直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

  • 作者:佐宗 邦威
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

はじめに 「単なる妄想」と「価値あるアイデア」のあいだ

── Between Vision and Strategy

  • ふつうに生きていると,僕たちの脳はずっと「他人モード」になっており,「自分がどう感じるか」よりも,「どうすれば他人が満足するか」ばかりを考えている
  • そういう人からは何か新しいことを発想したり,粘り強く考えたりする力が失われる
  • 何かにワクワクしたり感動したり幸せを感じたりする力も,だんだん鈍っていく
  • 人も組織も「これがやりたい!」があると強い

圧倒的な結果を出し続けている会社やチームの陰には,「これがやりたい!」という強い想いを持った人たちがいる.

彼らを動かしているのは,「論理的に導き出された戦略」や「データ分析に基づいたマーケティング」などではない.

むしろ,その原動力になっているのは,根拠があるとは言えない「直感」,得体のしれない「妄想」

...要するに,いわゆる「ビジョン」のもとになっているものなのだ.

  • 「戦略」=「理想とする状態を定義し,現状とのギャップを埋めるための道筋を見つけること」
  • 「デザイン」=「いまだ存在しない概念(道)を具体化していく手法」

「『妄想』を駆動力にできる人・組織は,やはり強い──」

  • あえて論理・戦略からはじめない

ビジョナリーな人たちは,途方もないビジョンを駆動力にしながらも,同時に「直感」を「論理」につなぎ,「妄想」を「戦略」に落とし込むことを忘れていないのである.

本書では,このような思考のモードを「ビジョン思考」と呼んでいる.



序章 「直感と論理」をめぐる世界の地図

── Wander of Wonder

  • 内発的な「直感」や「妄想」からスタートし,それを駆動力にしながら,具体的なアイデアを磨き上げるには,何をすればいいのか?
  • いまや確実にわかっているのは,「確実にわかる未来などほとんど存在しない」ということぐらい
  • 今の時代は,正解が「見つからなくなった」だけではなく,「存在しなくなった」ということを意味している
  • 「いかに答えを探すか」ではなく,「そもそも答えなどない」という前提で動くことが,大半の人・組織に求められるようになった
  • むしろ,勤勉であることは足かせにすらなりかねない
  • データ・ドリブンのマーケティングは,新しいチャレンジが生まれなくなり,既存ビジネスをどう伸ばすかだけに発想が固定されてしまう
  • また,スピードに欠けるところがあるため,あまりデータを重視していない競合他社に,市場の新たな兆しをことごとく先に捉えられてしまうこともある
  • 既存のルールのままでは勝てないとき,まだ市場には存在しない新たなルールを設定することで,ゲームそのものを変えてしまい,これまでとは「別の勝ち方」をする──そんなマーケターこそが貴重
  • もともとソニーは,オリジナルなものを発想するということにかけては,世界でもトップクラスだった企業
  • デザイン思考をはじめるうえでは,本人に芸術・デザインに関わる「センス」はさしあたって必要ない

tom0930.hatenablog.com

  • デザイン思考のシンプルな本質
    1. 手を動かして考える──プロトタイピング
    2. 五感を活用して統合する──両脳思考
    3. 生活者の課題をみんなで解決する──人間中心共創

なんらかのアウトプットには「頭で考えた計画」が必要だというのは,一種の思い込みではないだろうか?

新しい家を建てるなら,設計図がなければならない.それはそのとおりだ.

しかし,新しい家を「発想する」だけなら,設計図づくりは後回しでいいはずだ.

  • デザイン思考のモットーの1つに「Build to Think(考えるためにつくる)」というものがある
  • まず手を動かしてみて,そのなかで発想を刺激し,新しいものをつくりあげていく
  • 直感と論理とのあいだを自在に行き来する「往復運動」こそが,デザイン思考の本質
  • プロトタイピングからスタートするデザイン思考では,三者にも「思考内容」が可視化されるというメリットがある
  • 他人から乱雑なメモや整理されていない箇条書きを見せられても,僕たちはその人が何を考えているのか,なかなかわからない.しかし,プロトタイプが目の前にあれば,少なくともそこには対話の「場」が生まれる
  • 人の役に立つのがうれしいと思って続けていると,いつのまにか「自分がなくなっている」ことに気づく
  • ”いまここ”にいる「自分」へと注意を引き戻すことに,人々が価値を感じるようになっている
  • 現代のような不確実性が高い市場環境にあっては,「そもそも何をしたい会社なのか」といった全体感が不可欠になっている

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4つの思考サイクルの違い

デザインというアプローチが創造性を発揮しうるのは,クライアントの存在があるからだ.

