しているメインユーザー.その逆に,途中で離反してしまった,かつてのユーザー.
  • 人は常に自分という壁の中でしか物事を考えることができない状態にある.
    • その壁を乗り越えるためには,他人の視点から考えることが最も効果的である.
    • そして,自分という壁を越えると,そこにはそれまでの自分では考えも及ばなかったような思考や発想に巡り合うことになる.
  • 「自分の常識という前提」をいかに捨て去るかが,コミュニケーション効率を高めることに寄与するとすら考えて間違いない.

自分との会議時間を確保する

  • 「時間があったらやる」では,結局,時間が取れずに日々が過ぎていってしまう.
    • 「時間があったらやる」は「時間がなかったらやらない」と同意である
  • 「午前中のまとまった時間」を自分との会議時間として確保することをお勧めする.
    • 朝,頭がスッキリしている状態は,物事を考えたり,落ち着いて内なる言葉と向き合うには打ってつけである.
  • 仕事ややるべきことに時間を奪われていくのではなく,自分のスケジュールに仕事ややるべきことを組み込んでいく.こうした時間管理も重要である.
  • 夕方から夜は集中力が散漫になりがちなので,いつでもできる仕事をこなすことを心掛けている.すると,翌日の午前中にやるべきことが減る.
  • 習慣化こそが自分を変える唯一の方法である




3.プロが行う「言葉にするプロセス」

思いをさらけ出す2つの戦略

  • 話すべき内容である自分の思いがあるからこそ,言葉は人の心に響いたり,人の気持ちを動かすことができるようになる.
  • 自分自身の気持ちや思いという素材を磨いていく第2章こそが重要である.そして,内なる言葉を磨いた上で,言葉にする方法について説明するのが,この3章の役割.

戦略1:日本語の「型」を知る

  • 能力のあるなしにかかわらず,知っているかどうかが「差」になることがある.
①たとえる<比喩・擬人>
  • たとえる時は,自分の周りにある言葉を用いること,もしくは,相手が属しているコミュニティで用いている単語を活用することが効果的である.
②繰り返す<反復>
  • 長文を話したり,書く際には,冒頭や文末といった大事なポイントで反復を用いることが効果的である.
    • そうすることで,一気に興味を惹いたり,関心を集めることができるようになる.
③ギャップをつくる<対句>
  • 自分の言いたいことの逆を前半に入れることで,後半の本当に伝えたい内容を際立たせる.
④言いきる<断定>
  • 言いきることは,言いきれるまで考えた結果であり,それがリーダーとしての資質として非常に重要な要素.
  • 断言という形には明確な未来を打ち出す強さとともに,言葉を発する人の本気度が表れている.
    • 断言するほど,本気で信じている.断言できるほど,熟考している.

戦略2:言葉を生み出す「心構え」を持つ

①たった1人に伝わればいい<ターゲッティング>
  • みんなに伝えようとすると,誰にも伝わらない.
  • どんなに大勢の人に向けて話す時でも,特定の1人を思い浮かべながら,「この人にだけは伝えたい」という気持ちで言葉を生み出していく.
    • 経験上,1人の胸に深く染み入る言葉や,心を揺さぶる文章は,多くの人にも同じように響くものである.
②常套句を排除する<自分の言葉を豊かにする>
  • 常套句は誰もが使える便利な言葉であるため,その人だけの気持ちや思いが伝わりにくいという欠点があることに注意したい.
    • ふたりだけのエピソードを交えた言葉に置き換える.
    • 「平素からお世話になっております.」→「先週の打ち合わせ,ありがとうございました.」
③一文字でも減らす<先鋭化>
  • 「考えをまとめた上で,一気に書く」
    • 文章を見直しながら修正する,といった作業をを極力行わない.
    • 見直したり,修正を加えるのは,全体の文章を書いた後である.
  • 書ききった言葉を削りながら,形を整えていく.

言葉にまつわる誤解として最も多いのが,できるだけ丁寧に説明をしたほうが理解が進むであろう,というものがある.

しかし実際には,詳しく説明されるほど分からなくなってしまうことが起こり得る.

情報過多によって,思考が止まってしまっている状態である.

④きちんと書いて口にする<リズムの重要性>
  • 書く言葉,相手にとっての読む言葉を,より読みやすくする簡単な方法:
    • 一度書いてみた言葉や文章を口に出して読んでみる
    • パソコンのディスプレイ上で見ているときや,印刷した紙で目を通しているときには全く気にならなかったにもかかわらず,音読することで気になる点がある.
⑤動詞にこだわる<文章に躍動感を持たせる>
  • 日本語はほとんどの場合,動詞が最後にくることになる.
⑥新しい文脈をつくる<意味の発明>
  • 「〇〇って,△△だ.」で,新しい名前を付ける.
    • 「仕事って,遊びだ.」→「仕事なんて,遊んじゃえ.」
    • 「言葉って,武器だ.」→「言葉にできる,は武器になる.」
  • 重要なのは,新しく生まれた言葉によって人の意識を変えることであり,常識を塗り替えることである.
    • 今まで見えていなかった価値観を可視化する
  • スティーブ・ジョブズは,自分たちエンジニアのことを常にアーティストと呼び,自分たちがいかに繊細で美意識に溢れる仕事をしているかを説いている.
    • 「最高の発明家や技術者っていうのは,実はアーティストなんだ.」
⑦似て非なる言葉を区別する<意味の解像度を上げる>
  • 純化することは,分かりやすさを高めるメリットもある.しかしながら,詳細を排除することで,人の興味を惹きつける情報が抜け落ちてしまうこともある.
  • 自分が文章を書いたり,思いを伝えるときに重要なのが,単純化し過ぎないことである.

文章を削って短くしていくと,物理的な語数が減っていくため,同様に情報量も減っていくことになる.

しかし,言葉を減らすことの本質は,言葉や文章で意味する内容を凝縮することにあるため,闇雲に文字数を減らせばいいというものでもない.

そこで重要になるのが,1語1語の言葉に意味を込め,意味の密度を高めていくことである.

  • 知識と知恵:
    • 知識は知っている状態を差し,知恵は自分のものとして使えるものを差す.
  • 評価と評判:
    • 評価は得るものであり,評判は起こるものである.
  • 問題と課題:
    • 問題は既に起きてしまった状態であり,課題はその問題を引き起こし続ける本当の原因である.
  • 妥協と収束:
    • 妥協は互いが折れて意見を集約することだが,収束は議論の果てに意見が決まることである.
  • このようにリスト化していくと,自分が何を大切に思っているかが明確になってくる.




おわりに

  • 言葉にできないということは,言葉にできるだけ考えられていないことと同じである.




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