独創はひらめかない
創造へのいざない
- 研究生活を通して一番感じたことは,成功する考えの多くはきわめて単純明快なものだということである.
- 難しい話や重要な発明も,その発想を聞いてみると,「なーんだ,そのくらいなら自分でも考えたのに」と思うことがよくある.
- 「同期」の基本的な仕組みは,セマフォ.
- 発想は,単純,素直,自由,簡単でなければならない.
第1章 素人のように考え,玄人として実行する
─ 発想,知的体力,シナリオ ─
3. 成功を疑う
- 「考えるときは素人として素直に,実行するときには玄人として緻密に」行動する.
- 物事を推し進めていくためには,この両方を併せもち,使い分けなければダメ.
- そのためには,玄人として,せっかく積み上げてきたものでも捨てなければならないことがある.
- 「成功から学ぶ」とか「失敗から学ぶ」ことは誰もが考えるが,実は「成功を疑う」のが一番難しい.
4. 創造は省略から始まる
- 研究をするときには,難しく,複雑な現実をそのままに扱ったり考え始めるとうまくできない.
- 世の中に起こっていることを簡単,省略,抽象化して見る(モデル化)─これが科学や工学の基本だ.
- 思い切って簡単化できるかどうかが,よくできる人とできない人の差である.
8. キス・アプローチ ─単純に,簡単に
- 困難点をエクスプリシット(陽に明示)することが大切.
- 困難に直面しているのは,自分のアプローチが問題の本質から外れていて,そこから派生した難しさに突き当たり,どんどんのめり込んでしまった結果であるというケースもある.
- 固定観念にしばられずに,単純に,簡単にと考え,前に踏み込んでいくことで可能性が広がる.
10. できるやつほど迷うものだ
- 研究,開発というものは,具体的な目標をもったものでなければいけない.
- 具体的目標があると,行き詰まっても,どこへ行きたいかという先の目標が,見通しや指針を与えてくれる.
12. アイデアは人に話して発展する
- アイデアを人に話すことで,自分のアイデアを磨く,不備に気づく,触発されて新しいことに気づく.
- アイデアを練る方法は,考えついたアイデアを人に語りかけ,そのやりとりでまともなアイデアかどうかをチェックし,関連した知識を得,不備な面を修正するのである.
- アイデアを昇華させるキーは,「人に話すこと」と言えよう.
15. 独創,創造に関する3つの反常識的説
- アイデアは,ひらめくというより,長い間考えた末の結果であることのほうが遥かに多いのではないか.
- アイデアというのは,それまで全く考えていなかったことが,瞬間にぱっとひらめくというものではない.
- 頭脳を絞って考えたり,実験したり,いろいろやり続けてはじめて,「あっ,こうに違いない」とぱっと出てくるのである.
- アイデアは,思考の持続がないところには生まれない.
- ベンチャー企業成功の条件は,逆説的に言えば皆が考えるようなことをやることである.
- 皆が考えているのだが,誰もできなかった,思い切ってしなかったというのが成功する.
- 真似をしてもいいではないか.最初は同じものだが,それに何を付加するか,それを昇華させるレベルがどれほど高いかどうかが勝負の岐路である.
- 「ほとんどの創造は,真似に付加価値をつけたものである」
第2章 コンピュータが人にチャレンジしている
─ 問題解決能力,教育 ─
20. 思考力,判断力は問題解決に挑戦することで伸びる
- 科学では,まず仮説を立てることから研究が始まる.
- 仮説は,ある現象を論理的に証明するために立てられた仮の理論である.
- したがって,その仮説の真偽は,いろいろな方面から見て正しいと実験で確かめられなければいけない.実験によって少しずつ真実性が高まっていく.
- どんなすばらしいアイデアでも,人を,そして自分を納得させるには実験による裏付けが必要なのである.
第3章 自分の考えを表現し,説得する
─ 国際化時代の講演・会話・書き方の技術 ─
27. 説得する ─黙っていてはわからない
- 自分のアイデア,結果を人に伝え,説得するというのも,研究活動の一環である.
- 自分がいいアイデアや結果を持っていることを,発表や論文で人に伝えて納得させる必要がある.
