IBMの思考とデザイン
まえがき
- 欧米の企業では,デザインの重要性を認識し,デザイン的な思考を経営や組織改革に活用している.
- 欧米ではデザインを「問題を解決したり,新しい提案をするのに役立つ,誰にとっても活用できるアプローチ」と理解されており,近年のデザイン的な思考を活用しようという潮流につながっている.
序章 思考,デザイン,ビジネスとは
1. 思考,デザイン,ビジネスの関わり
- イノベーションのためには,社員全員がデザイナーになる必要がある.
- デザイン(Design)の本来の意味は,「従来の記号(sign)を否定・分解(de)すること」であり,決してスタイリングだけにとどまっているわけではない.
- 「記号(sign)」は無形のものに意味を与えて「形をつくる」ことであり,形づくられたその成果物が社会に流通して交換されることで「ビジネス」となる.
- 「否定・分解(de)」は現状を鵜呑みにせずに批評的にみる視点を持つこと,すなわち「思考」ととらえることができる.
2. 思考,デザイン,ビジネスとIBM
- User Centered Designとは,顧客が満足する製品やサービスのデザインを目指して「人間中心のものづくり」の概念を体系的に具現化した手法.
- ユーザーをデザインプロセスの中心に据えることで,適切で使いやすい製品やサービスの提供を目指している.この新しいデザイン戦略が企業再生の原動力の一つになった.
- 製品単体に焦点をあてていた「モノ」中心のデザインから,顧客の総合的な体験を考慮した「コト」中心のデザインへの変革.(UX Design)
- デザイン思考をデザイナーの思考ツールから,すべての社員の思考ツールへと昇華させることが必要になる.
第2章 人間中心のデザインの思考
1. 企業の再生とデザイン
- 顧客満足度が高くない企業は,財務面でもその他の面でも成功を収められないと考えていた.
- 良いデザインは人の役に立つということ.
2. 人間中心のデザインの導入
- どのような製品・サービスであっても,ユーザーが誰であるのかを知らなければ魅力的な製品を開発することは難しいといえる.
- デザインの方向性を決めるために,ユーザーの現状や要望を把握することは非常に重要.
3. リチャード・サッパーの思考
- 自然は空も海も森もゆっくりと,時に激しく,止まることなく動いている.かすかに波立つ海は見ていても飽きないが,海を撮った写真は場合によっては飽きてしまう.
- 「自然,すなわち動いているものは飽きないのではないか」というのがサッパーの仮説だった.
- 飽きない製品をデザインする秘訣は,動きを考慮するということ.
- 自分という作り手の視点だけでなく,ユーザーという使い手の視点に立って,デザインしている対象をみる.
第3章 ユーザーエクスペリエンスの思考
2. ユーザーエクスペリエンスのアプローチ
- UXデザインを実施する場合に,時間軸,環境軸,人間軸の3つの視点を総合的に考慮する必要がある.
- 時間軸では,短時間から短期間,中長期間といったユーザー体験の持続を考える.
- 環境軸では,人間をとりまく人工物や人間自身を考える.状況の想定.
- 人間軸では,人間の感性,多様性,可変性などに着目する.感情の個人差や気持ちの変化.
3. イームズ夫妻の思考
- 重要なことは,彼らはUXデザインを目的にしていたのではなく,相手をもてなすためのデザインを実践していた.
第4章 デザインによる企業改革
1. 新たな旅の始まり
- 「最も必要とされる存在でありたい(Be Essential)」
- 卓越した顧客体験は,提供する従業員が誇りを持ってサービスを提供することで成り立っている,そして共有の価値観に加えて,価値観を具体化した行動規範からもたらされるということが改めて明らかになった.
- 価値観を日々確かめ合うことにより,人々の行動様式が変わっていく.
3. IBMデザイン思考
- 人の役に立つ,すなわちユーザーに成果をもたらすということが,すべてにおいての最優先事項になる.