「他者から課される制約」をエンジンにしているがゆえに,いつのまにか「自分のため」という視点が抜け落ちることがある.



第1章 最も人間らしく考える

── Think Humanly

  • 第1のアトリエ:妄想の部屋
    • 手を動かしながら,「妄想」をかたちにしてみて,まずはそれと向き合うこと
  • 第2のアトリエ:知覚の部屋
    • インスピレーションを得て,ぼんやりとしていた妄想の輪郭をはっきりさせ,構想を1枚の絵や設計図にまとめ上げていく
  • 第3のアトリエ:組替の部屋
    • 主観的にアウトプットしただけの構想を,他人の目線で外から眺め直し,自分らしい世界観に基づいた独自のコンセプトへと磨き上げていく
  • 第4のアトリエ:表現の部屋
    • 自分の大事なビジョンを表現したプロトタイプに対して,小規模グループで批評し合い,そこで得た感想やフィードバックによってモチベーションを高めたり,妄想の種をつくったりする
  • 「自分モードの思考」を取り戻すうえでは,次の4つのミッシングリンクを埋めることが必要
    1. 内発的動機が足りない
      • ──妄想(Drive)
    2. インプットの幅が狭い
      • ──知覚(Input)
    3. 独自性が足りない
      • ──組替(Jump)
    4. アウトプットが足りない
      • ──表現(Output)
  • 僕たちの日々の仕事や生活は,「やらなければならないから,やっていること」で占められている.逆に,「やりたくて,やっていること」は,果たしてどれくらいあるだろうか?
  • 僕たちの仕事時間は「やるべきこと」で溢れていくからこそ,「何もしない状態=余白」をつくる方法には価値がある
  • 目で見ながら,耳で聞き,口や手を動かす──そうすることで脳の同時発火を促していく考え方が求められていく


第2章 すべては「妄想」からはじまる

── Drive Your Vision

  • 「本当に価値あるものは,妄想からしか生まれない」
  • イシュー・ドリブンで立てた目標があるせいで,「もう一歩,先に進もう」とするモチベーションが消えてしまう.なにか特定の問題解決を動機としている限り,ひとたびその問題が解消すれば,そこから先に発想が膨らむことはない
  • ビジョン・ドリブンに設定された目標は,短期的にはまず達成されないから,そうしたことは起こり得ない
  • 「10%のカイゼンよりも,10倍にすることを考えろ」

「(妄想を解放して大きな目標を描く)本当の目標は,定めた目標に行き着く過程で,様々な技術が生まれ,その技術が世の中に還元され,そして世の中が変わることなのです.

これが,ビジョン思考のアプローチにある,もう1つの大きな効果です.」

  • 「イシュー・ドリブン」から「ビジョン・ドリブン」へのパラダイムシフトが進んでいる背景には,問題解決型のアプローチが限界を迎えているということがある
  • ユーザを意識した商品開発をおこなっても,市場のニーズはすぐに移り変わってしまう.タイミングが合わなければ,その商品が売れるとも限らない
  • ビジョン・ドリブンの起点となる「妄想(ビジョン)」が,勝手に姿を現すことはなかなかない


第3章 世界を複雑なまま「知覚」せよ

── Input A It Is

  • 情報洪水の現代においては,シンプルであること,わかりやすいことは,どこまでも「善」だとされる
  • 「シンプルさ」「わかりやすさ」を突き詰めるほど,僕たちの視野は狭まるようになっている
  • どんなに知能が高い人でも,フィルタにかかる情報を「世界のすべて」だと考えてしまい,視野に入ってこないものは「存在しない」と勘違いしてしまう
  • 自分の奥底から取り出したビジョンを,単なる「妄想」にとどめず,現実を動かすアイデアへと洗練していくうえでは,知覚による統合・解釈のプロセスが不可欠
  • 知覚力は大きく3つのプロセスから成り立っている
    1. 感知──ありのままに観る
    2. 解釈──インプットを自分なりのフレームワークにまとめる
    3. 意味づけ──まとめあげた考えに意味を与える
  • 絵が苦手な人の半数以上は,「ありのままに観ること」でつまずいているに過ぎない(観察力が低い)
  • 作品をじっと見ることは,技術を学ぶ,多くの視点を学ぶ,自分の考えを深めるなど,複合的な効果がある
  • 視覚的な情報は,思考を「発散」させるうえでは非常に有効だが,議論を「収束」させていくときには,言語情報へと圧縮する手続きが必要になる


