理科系のための英文作法
理科系のための英文作法―文章をなめらかにつなぐ四つの法則 (中公新書)
- 作者: 杉原厚吉
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1994/11/01
- メディア: 新書
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第1章 談話文法を利用しよう
1 足りないのは文をつなぐ技術である
- 文法というものは,文と文をつないで文章という話の流れを構成する仕組みについては,何も教えてくれない.
- 文章と言えるためには,文と文が意味の上で密接に関連し合って,全体として一つの話の流れを形づくっていなければならない.
- 英語で文章が書けるようになるためには,語彙と文法に加えて,文と文のつなぎ方を学ばなければならない.
2 談話文法との出会い
- 「文中の語順は,古いインフォメーションを表す要素から,新しいインフォメーションを表す要素へと進むのを原則とする」
- ◯ I gave the book to a boy.
✕ I gave a boy the book.
boyは,不特定の対象を表す冠詞aを伴っているから,新しい情報である.
一方,bookは,既出の対象を表す冠詞theを伴っているから,古い情報である. - 一般には,情報が新しいか古いかは,一つの文の中で決まるものではなく,それ以前の文とどのようにつながっているかによって決まる.
- 英文を読んだり書いたりするとき,文と文のつながり方を律する客観的な法則を意識する.
3 初心者は安全第一
- 読み手が,立ち止まって考え込んだり迷ったりすることなく,すなおに読み進み,理解することのできる文章を目標にする.
第2章 話の道筋に道標を
1 読み手は霧の中を進まなければならない
- 読み手の方は,濃い霧の中に立たされているようなものである.
- 書き手が何を伝えたいかは,読んでみないことにはわからない.
- 文章を読み進む作業は,霧の中で,書き手の作った話の筋道を一歩一歩たどる作業である.
- 文の中の道標は,文の内容に立ち入る以前に,文同士の関係を教えてくれる.これが立っているのといないのとでは,読み手が道に迷う危険性が格段に違う.
- 文章の道に迷った読み手には,読み進むのを諦めて読書を放り出すという"奥の手"がある.よほど十分な道標を用意しておかないことには,読み手に文章を最後までたどってもらうことは期待できないのである.
2 道標としての接続詞と副詞
- 文と文の関係を表すために,接続詞より豊富な語彙と機能を揃え,道標としての主役を演じるのは,実は,副詞なのである.
- 科学論文を書くときには,読み手がもっているであろう知識に期待しすぎてはならない.文と文の間のギャップがなるべく小さくなるように文章を構成することが大切である.
- 大文字で始まりピリオドで終わる文が二つあったとき,それらの関係を明示するための道標として接続詞を用いると,その"副作用"として,ピリオドが一つなくなり全体が一つの長い文になってしまう.
- 必要なのは,接続詞のように文同士をベタベタくっつけることなく,形式上は離れたままの個々の文を意味の上でしっかりつなぎ,文同士の関係を明らかにしてくれる道標である.その役目を果たすものは副詞である.
- Cheese is made from milk. Consequently it contains much protein.
この文章のように,原因と結果という文同士の関係を,副詞という道標によっても明示できる.しかも,二つの文は,接続詞を用いた場合のように一つにくっついてしまうことはない. - 本書の主題の一つは,文章構造を大局的立場から眺め,文章の流れをコントロールしているいくつかの仕組みに焦点を当てることである.
- 接続詞は文と文の局所的な関係(せいぜい隣り合った二つの文の関係)しか表せないのに対して,副詞は文同士の関係をもっと大局的に表すことができるわけである.
4 道標の種類と代表例
- 帰結を表す道標
「これから述べようとしていること[A]は,今までに述べてきたことの結果である」ことを表明する道標. - 理由を表す道標
「これから述べようとしている[A]は,今までに述べてきたこと(あるいは[A]のさらにあとに述べようとしていること)の理由である」ことを表明する道標. - 逆接または対照を表す道標
「これから述べようとしていることは,今までに述べてきたことに対立する話題である」,
あるいは,
「これから述べようとしていることは,今までに述べてきたことに対して,なんらかの意味で比較の対象となる側面をもっている」ことを表す道標. - 焦点を絞ることを表す道標
「これから述べようとしていること[A]は,今までに述べてきたことのうち特に注意を集中すべきことがらである」ことを表明する道標. - 情報の追加を表す道標
「これから述べようとしていることがらは,今までに述べてきたことに対する情報の追加である」ことを表明する道標. - 仮定・条件を表す道標
「これから述べようとしていること[A]は,それ以降に述べること(または,それ以前に述べたこと)の前提となる仮定あるいは条件である」ことを表明する道標. - 動機を表す道標
「前に述べたことは,これから述べようとしていること[A]の動機・目的である」ことを表す道標. - 類似を表す道標
「これから述べようとしていることは,今までに述べてきたことと類似性がある」ことを表す道標. - 例を表す道標
「これから述べようとしていること[A]は,今までに述べたきたことの一例である」ことを示す道標. - 言い換え・要約を表す道標
「これから述べようとしていること[A]は,今までに述べてきたことの言い換えあるいは要約である」ことを表す道標. - 話題の転換を表す道標
「ここで今までの話に区切りをつけ,別の話題へ移る」ことを表す道標. - 古い情報の確認を表す道標
「これから述べようとしていること[A]は,すでにみてきたことの再確認である」ことを表す道標. - 先を指すための道標
これから述べようとすること,あるいはこれから述べようとする範囲を指し示すための道標. - 共通の座標軸に対する位置を表す道標
これから述べようとしていること[A]を,読み手と書き手の共通の常識に照らし合わせて位置づけるための道標. - 列挙を表す道標
いくつかのことがらを並列的に述べたいときに使われる道標.
