任天堂 "驚き"を生む方程式

 

任天堂 “驚き”を生む方程式

任天堂 “驚き”を生む方程式

 

 

プロローグ

  • 2009年3月,ニンテンドーDSの世界累計販売台数が1億,Wiiも5000万台を突破した.
  • DSの発売から4年3ヶ月での1億台突破は家庭用ゲーム機史上,最速.
  • Wiiの同2年5ヶ月での5000万台突破も,プレイステーション2の同3年弱を抜いて,据え置き型ゲーム機の最速記録.
  • 「外の人に話したところで,任天堂の経営を理解することはできない」という任天堂らしい考え方.
  • 徹底した情報統制のもと,一貫して露出を必要最低限に止めている.

 

第1章 ゲーム旋風と危機感

  • 一気に本体を売って,後はソフト販売で稼ぐゲームプラットフォームのビジネスでは「代替わりのサイクルは5年」というのが,最近の定説.
  • 映像や音で遊んだり,楽しんだりしてもらうという,いかにも任天堂らしいもの.
  • 「既にDSをお持ちの世帯にでも,複数の家族のあいだで共有されているDSを自分専用にしていただいて,1家に1台から1人に1台への流れを作りたいと考えました.」
  • 脳トレが,ゲームを忘れていた大人,あるいはゲームに興味がない大人の購入動機となり,DSの販売が大きく伸びていくという現象が日本全国に広がった.
  • 最初に購入したソフトが脳トレだったDSユーザーのうち,35%が90日以内に別のソフトも購入しており,うち10%以上が11本以上のソフトを購入した.
  • ゲーム機の歴史では,発売からいかに短期間でシェアを奪うかが,ゲームプラットフォーム競争の優勝劣敗を左右してきた.
  • Wiiのユーザーには,これまでビデオゲームに縁のなかった人たちが,たくさんいる.PS3Xbox360には,こうした話題はない.つまりWiiの前には,まだ開拓できていない潜在的な市場,「ブルーオーシャン」が広がっているということ.
  • ゲーム人口拡大という戦略は,任天堂がゲーム機戦争を戦う中で長い時間をかけて考え抜いた結果,ようやく辿り着いた賜である.
  • 2002年,ゲーム産業に何が起きているのか,客観的に冷静に見極める作業を始めた岩田は,ゲーム離れが深刻な段階に来ていることを痛感したと語る.
  • ゲーム業界の誰もが,画面が綺麗で3次元の世界があって,難しくて時間がかかって量が多いほど喜んでもらえると思っていた.でも,それは全員のニーズを満たしていない.
  • 人々はどうしてもゲームがやりたくてゲーム機を購入しているのではない.

 

第2章 DSとWii誕生秘話

  • 性能を追うソニーとは正反対の方向を突き進んだ.
  • ゲーム機としての基本性能を向上させる技術は捨て,家族の機嫌をとるための技術は積極的に採用する,言わば「お母さん至上主義」の開発.
  • 家族の誰からも嫌われないようにしないと,ゲーム人口の拡大なんかできっこない.
  • お母さんは高性能に喜ばない.だから,技術を起点とする設計は意味がない.では,お母さんは何を嫌い,何に喜ぶのか.お母さんのご機嫌を起点とする発想が,Wiiを特徴づけていく.
  • 「性能を追わない」「お母さんに嫌われない」
  • 「重要なのは次世代の技術ではなく次世代のゲーム体験であり,パワーが大切なのではない.」
  • ゲーム機から伸びるコードは邪魔→ワイヤレス
    突起物が多い→怖がられない→シンプル
  • 「家族から嫌われないゲーム機」→「家族全員に関係のあるゲーム機」へと昇華させる.
  • テレビは家族全員の共有物.みんなで見る番組があれば,子供だけが見る番組もある.見たい番組が重なれば,チャンネル争いも起きる.同じようにWiiも,家族全員に関係があり,毎日誰かが見たくなるようなチャンネルの1つでありたい.それこそが,据え置き型の存在意義なのではないか.

