論文の教室
第1章 論文の宿題が出ちゃった
- アカデミックな世界には,「人がそれなりの努力を傾注して調べたり考えたりして到達した真理・知識は,基本的には人類全てのものとして共有されるべきである.しかし,その代わりに,それを生み出した人にはそれ相当の尊敬が払われなければならない.」という基本的なルールがある.
- 剽窃をしないためにも,対象をよく調べ,完全に理解した上で,自分なりの言葉で言い直して,原形をとどめないような論文にする.そのうえで,自分の書いたものについてはどんな質問を受けてもきちんと答えられるようにしておく.
第2章 論文には「問いと主張と論証」が必要だ
- 論文とは,明確な問いを立て,それを解決することを目指す文章である.
- 論文には,自分の答えを読み手に納得させるための論証が必要である.
- 論文の3つの柱.
(1) 与えられた問い,あるいは自分で立てた問いに対して,
(2) 一つの明確な答えを主張し,
(3) その主張を論理的に裏付けるための事実的・理論的な根拠を提示して主張を論証する. - 結論の正しさはあまり重要ではない.そもそも正解が一つに決まっているような問題は,課題として良くない.
- 論文は,第三者によってチェック可能である必要がある.
- 自分がどのような素材を使ったのかを明示し,それがどこで手に入るのか,そのどこを使ったのかをきちんと示しておかなくてはならない.
第3章 論文にはダンドリも必要だ
- 課題の主旨をよく理解する.
- 論文の課題は,以下の4種類に分類できる.
・報告型の課題(レポート)
(1) 読んで,報告するタイプ
(2) 調べて報告するタイプ
・論証型の課題
(3) 問題が与えられたうえで論じるタイプ
(4) 問題を自分で立てて論じるタイプ - 資料を読む際の要チェック箇所
(1) 新たな発見があった箇所
(2) 同意できる箇所
(3) 納得いかない箇所
(4) 同意できない箇所 - 問題を小さく絞り込む.問題を「えっ.こんなに小さな問題でいいの?」と思うくらいに絞り込む.
- 卒論の出来は,問題を絞ることができたかで99%決まる.
第4章 論文とは「型にはまった」文章である
- 真の創造性は,模倣よりはじまる.
- アブストラクトに書くべきこと.
(1) 論文の目的
(2) 論文の結論
(3) 論文の本体でどのように論が展開されるか.
※ 何かを調査した場合は,調査方法と調査対象. - 要約とは,文章を一様に短くすることではなく,文章を「問い+答え+論拠」の形に再構成すること.
- 論文の本体では,以下の3つのことを書く.
(1) 問題提起と問題の分析・定式化
(2) 主張・問題に対する答え・結論
(3) 論証
問題提起と問題の分析・定式化
- 問題の提示.つまり,どういう問題に取り組むのか.
- 問題の説明.その問題がどういうものであるのか.用語や概念を解説する.
- 問題の背景.どうしてその問題が生じてきたか,その現状分析.
- 問題の重要性.その問いに取り組むことに,どんな意義があるのか.
- 問題の分析.つまり,問題が大きなときはいくつかの問いに分ける.
論証
- 問いに対する自分の答えを論拠を挙げて論証する.
- 調査方法,調査の結果として得られたデータ,データの分析方法,分析結果の解釈などを説明する.
- 他人の研究結果や論文を批判することで自分の見解の正しさを主張したいなら,引用,その人の見解の要約,批判,論拠などを示す.
- 自分の見解と他人の見解との比較をする.
- これまでの研究の流れの中に,自分の主張を位置づける.
まとめをしないと論文は終わらない
- もう一度,わかったことを一言でまとめる.
- やり残したこと,この論文で扱えなかったこと論点を指摘する.
- 自己評価.自分の論文が正当であるか,他の立ち場に比べてどの程度優れているのか,どんなユニークさがあるのか,どんな応用を期待できるのか,などについて書いておく.
第5章 論文の種としてのアウトライン
- 論文は,書き下ろすものではない.育てていくものである.