- ヘンリー・フォードの格言に「お客様に何が欲しいかを聞くと,もっと速い馬が欲しいと答えるだろう」という言葉がある.ユーザーは必ずしも,自分の欲しいものをわかっているとは限らない.
- 速い馬が欲しいわけではなく,速く移動したいという欲求があるということを見抜く必要がある.
- ユーザーの声を聞き,ユーザーの活動を観察し,そこから真の課題を洞察することが大切.それを突き詰めることにより,より良い解決策を提示する.
- 良いデザインとは「どうしてこんなモノが今までなかったのだろう」と感じさせる,存在しても当たり前なのに,誰も気づかなかったものなのではないでしょうか.
- 製品・サービスとして現在利用されているものが最終形ではないと考えることが大切.
- 常に改善を積み重ねていく,すべてがプロトタイプであるという考え方.
- チームの多様な経験を尊重し,異なるスキルを持っていながら,お互いに共感できる土台を見極めていく必要がある.みんなの強みと限界を知っておくことは,コラボレーションの土台となる.
- ユーザーに対する共通の理解,解決しようとしている問題,意図している成果に対してチーム全体を同期させることが重要.
- 早くつくればつくるほど,早く学ぶことができる.
- プロトタイプをする際には,完成度にこだわらないようにする.フィードバックを得られるレベルの完成度で十分.
- まず最初に,このプロジェクトにおいて,ユーザーにどのような価値を提供するのか,というデザインの意図を定める.
- IBMデザイン思考の基本的な考え方は「語るな,みせろ」です.スケッチで見せても良いし,デモを見せてもよいのです.言葉だけでは常にすれ違う関係者をプロトタイプなど,さまざまな手法を使って共通の理解に導くのです.
- 「素早く失敗しろ」.素早く試し,失敗することにより,新しいループを回すことができ,ループの回数が多ければ多いほど,正解にたどり着く確率が上がっていく.
4. デザイン文化を定着させる仕組み
- ユーザーを理解することをおろそかにしてはいけない.
第5章 現場で活かすデザイン思考
2. デザイン思考の適用
- カスタマージャーニーとは,顧客がある目的を達成するまでの行動,思考,感情などを時系列に整理したもので,利用者,利用の状況,利用の目的を整理することで,より良い顧客体験の設計に活かすための資料.
3. 事例からのまとめ
- 議論するときに重要なことは,大きな声に惑わされることなく,ユーザーの価値に焦点をあてて議論することにある.
4. 顧客起点のアプローチとしてのデザイン思考
- 飛躍的なテクノロジーの進歩によって「マス」から「個」へのアプローチが可能になり,個々人に応じて最適な顧客体験が提供できるようになってきている.
- 観察を通じて,顧客の真のニーズを理解し,顧客にとって最も価値のあることを見極め,多様なメンバーで考えてはつくり,つくっては考えることを繰り返し行う.
終章 未来に向けて
1. 変わらないものと変わり続けるもの
- デザインは機能や美しさはもちろん重要ではあるが,何よりも重要なのは人の役に立つことである.
2. ノンデザイナーのためのデザイン思考
- 日本で企業の方々と話していてデザインという言葉を使うと,多くの方が「色や形」の話と理解することが多い.
- デザイン思考の主な特徴3つ.
①ユーザーを観察し,そこから気づきを得ること
②手と体を動かして試してみること
③多彩なメンバーがコラボレーションすること - VR・ARなどのテクノロジーによって,ユーザーインタラクションが大きく変わっていく.そしてそこには形が伴わないことも多くなっていくはず.つまり,デザインという言葉そのものが,色や形を超えた本来の体験へと大きく変わり始めている.
- デザイン思考→顧客体験思考
- デザインとは,ユーザーが心地良い気持ちになれる顧客体験の設計であり,思考は顧客志向であり,またプロトタイプの試行でもある.
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