第4章 凡庸さを克服する「組替」の技法

── Jump Over Yourself

  • イデアは「出してからどう磨き上げるかが勝負.そして,それには方法論が存在する」
  • 大切なのは,ファーストステップでいきなり質の高いアイデアを出すセンスよりも,一定のプロセスを経てアイデアを丁寧に磨いていく技術なのである
  • 三者からのフィードバックは,あなたの妄想に新鮮な刺激を与えてくれる
  • 組替=分解+再構築

何か新しいことを生み出そうというとき,僕たちはつい新たなアイデアづくり=「再構築」のことばかりを考えがちだ.

しかし,より価値の高いイノベーションを集団で生み出すには,既存のアイデアに隠れている「あたりまえ」をしっかりと洗い出して,パーツ分けするほうがいい.

  • 違和感に敏感になる

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  • 「フォーマットをまず決めてしまう」ことは,再構築におけるいちばんのコツである.俳句の五・七・五やTwitterの140文字というのは,一見すると「制限」のように思えて,じつはアイデアをまとめるうえでの「補助」になっている


第5章 「表現」しなきゃ思考じゃない!

── Output First

  • 試作品(プロトタイプ)によってアイデアをブラッシュアップしながら,同時に実現化に向けて歩き出す手法をプロトタイピングと呼ぶ
  • 重要なのは,与えられた時間の中で,どれだけ「具体化→フィードバック→具体化」を繰り返せるかである.このような反復は,「イタレーション」と呼ばれている
  • プロトタイピングの第1のメリットは,「早めに失敗できること」である
  • 「速さ」こそが「質」を高める
  • 幼児園児たちは,思い思いに手を動かし,試行錯誤を繰り返すなかで,「どういう構造にするとよいか」を発見していく
  • これに対し,MBA学生たちは,戦略の構想からはじめ,様々な可能性を考えたうえで,ラスト1〜2分になったところでようやく手を動かしはじめる
  • 「頭」よりも「手」を動かすことに時間をかけたほうが,表現の質は高まりやすい
  • ビジョン思考の世界では,「最終成果物」というものはあり得ない.存在するのはつねに「更新」を控えた試作品,いわゆる「永遠のβ版」である
  • 完璧主義に陥ることなく,「早めの小さな失敗」を受け入れていくことは,プロトタイピングにおける基本中の基本である
  • プロトタイピングの成否は,相手からどれだけ「次の改善につながる意見」をもらえるかで決まると言ってもいい

「いいアイデアを思いついたら,まずはほめてくれる人,新しいもの好きな人,ノリのいい人に話せ」

これはソニー時代に先輩からもらったアドバイスだ.同社内で面白いことを考えている人は,これを無意識に実行していたように思う.

妄想にせよ,ビジョンにせよ,アイデアにせよ,生まれたてのフワフワなときは,それに対する「自信」を育てなければ,そのあとのステップにつながっていかない.

だからこそ,「最初に見せる人」は慎重に選ぶべきだといいうわけである.

  • 自分の「妄想」ないし「ビジョン」を他者に伝えるとき,最も避けるべきなのは,「言葉」や「文章」に頼ることである
  • 相手は何も興味を持っていないと思っておいたほうがいい.だからこそ,一瞬で伝わる「絵」を用意する
  • ジョブズはビジョン創出の天才であったと同時に,そのビジョンの渦に人を巻き込んでいくことにおいても,類まれな才能を持っていた

表現においては,「他人の影響を与えること」を最終目標にするべきだ.

いくら魅力的な「妄想」を表現したところで,聞き手が「ほう,それは面白いね!」で終わったら,まだまだ改善の余地はあるということだ.

プロトタイピングを見せられた側が,思わず身を乗り出して,「私にも手伝わせてくれませんか?」と言い出すレベルを目指したほうがいい.



終章 「妄想」が世界を変える?

── Truth, Beauty, and Goodness

  • このあやふやな世界では,トライ&エラーのサイクルを短くしつつ,そのイタレーション(反復)を長期にわたって継続するという戦略が最も頼りになる
  • 「妄想」を駆動力にしないと,長期的な取り組みはできない
  • まず既存のやり方に合わせる段階があり(守),次にそこから意識的に距離をとって自己流をつくり(破),最後にその両者からハイブリッドの道を構築する(離)


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