Creative Selection Apple 創造を生む力
Creative Selection Apple 創造を生む力
- 作者: ケン・コシエンダ,二木夢子
- 出版社/メーカー: サンマーク出版
- 発売日: 2019/03/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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プロローグ──「20億人のユーザー」を生んだ天才集団 その創造法
この本は,私がアップルで過ごした15年間についての記録であり,アップルに流れる創造のエッセンスを抽出するチャレンジである.
すぐれたソフトウェアを開発するために私が取り組んだこと,当時のエピソード,職場で気づいたことなどを盛り込んだ.
アップルの「何」が特別なのか?
- アップルという企業の本質,そのエッセンスを理解するには,まずソフトウェアを理解しなければならない.
- アップルほど直感的で,きめ細やかで,おもしろいソフトウェアをつくれる企業はほかにない.アップル製品ならではの魔法が存在するとしたら,それはソフトウェアの中にある.
- iPodのリリースが,アップルが「コンピュータ」から「パーソナルテクノロジー」に移行する引き金となった.また,iPodがもたらした資金と自信が,のちに大成功を収める各種デバイスの開発につながっていった.
創造性を「意図的」に発揮する
本書のねらいは,私たちがどんなアプローチをとって仕事に取り組んできたかを紹介し,私たちの創造手法を説明することにある.
説明を始めるにあたって,アップルのソフトウェア部門での成功に欠かせない要素を7つにまとめてみた.
1 インスピレーション──着想.広い視野をもって発想し,様々な可能性を考える
2 コラボレーション──他者と協力し,互いの強みを活かし補完し合う
3 テクニック──スキルを使って室の高い結果を得る.そして,常によりよい仕事ができるように励む
4 勤勉さ──つまらない仕事でも,必要なら手抜きや妥協をせずにやり抜く
5 決断力──難しい選択を,遅れたり,引き延ばしたりせずに行う
6 テイスト──感性.見る目を養い,「魅力的でありながらまとまりのあるもの」をつくるバランスを見つける
7 共感力──他者の視点から世界を見,彼らの生活とニーズに適応するものをつくる
インサイダーしか知らない「アップルのアイデア実現フロー」
- 7つの要素を混ぜ合わせ,合体させつつ,人間味,つまり「私たちらしさ」を,8番目の要素として加えた.
- これらを積み重ねて成り立つアップルの創造法を,私は「クリエイティブ・セレクション」(創造的選択)と呼んでいる.
1章 アップルの極秘会議
- 「デモ」が,アップルの製品開発プロセスの基礎になっている
- スティーブはデモを,アップルのソフトウェアの見た目や操作感,そして機能を決定するためのメイン手段として活用していた
- スティーブは常に製品をできるかぎり直感的かつシンプルにしようとした
- アップルにおける製品開発のDNAは,「テクノロジーとリベラルアーツを融合し,ソフトウェア(中身)とハードウェア(器)の最新の進歩をデザインや文化の要素と融合させ,人々が日常生活のなかで便利で意義深いと思うような機能や製品をつくる」という姿勢
- 期待されていたのは,アップルのソフトウェアをよりよくするためのプロジェクトをみずから探しだしたり,つくりだしたり,そうしたプロジェクトに貢献したりすること
- 混じりけのない実直な自分の意見をしっかり持っているかどうかで,ただ「ソフトウェアを書く」だけに終わるか,「実際にソフトウェアに影響を与える」ことになるかが決まる
- デモは,アイデアをソフトウェアに変えるうえで最も重要な役割を果たしている
- アップルの最重要目標は,「すばらしいソフトウェアをつくること」
ひとりひとりが,自分が責任を持つ部分について決断を下し,新しいアイデアを追求するための取り組みに何時間もかけるか,あるいは今あるアイデアをさらに洗練させるかを判断できた.
- スティーブの最終決定を頂点とするデモ,レビュー,決定のピラミッドが何層もあった
- スティーブは,重要でない機能をカットしたほうが,ユーザーが一から学びやすく,長い目で見て使いやすくなると考えていた
- ソフトウェア,もっと広くいうならコンテンツが最初から「明快で直感的」であるに越したことはない
- 「こうした難しい疑問に答える最善の方法は,質問自体を不要にしてしまうことだ」というのがスティーブの考えだった
2章 もっといいアイデアを,もっと早く
- デモを通じて,可能性を浮き彫りにし,コンセプトを考察し,進捗を示し,議論を促し,製品をつくるための判断をした.
- 「絶対に必要」「ある程度必要」「不要」な機能を慎重に選んで,効果を最大にしつつ,気が散る要素を最小に抑え,みずから設定した作業スケジュールに間に合わせる.
- デモをつくるときには,デモを見る人について考え,どの機能を盛り込むかを具体的に判断する.