 

第3章 岩田と宮本,禁欲の経営

  • 競争が激化する中,任天堂は既に,"血の海"となっている既存の市場に未来はないと早々に見切りをつけ,ゲームをやらない普通の人をターゲットに競争のない"ブルーオーシャン"に打って出た.それが成功の要因だ.
  • 正しいと思うこととは,ゲーム離れを食い止め,ゲーム人口を拡大することであり,そのために,どうしたらゲーム機が家族から邪魔に思われないか,家族全員に関係のあるものになるかということを愚直に追求すること.
  • 例えば,実はこのページは毎日,世界中で3000万人が見ているという実績ができたら,それをどう利用すればいいか,後から考えればいい.
  • テレビの前にいろんなゲーム機が並ぶと,お母さんは怒る.
  • 「携帯電話が彼ら彼女らの生活に溶け込んでいることに対してのジェラシーですよね.だからゲームも生活に溶け込まなくてはと思った.」
  • 触っているだけで満足できるゲームを作ろう.敵と戦うこともなく,ストーリーに沿ったゴールや目的もなく,ひたすらのんびり過ごす.
  • ゲームに関係ない人の声を拾う.「普通の人」がわからないのは自分が間違っているからだと,修正をしてきた.
  • 生活の中に新しい遊びや楽しみを見出す,遊びへの探求心と鋭い嗅覚が,非凡なアイデアを生む.
  • 納得ができないものを商品として世に出すことが,ただ耐えられない.何年かかろうと納得ができる状態になるまで作品を磨き込む.
  • 「これは単品で食べると美味くないけれど,これと合わせて食ったら美味いぞみたいなことを突然言い出して,全然関係ないプロジェクト同士を足したりする.一見,無駄になりそうなものを別の形でぱっと料理してね.」
  • 1つのテーマについて,長くしつこく考え続けることが大切で,考え続けていることの蓄積の量が,ヒットを生んでいる部分というのもある.
  • 任天堂のプレゼンテーションには,これでもか,というくらいグラフや表,数字が出てくる.
  • マーケティングは今のニーズを切り取るもの.そのニーズをもとに商品を開発すれば,過去に向けて商品を出すことになり,未来を先取りすることはできない.
  • 起きていることの理由や仮説の裏付けを取るために,言いたいことの委曲を尽くすために,データを好む.

 

第4章 笑顔創造企業の哲学

  • 独創的で柔軟であること.それから,人に喜ばれることが好き.
  • 売れたはいいが,そのうち飽きられ,忘れ去られてしまうことが,任天堂にとっては何より痛いし怖い.そこで考えたのが,「DS持ってて良かった」作戦である.
  • 様々な場所でDSを持っていると便利だったり,お得だったりするシーンを作り出せば,人々は常に携帯してくれるようになる.
  • 任天堂は,あくまでも「ゲーム屋」であることにこだわり,すべては「人々にゲーム機に触り続けてもらうためにやっている」
  • 任天堂という会社は,昔からゲームという事業ドメイン以外に対しては極めて禁欲的.余計なことはしない会社なんです.Wiiフィットが普及したからといって,自らがデータを収集して健康管理のビジネスに手を出そうなんてことは,絶対に考えられない」
  • 任天堂がやることは,任天堂が一番強みを発揮できる部分に絞るべき.
  • 「ゲームプラットフォームというのは勢いでビジネスをしていますから,失敗した時のダメージが非常に大きいんですね.すごくリスクが大きい.その中で,任天堂は従来の延長線上にないものをつくっている.それは誰も成功を保証してくれないわけですよ.」
  • 任天堂で働く者は,「任天堂らしさ」という共通認識を持ち合わせている.むやみなM&Aは「らしさ」を知らぬ人間を増やし,居心地を悪くするだけ.
  • 任天堂が何でも屋になってしまうと,任天堂の個性が失われて,任天堂の良さが失われていくと思うんです.私は尖っているから強いと思っていますから.強みというのはそういうものだと思います」
  • 事業領域を拡大しないのは,得意分野の「娯楽」に徹したいから.
  • 採用の時,どんな人がほしいという基準:
    独創的で柔軟・人に喜ばれることが好き・サービス精神・知的好奇心があること
  • 「受けたいんですね,要は人々に.受けたいからやっていて,そしてその受けてくれるお客さんの数が多いほど,私たちは自分たちの仕事の達成感が大きくなる.任天堂の意図はあくまでお客さんに喜んでもらうこと.我々が作ったものでお客さんにニコニコしてもらうことです」
  • 使って楽しいい製品を開発することに集中し,消費者はその新しい価値に対価を支払う.ソフトウェアの開発に誇りを持ち,驚きや新しい体験を,ハードとソフトの両輪で実現させる.
  • ユーザーインターフェースの反応のスピードや,操作の快適さは,ゲーム屋が鍛えられている部分なんですね.お客さんが不愉快になったら負け,わかってもらえなかったら負けということに鍛えられてきた.僕らは,そこはわりと任天堂の強みだと思っている」
  • 任天堂は自分たちは生活必需品ではなく,役に立たないモノを作る娯楽屋だからこそ,ネガティブな要素を徹底して排除しなければ将来はないと考え,お客に対してひたすら,丁寧に振る舞ってきた.