5 道標の使われ方
- 「道標をできるだけ利用すべきである」ことが,初心者の作文の心得の第一条であるというのが,この章の結論である.
第3章 中身に合った入れ物を
1 文は階層構造を持っている
- (1) 日本の経済の予測
(2) 日本経済の予測
(3) 日本の経済予測
文や句の中では語の間の結びつきに強さの違いがあり,それによって,語の間には結びつきの階層構造が観測される.
2 名詞列,形容詞句,形容詞節
- 名詞を修飾する部分とその名詞との結びつきの強さは,強いほうから,名詞列,形容詞句,形容詞節の順である.
3 節と文
- 独立した二つの文より,接続詞で一つの文にまとめられた二つの節のほうが,結びつきは強い.
- 段落は,文章の構造を決める非常に大切な入れ物であるから,長さに惑わされてそれをいい加減に扱ってはならない.中身に合った入れ物を選ぶべきであるという理由から,次のように書くべきである.
This paper consists of three sections.
Section1 describes the problem. This problem 〜 .
Section2 proposes a new 〜 .
Section3 reports experimental 〜 .
4 仮定や約束の及ぶ範囲
- If [A], (then) [B]. [C].
[A]でなんらかの仮定が述べられるが,それが有効な範囲は[B]だけである.[C]は仮定の及ばない外の世界である. - 次に続く一つの文または節だけでなく,2個以上の文にわたって仮定を適用したいときは,仮定だけを一つの独立した文にすべきである.
そのための典型的な文型には次のようなものがある.
・Suppose that [A].
・Assume that [A].
・Let us suppose that [A].
・Let us assume that [A].
・We suppose that [A].
・We assume that [A]. - さらに,仮定[A]が及ぶ範囲を明示したかったら,前章で述べた道標と組み合わせて使えばよい.たとえば,次のような表現ができる.
・Throughout this chapter, suppose that [A].
・Let us assume for a while that [A].
・In the sequel, we suppose that [A].
・Unless we explicitly state otherwise, we assume that [A].
5 用語や記号の定義
- An integer is an even number if it is divisible by 2.
定義される言葉が斜体になっているが,これが非常に重要である.すなわち,斜体という"形式"を用いることによって,その言葉がこの文で定義されていることを表している. - 定義であることをいっそう明確に表す入れ物はたくさんある.
is called,is said to be,is defined asなど. - 二重の入れ物で定義を表現するのが最もよい.
6 括弧とピリオド
- 〜 [A]. ([B].) [C]. 〜
文[B]が,文[A]だけでなく,それ以前の記述をも含めた複数個の文全体に対する補足の場合. - 〜 [A] ([B]). [C]. 〜
文[B]が文[A]に対する補足の場合.
第4章 動詞が支配する文型
1 外国人の手紙から
- 辞書の中の例文を変更して自分の目的に合った文を作る──作ったつもりになる──ことを,私たちはしょっちゅうやる.そういうとき,"変な英語"を作ってしまう危険性は非常に高いのである.
- 変な英語になってもしかたない.まずは,意味の通じる文章を書こう.
- "形の上"から判断できる不自然さを徹底的に利用しようというのが,この本全体を貫く姿勢である.
3 Hornbyによる動詞の分類
- 私たちは,意味の似た動詞がいくつかあるとき,一方の使い方を他方でもまねることをよくやる.しかし,これには注意がいる.意味が似ているからといって使い方が似ているとは限らないからである.
- Hornbyの辞書を,「安全第一」をめざす初心者のための基準として使えばよい.この辞書で許されている文型だけを使うことにすればよい.
-
とにかく,Hornbyの辞書を座右においておけば,それぞれの動詞がどのような文型をとり得るのかという疑問に悩む必要はなくなる.英作文のためにはぜひ備えておくべき辞書である.
第5章 古い情報を前に
1 古い情報の引き継ぎ
- 文章の中の各文は,古い情報を引き継ぐ部分と,新しい情報をつけ加える部分からなる.このとき,古い情報を引き継ぐ部分が早く現れる文ほど読みやすい.
- 英文を書くときにも,上記のことが文章のよさ,自然さを測る一つの基準として使える.これが本章の主張である.