- 「力を入れるポイント」と「入れ具合」:
- 迅速に作業を進める「方法」を探す
- プロジェクトの「停滞」に目を配る
- 「不必要な作業」を省略する
- 「必要なところに集中」できるよう,受け手の注意をそらす要素を取り除く
- できるだけ早く「最終目標の見積もり」に取りかかる
- 「最大の影響力」を目指して,デモを企画する
3章 「時間」と「熱量」の法則
- エジソンの大規模な成功は「細かいディテールへのこだわり」の上に築かれている
「私の発明のうち,偶然に生まれたものはひとつもない.私は満たす価値のあるニーズを見て,満たされるまで試行錯誤を繰り返す.まとめると,1%のひらめきと99%の努力ということだ」
- インスピレーションは,それを実現する懸命の努力と勤勉さなしでは実現しない.
「99%の努力」とは,いったい何だろうか.エジソンは,誤解を招きそうなぐらい短い言葉で語る.
「実現するまでひたすら試行錯誤を続けるんだ」
4章 超・一点突破
- 目標はひとつ,「高速なウェブブラウザーの開発」
- スティーブは,アップルで新しい高速ブラウザーをつくることが,ユーザーにインターネットエクスプローラーを忘れてもらう最善の道だと結論づけた.
- 長い目で見て,ウェブ閲覧を改善する鍵は高速化だとスティーブが考えていたので,私たちにとっては,高速ブラウザーをつくることが最優先事項,かつ最大の評価ポイントとなった.
- コードの編集が終わったら,以下を詳しくまとめる:
- その編集で何をしたのか
- どんな機能の実装あるいはバグの修正を行ったのか
- 今回の編集が目標をどのくらいうまく達成していると思うのか
- PLT(Page Load Test)は,私たちのプログラミングが,「速度」という重要な評価軸から見て適切かどうかを把握するのに役立ち,プログラムが遅くなった場合に,その原因を的確に示してくれた.
高速化に関するスティーブ直々の指示があるため,私たちはこの事態に陥るわけにはいかず,防止策を考えた.
- 基調講演の3~4週間前に,スティーブはスライドの一部を使って,アップル社内の会場で練習を始める.
- ゆっくりと,毎日,基調講演でどのように見せたいかを何度も練習して,完全に知り尽くすまで,何度も何度も反復した.
- スティーブは,「Safari」がウェブページをインターネットエクスプローラーより速く読み込むだけでなく...「3倍速く」読み込むと発表した.
優れた成果を挙げられるかどうかは「偶然」と「必然」のギャップをいかに埋めるかにかかっている.
「何でもいいからやればいい」わけではなく,選び抜いた具体的な目標を成し遂げられるかどうか,そして言葉を練ってビジョンに変え,結果を得るための行動を後押しできるかどうかが重要だ.
- 「絶え間なく完璧を追求する.その過程で優秀になる」というロンバルディの言葉どおり,ひとつのことをやり抜く過程で,他を圧倒する実力が備わる.
5章 「味方」をつくる
- 「ソフトウェアが謎の動きをするときは,コードを整理整頓しよう」という重要な教訓
- 良くても悪くても「やってみた結果」を見せる
- 自分にとっていちばんの技術的難問の背景と解決策の両方に,ソフトウェア面と同じぐらい人間関係が影響した.
- 複数の人間が組み合わさることで,問題発見・解決スキルが飛躍的に向上するケースがある.
- アドバイスをもらったら,まずはそれを忠実に実行し,その結果を報告してシェアする.すると,より協力的な姿勢を自然と引き出せる.
6章 「明確かつ具体的」であれ
- デモに対する本質的な期待は「進歩」であり,「常に前進しているかどうか」を評価した.
- 作業の方針を決めるための「明確かつ具体的なデモ」が必要だった.なぜなら,洗練されていないアイデアも,説明するための像がなければ建設的に議論するのは難しいから.
- 「具体例」を目に見える形で共有する
明確かつ具体的なデモは,私たちがコンセプトの谷底から這い上がり,価値ある仕事を極めるために役立つ手がかりとなり,足がかりとなる.
- デモをつくる際には,うまくいく自信のないアイデアに時間と努力を注ぎ込む不安を克服する必要がある.
無駄を省くため,ブレインストーミング会議はめったになかった.
アップルでのキャリア全体を通して,ホワイトボードの前に立って大規模な計画の概要を書き出すような機会は数回しかなかった.
- あいまいなアイデアについて生産的に話すのは,あまりに難しい:
- 「明確なコンセプト」→「具体的なデモ」が鉄則
- 言葉で説明するだけではすまない.デモとして具体化して示さなければならない.
- ユーザーが考えなくても使えるのが「いいアイデア」
- アップルでは,すべてのデモは「明確かつ具体的」でなければならない.具体例を目に見える形にすると,あいまいな議論に堕することなく,アイデアを洗練させやすくなる.
7章 「前のアイデア」に戻る勇気
- 効率的で,印象がよく,直感的な「タッチスクリーン文字入力テクノロジーの開発」
- 「初見」で貴重な意見が出る
- すばらしいユーザー体験のデザインは,「プラスの経験の促進と同じぐらい,マイナスの経験の防止」にかかっている.