- 結局,よいアイデアと結果がすべての元であり,それなしでよい論文を書くことは不可能である.
- 読者や聴衆に「親切であろう」とする気持ちが大切.
→ 話の論理を飛ばさない.一貫した記述を心がける.格好つけて無駄に話を難しくしない.退屈させない.ここで読者や聴衆はどう考えているだろうかと想像する.
28. 前置きなしに話す
- 日本人の講演は,前置きが長過ぎる.
- 一般にプレゼンは,研究の背景,現状,理論,結果,展望と順を追って話すのが良いとされている.
- しかし,研究の必要性,従来技術の長短比較などの話は,知っている人はもう知っているし,知らない人にはわからない代物である.
→ ほとんどの聴衆には面白くない. - 聴衆の関心が一番高いのは,話の初めである.
→ 聴衆のいちばん関心がある「結論」のところから話を始める.
- 結果
- キモ
- 提案手法・理論
- 強み
- 研究目的・理由
31. 相手の目を見て話す
- 外国では,目をそらすのは自身のなさ,確信のなさと見られる.
- 十分に調べ.「できる」と思って問題に正面から挑む.
- 知識に裏打ちされたその気迫が問題を動かし,突破口になるのである.
36. 論文や人を説得する書物は推理小説と同じである
- 論文を書く時に最も大事なことは,「一つの論文には全体として言いたいことが一つだけ」というように書くこと.
- 「なるほど,そういうふうに考えるのか」と,読む人をうならせる論文はすばらしい.
- 論文にも,ハラハラ,ドキドキが大切である.
→ 研究課題があって,著者が解いていくというプロセスを提供する. - 一つの論文には,一つのことを書く.
- タイトルを見ただけで,その論文の言いたいことが具体的に100%,過不足なく出ているのは,たいした論文.
- 一つの段落も一つの論点の記述に限る.
- 「今までの方法には,こういう問題点がある」と最初に書いたら,その段落には,問題点しか書かず,それを直す方法とかは書かないようにする.
→ くっつけない,分ける. - 「この論文で,言いたいことはこれです」と一つしか言えないようにする.
37. 「起承転結」のコンビネーション
- 「起」では,読者の好奇心を引き出す.
- 「この論文を読めば何かいいことがありそうだ」と思わせることが重要である.
- それは結局,「有益」であるということである.
- その研究が,知的にであれ,経済的にであれ,社会的にであれ,何かに役立つことをなんらかの方法で読者に伝えることがポイントである.
- 「承」では,研究課題をどう設定するか.どの部分に問題を限るか,どういう仮定を置いて問題を解こうとしているか.
- 「転」では,研究課題という事件の解である「こういうことができた」という結果を導いた鍵をうまく読者にわからせるということが,最も大切である.
- 最初から最後まで,「どうなるのかな,どうなるのかな...」と期待させる論文は名作.
38. 「結」を演出する
- 一番重要な研究結果を一発で出せ!
- 「こうですよ.こんないい結果,あなたできますか?」という感じで,パーンと出す.チョロチョロ出してはいけない.一発で出すからこそ,読者にインパクトを与えることができる.
- 主語で始まる文には力があり,副詞などで始まる文は弱々しい.
→ 本当に強調したいときだけ,つなぎの副詞を使う.
40. 発表と英語に関する3つのアドバイス
- 発表の練習とは,しゃべることをそのまま完璧に覚えることではない.
- 完璧な準備とは,自分が言うべき項目の論理的な関係を完全に頭にいれることである.
- 英語はスラスラ言う必要はない.構造を十分準備した後は,話自体は行き当たりばったりの方が緊張感が伝わる.
- 本人が良いと思っても,めったなことでは聴衆は良いとは思ってくれない.
- プレゼン資料では,「それだけでは」内容がわからないように作る.
→ 複雑に作れといっているわけではない.簡単化する.
→ スライドは,補助資料. - ある程度以上複雑な式は,式そのものを伝えたいのか,それともそれを導いたという事実を伝えたいのかのどちらなのかを十分検討すべき.
→ ほとんどの場合は,後者. - 要するに,わからせるスライドと,わからせないスライドがある.