- 論文とは,アウトラインをまず作り,それにだんだん書き足していって作り上げるものなのである.
- 読みづらいということは,難しい言葉で書かれているということではない.構造を見通すことができない,ということなのだ.
- アウトラインは,論文の設計図.
- 自分がアウトラインを膨らませて論文にしていくうえで,これは忘れないようにしよう.これは後回し,これはもうできている,これは調べが足りない,ここは調査が間に合わなければカットする...というようなメモ書きも入れておく.
- アウトラインをアップデートしながら,論文ができてくる.
- カテゴリー・ミステイクを避けるためには,一つの階層が同じカテゴリーの項目だけを含むようにする.(本当に同じ階層・並列か?階層構造を正しく.)
第6章 論証のテクニック
- ただ単に「Aなんじゃあ」と言い張るよりは,「A」という主張の説得力を,ちょっとばかり論理的にアップしたい.そのためになされる言語行為が論証である.
- 論証は,主張と根拠(+裏付け)の3つの要素からなる.
- 論証が良いものであるためには,そこで使われている根拠自体が十分な裏付けを持っていなければならない.
- 自分の論証をより説得力のあるものにできるかどうかは,自分で自分にどれだけツッコミを入れることができるかにかかっている.
- 自分の議論が批判されるとしたら,それはどこなのかを見極めて,あからじめ批判に答えるように努力する.
第7章 「パラグラフ・ライティング」という考え方
- 「段落」と「パラグラフ」はまったく別物.
- パラグラフは,論文の論理展開の単位と言える.
- トピック・センテンスは,パラグラフの先頭に置くのがパラグラフ・ライティングの基本.
- 一つのパラグラフは,トピック・センテンスとサブ・センテンスから構成される.
- 各サブ・センテンスについて,トピック・センテンスとどういう関係(言い換え/具体例/詳細説明)があるのかを説明できるように.
- パラグラフ同士のつなぎ方のレパートリーをたくさん持っていると,文章を書くときのつらさがずいぶんと減る.
- 他の人に一文ずつ声に出して読んでもらって,わかりにくいところにツッコミを入れてもらう.
- 簡単なアウトラインをまず作る.(項目アウトライン)
→ 箇条書きで,キーワードを並べただけのものでも良い. - 項目アウトラインには問いと主張があるはず.もっと主張に説得力をもたせるには,さらに何を調べて盛り込んだらいいか,どんな論証や例を挙げたらいいかを考え,アウトラインを膨らませていく.
- アウトラインの各項目を,短い文の形で表してみる.(文アウトライン)
- その短い文をトピック・センテンスとして,そのトピック・センテンスを補強したり説明したりする材料を付け加えていって,パラグラフの形にしてみる.(パラグラフ・アウトライン)
- さらに主張に説得力をもたせるために,この論証も入れようとか,この具体例も使おうと欲が出てくる.それらを盛り込んでパラグラフを充実させていく.
第8章 わかりやすい文章を書くために
- まずは,主語と述語のそろった文だけを書くようにする.主語は省いても理解に支障をきたさないときだけ,省略する.
- 一つ文を書くたびに,文頭と文尾が対応しているかを確認する.PCで書いているときは,「なぜなら」と書いたらすぐに「だからである」と書いてしまう.
- 一つの文に詰め込みすぎない.複数の文に分けて書くことはできないかと考える.
- 連用形(であり・し・され)でつなぎは,2回以下にする.
- 読みやすい文を書くためには,短い文に区切る.
→ 文が長くなると,それだけ文法的に間違う確率が高くなる! - 「という事・する時・出来る・従って・等・様に」などは,漢字で書かないようにする.
- 同じ文末をもった文が連続すると,読み手は大変イライラする.
第9章 最後の仕上げ
- 引用方法,注や参考文献の挙げ方,その他の論文の体裁を真似する.
- 研究というものは,他人がすでに明らかにしてくれたことがらの莫大な蓄積の上に,ちょこっと,自分がはじめて明らかにしたことを付け加えることによって進んでいく.
- 最後に,人名や大事なキーワードのミスがないか,必ずチェックする.
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