2 引き継ぎの省略
- "引き継ぎ部分はなるべく前に置くべし"という原則.
- 古い情報の引き継ぎをやむを得ず省略したい場合は,引き継ぎ部分をできるだけ文の前へもってくるという努力を,省略しない場合よりいっそう強く行うべきである.
3 英文における引き継ぎ
- 初めて現れたものには不定冠詞aまたはanをつけ,再び現れたものには定冠詞theをつけるという英文法の規則がある.この規則が,どの語が前から引き継がれており,どの語が引き継がれていないかを示す,一つの有力な手がかりとして働いている.
- 能動態と受動態など何通りもの文型が選択できる場面で,どれを選ぶのがよいかの指針の一つとして,"古い情報を前におく"ということが役立つ.
- 書き手にとって身近なものにはthisが,書き手から距離をおいたものにはthatが使われる傾向が強い.
- 代名詞が複数個使われると,読み手の精神的作業が大きくなり,話の流れを損ないかねない.
- 代名詞は,文を簡潔にすることによって話の流れを良くするために使うべきものであって,流れを止めるような使い方をしてはならない.
- 似た意味の別の語句を用いた言い換えによってくどさを避けるのがよいと薦める解説書も多い.しかし,初心者は,これに耳を貸す必要はない.
- 一つの語句を2度繰り返す代わりに別の語句で引き継ぐと,何を指しているのかがわかりにくくなる.最もわかりやすいのは,そのような小細工をしないで,同じ語句を繰り返すことである.
4 同じ語句の繰り返しが最もよい
- 同義の他語や代名詞で引き継ぐと,読み手に余分な精神的作業を強いる.
- 同じ語句を2度,3度と用いることによって生じるくどさは,古い情報を明確に引き継ぐことのできる利点と比べれば,無視できるほど小さな欠点にすぎない.
5 新しい情報は一つずつ
- 一つの文の中に盛り込む新しい情報は,一つだけのほうが読みやすい.
(二つ以上の新しい情報を一つの文に盛り込むと,読みにくくなる.) - 簡潔であれという標語は,論理を飛躍させていいということを意味するのではない.余計なことを言ったり,わざわざ回りくどい表現をしたりすべきでないと言っているにすぎない.読み手に1段ずつ石段を示すために,言うべきことは省略しないで言わなければならない.
切りの良いところでやめてはいけない
- 「書くことを中断しなければならないときには,切りの良いところで筆を置くのではなく,その先をもう少し書いてから筆を置け」
- 脂がのって書いているときには,切りの良いところでやめようと,そのあともう少し書いてからやめようと労力に大差はない.
- 一方,しばらく中断したあと筆をもったときには,新しい部分の最初が書いてあるのとないのとでは大違いである.
- 切りの良いところでやめないで,そのあとが少しでも書いてあると,「次は何を書くつもりだったっけ」がすぐに思い出せるのである.
- これによって,始動にかかる時間が短縮される.中断直前の気力の高みに達する時間が短くてすむのである.
第6章 視点をむやみに移動しない
1 文には視点がある
- 文章の中の各文には,書き手がどのような立場からその文を書いたかという"視点"が付随している.
- 読み手は,文章を読むとき,書き手の視点を追いかけることによって,書き手の立場に身を置きながら,書いてあることを理解しようと努力する.そのため,視点がめまぐるしく移動すると,それを追いかける読み手は疲れる.
3 to不定詞の意味上の主語
- (1) We made an experiment to evaluate this method.
(2) To evaluate this method, we made an experiment.
(1)は,(2)のように語順を変えたほうが,いっそうよい文になる.
なぜなら,
experimentはanを伴っているから新しい情報であり,
methodはthisを伴っているから古い情報であって,
古い情報を前に持ってくるほうが望ましいからである.
6 重文と複文における視点
- 一つの文の中に主語が2個以上あり,これらの主語が異なるときには,一つの文の中で視点が移動している可能性がある.
7 文章の流れと視点
- 文が二つ以上つながって文章をなす場合にも,不必要に視点を動かすことは避けなければならない.
- 変化に乏しい単調な文章であることは,少しも重大な欠陥ではない.意味が明確に表現でき,かつ読みやすい文であることのほうが,何倍も何十倍も重要である.
- 式が文末の要素となっている場合には,その式の最後にピリオドを打って文を完成させることが必要である.
8 情報の新旧と視点
- 文または文章が望ましくない理由を,古い情報が後のほうに現れることと,視点の移動が生じていることの二つの観点から同時に言うことができる場合が多い.これは偶然ではない.
- 通常は,書き手の視点位置を表す語はそれぞれの文の先頭付近にくる.
- 視点移動がなるべく生じないように心がけて文章を書けば,古い情報が始めのほうに現れる傾向が強くなる.
- 逆に,古い情報を始めのほうにもってくることを心がけて文章を書けば,視点の移動が少なくなる.
- 日本語で作文する場合には,英語の場合以上に,情報の新旧と視点の移動の両方の心得を同時に考慮する必要がある.
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