- すばらしい製品は,ほとんどの場合に人々を幸せにし,まったく,あるいはめったに不幸せにしない.
ほとんどの人は,「デザインはそれ(製品)がどう見えるかだ」と思う過ちを犯している.
人々は,デザインはうわべのつくりだと思っていて,デザイナーは箱を渡されて「見映えをよくしろ」と言われていると思っている.
私たちが考えるデザインはそういうものではない.デザインとは,どう見えるか,どう感じられるかではない.どう機能するかだ.
- 開発中の製品を実際に使う(「living on」)ことで,様々な問題点を洗い出した.
- 自分の「分析を重ねた好み」というフィルターを通しつつ,魅力的でありながらまとまりのある,主観と客観のバランスのとれた「どう機能するかが一目でわかる」アイデアが,すぐれたアイデア.
8章 一気に「収束」させる
- 小さな修正を積み重ねても,もっと革新的な機能にはかなわないのではないか.
- 解決できない問題を後回しにして,解決できる問題に取り組んでも,技術的な前進は可能.
- 良いアイデアさえあれば,どんな障壁も乗り越えられた.
- 試作機を次の人に渡した私の頭の中には,一切の疑念がなかった.これが欲しい.
デモを行い,フィードバックに基づいてやるべきことを絞り込み,新たなデモを行うという繰り返しによって,着実に前に進むことを,「クリエイティブ・セレクション」と呼んでいる.
クリエイティブなアップルの製品は,ひらめきによって一瞬で生み出されるのではなく,地道な「選択の繰り返し」によって完成するものなのだ.
- 進化論に基づく品種改良のように,よりよいものを繰り返し選び取って改善を続けるプロセス.それこそが,アップルの想像力の本質,「クリエイティブ・セレクション」.
9章 Appleの考え方
アップルがiPadのような製品をつくることができたのは,我々が常にテクノロジーとリベラルアーツの「交差点」に位置し,両方の良いところを取り入れ,テクノロジーの観点から非常に高度な製品をつくるだけでなく,直感的で使いやすく,楽しい製品にして,真の意味でユーザーに合わせようとしているからです.
ユーザーが製品に歩み寄る必要はありません.製品がユーザーに歩み寄るのです.
- アップルの製品開発者としては,ソフトウェア負荷の軽減によってユーザーの使用感を改善するのは,当然のこと.
- 「戻る」ボタンは,ボタンの有効範囲を拡大し,実際にタップとして認識する領域を,ボタンの見かけより大きくしている.
- 「スライド式アンロック機能」は,電話がポケットやバッグに入っているときに誤って機能を起動させてしまう事態を防いでいる.
- 「自分の感性」を必ず判断材料に入れる
すばらしいアイテムをつくるには,アルゴリズムとヒューリスティックス(経験則)が調和しなければならない.
だからこそ,41種類の青を選ぶためのグーグルの実験が,アップル流に慣れた私には異様に思えたのだろう.グーグルは色の選択に「A/Bテスト」を使い ,「テストで被験者が最も多くクリックした色が最適な青」と定義した.これはアルゴリズムだ.
アップルでは,「アルゴリズム的に正しい色」という概念など検討したためしがなかった.デモを使って色やアニメーションのタイミングを選び,自分たちのテイストを信じた.指の動きを定義する適切なルールを探す場合には,主観的な決定を下した.ヒューリスティックスを発達させて対応したのだ.
- 「完成形」は予想とは大体違う
- ソフトウェアは,開発が進むとともに,どんどん進化する.そのため,デモの時点で下す判断がどのような影響を及ぼすかを,デモの当日にすべて見通せることはめったにない.長い時間をかけてソフトウェアとともに「暮らし」て,ソフトウェアをよく知る必要がある.
どのような内容であっても,みずから決めた「明確で具体的な変更」が,次のデモを正当化するための作業になる.繰り返し,また繰り返す.
これを何度も何度も行ううちに,プロジェクトはプラスの変化が積み重なるゆっくりとした軌道に乗る.これが,私たちがアイデアから始めて,製品となるソフトウェアを最終的につくりあげた方法だ.
- 開発グループを小さくしたことで,個人には自信が,チームには結束が育まれた.
情熱的で才能があり,独創的で工夫に富み,常に好奇心を絶やさない少人数のグループが,「勤勉さ」「テクニック」「決断力」「テイスト」「共感力」「インスピレーション」「コラボレーション」という7つの要素を活用しながら,「デモ」と「フィードバック」を繰り返しつつ前に進み,「ヒューリスティックス」と「アルゴリズム」の調整・最適化の繰り返しを,悩んだり,つまずいたりしてもくじけず続け,それぞれの段階でいちばん可能性の高い道を選び,最高の製品を目指すことで,アップルの職場文化を築いた.
10章 熱狂
- 初代iPhoneの発売日:2007年6月29日