 

第5章 ゲーム&ウォッチに宿る原点

  • 枯れた技術を思わぬ形で転用するからこそ,子供がプレゼントで買ってもらえるような価格で,世間に驚きを与える斬新な商品を提供できる.この持論を,横井は大切にした.
  • 「本来,娯楽って枯れた技術を上手に使って人が驚けばいいわけです.別に最先端かどうかが問題ではなくて,人が驚くかどうかが問題なのだから」
  • DSの解像度:横256 × 縦192
    PSPの解像度:横480 × 縦272

 

第6章 「ソフト体質」で生き残る

  • ゲーム産業からアイデアや驚きが失われている.安直な大容量,重厚長大路線はいずれ顧客離れを引き起こし,業界全体が沈むだろう──.
  • ハードの会社は,我々人間が生活をより良く,長く保持するために必要なモノを作る会社.モノづくり=ハード=必需品.このカテゴリーにいる会社は,より良いものを安く作ることが至上命題である.
  • 娯楽産業は,高機能,高品質のモノをより安く作るための体質が優先されるハード産業とは違い,洗練されたソフトを生み出す体質,すなわち,ソフト体質が優先される.
  • あくまでも,ソフトを主軸に,ソフトを優先に物事を考える.それが,ソフト体質なのである.
  • 「よそと違うことをしなさい」ということは,我々のDNAの中に深く刻まれています.
  • ユーザーインターフェースの反応のスピードや操作の快適さ,説明不要の操作性,製品の堅牢さ,手厚いサポート.
  • よそと違うことをしなさい,人は同じことを続けたら飽きてしまう,環境の変化に対して柔軟でありなさい,過去に成功した方法が未来も通じるとは思ったらいけない.......

 

第7章 花札屋から世界企業へ

  • 「僕たちのビジネスというのは,勝ったら天国に昇るけれども,負けたら地に沈む.だから,それはもう,素晴らしい発想が出てくるのか,こないのか,アイデアにかかっている
  • 娯楽というのは浮き沈みが激しく厳しい世界である.
  • 常に驚きや喜びを運び続けなければならない,よそのマネをしてはならない.
  • しかも,「考えに考えて,いい結果が出る保証はない.何年も考えていることよりも,ぱっと考えつく,一瞬のひらめきのほうが優れている場合がある
  • 「人が何をもって面白いというかということもそうですが,とりわけ商品が何をもってヒットするかということに関しては,自分たちの力の及ばない部分がものすごく大きいんですよ」
  • 人生一寸先が闇,運はせ,与えられた仕事に全力で取り組む──.
    → 「最後は天が決める.それまで最善を尽くせ」という解釈.

 

第8章 新たな驚きの種

  • 任天堂は,ソフトで力を発揮する会社.DSiというハードがあっても,その魅力を最大限に引き出す脳トレのようなソフトを用意できなければ,任天堂の名が廃る.
  • DSiというネット利用を前提としたハードの投入と同時に,素人がクリエイターとしてゲームプラットフォームに参画できるソフトと場所を用意した.
  • 「ゲーム人口拡大戦略」の次の一手は,「クリエイター人口拡大戦略」というわけである.
  • かつてない参入障壁の低さが競争を生み,アイデアの掘り起こしを手伝っているアップルストア

 

エピローグ

  • ソニーマイクロソフト,あるいはアップルが敵なのではない.最も恐れるべき敵は,飽きである.
  • 問題はハードをどう変えるか,どう使ってもらうか.そのアイデアをひねり出せるかどうかが,企業の明暗を分けるといっても過言ではない.