社会シミュレーション ─世界を「見える化」する─

 

社会シミュレーション ―世界を「見える化」する― (横幹〈知の統合〉シリーズ)

社会シミュレーション ―世界を「見える化」する― (横幹〈知の統合〉シリーズ)

 

 

 

第6章 シミュレーション技術を応用した3次元文化財の透視可視化

1. 3次元文化財のデジタル保存

  • 「可視化」とは,コンピュータ・シミュレーションによって分かりやすく見せること.
  • シミュレーションのやり方を工夫することで,現実の世界とは違った,コンピュータならではの見せ方を追求する.
  • 対象物を仮想的に半透明化して見せることで,複雑な内部立体構造を容易に把握できるようになる.
  • 3次元計測には,大きく分けてレーザ光線を使った「レーザ計測」とデジタル・カメラを用いた「写真計測」の2種類がある.計測対象によっては,ミリ単位の精度.
  • 大規模ポイント・クラウドの特徴は,そのデータの巨大さだけでなく,データが記述する3次元形状の複雑さにもある.

 

2. 半透明物体のシミュレーションを半透明可視化

  • 現在の透視可視化の手法は,必ずしも現実世界を模したものではない「デプス・ソート」という計算処理に大きく依存している.
  • 3次元的な物体の内部構造の透視可視化は,高速かつ精密に行おうとすると,現在のコンピュータ・グラフィックスの技術をもってしても難しい.(デプス・ソートに起因する)
  • 従来の透視可視化では,描画を行う前にデプス・ソートという前処理を行う.描かれるべき各物体を,その位置によって,視線に沿って遠くから近くに並べて順番をつける.
  • コンピュータによる可視化では,ポリゴン単位や点単位で描画が行われるため,実際はポリゴンや点がデプス・ソートの対象となる.
  • デプス・ソートは実際には起こり得ないことである.半透明物体の構成部品の並び替えを自然が行うはずがない.視点が同時に複数存在する場合,各視点に対してデプス・ソートしなければならない.
  • デプス・ソートは,大規模点群に対しては不向きである.大規模さと形状の複雑さがそれぞれ問題を引き起こす.
  • 大規模さが引き起こす問題は,計算時間である.
  • 複雑さが引き起こす問題は,複数のものが重なっている場合,ソートの結果が1つに定まらないことである.
  • つまり,デプス・ソートはモデル化とシミュレーションのうち,モデル化の部分が不完全なのである.
  • 半透明物体を構成する任意の粒子から発せられた光は,ある確率でのみ目に到達する.この確率を適切に設定して光が目に到達する量の期待値を計算すれば,見える場合と見えない場合の両者が平均され,「半分見える」状態の絵,つまり半透明可視化を行うことができる.これが提案手法である,「確率的ポイント・レンダリング」の考え方である.
  • 確率的ポイント・レンダリングは,デプス・ソートの処理を全く含んでいない.デプス・ソートを確率的な処理に置き換えているといえる.

 

3. 透視可視化の事例紹介

  • 3次元計測データだけを用いて簡単に精密な透視可視化を行えるようになれば,内部構造を再現する3次元コンピュータ・グラフィックスの作成の手間が省ける.
  • 文化財のできあがるプロセス,使われ方,歴史・社会・宗教との関係などのさまざまな付加情報も含めて保存してこそ,真の意味で文化財を後世に伝えることができる.このような,モノの物理的な実在に関する記述に直接関係しない情報をコトという.モノとコトの両方を合わせて保存することが大切である.
  • 見えないモノを「見える化」する可視化は,今後ますます重要になってくる.

 

4. 3次元計測に基づく仮想都市空間の構築と社会シミュレーション

  • 文化遺産だけでなく,都市空間,車の自動運転のシミュレーション都市防災シミュレーションなどにも応用できる.
  • 3次元計測によって精密に再現される仮想都市空間の応用の可能性は極めて広い.