数式を読みとくコツ
第1章 等号にはいろいろな意味がある
- 「等号」は数式の中で,多様な意味で使われている.
- 数式の意味は,機械的に一意に決まるものではなく,その数式を書いた著者の意図を理解してはじめて決まるものである.
1.1 等号の基本的な意味
- 等号は,左辺と右辺を最後につなぐ,1段レベルの高い記号である.
1.2 左辺と右辺を入れ換えてもよいか
- 思考の筋道に沿ってうまく表現された数式は読みやすい.そうでなく不用意に書かれた数式は,読者を混乱に招く.
- 「A=B」と「B=A」は,いつも同じとは限らない.話の流れによっては,一方は適切であるが,他方は適切ではないことがある.
1.3 恒等式と方程式
- 変数にどのような値を入れても成り立つ式を恒等式という.
→ 等号は,左辺と右辺が常に等しいことを表すために使うことができる. - xに特別な値を入れたときのみ成り立つ式を方程式という.
→ 等号は,左辺と右辺が等しくなる場合のみに興味をもつことを表すために使うことができる. - 方程式は,それを満たす解の全体という集合を表すために使うことができる.特に,2個の変数を含む一つの方程式は,それらの変数をx座標とy座標とみなすことによって,平面上の点の集合が構成する図形を表すと解釈できる.
1.4 定義と代入
- 等号は,左辺の記号(例えばf(x))を右辺で定義するために使うことができる.
- 等号は,左辺の記号に右辺の値を代入するために使うことができる.
1.6 位置ベクトルと等号
- 位置ベクトルに演算を施した結果を結ぶ等号は,ある特定の座標系だけでしか意味をもたない.別の座標系を採用すると全く意味のない式になってしまう.
1.10 オーダ記号を含む等式
- オーダの概念は,nをどんどん大きくしていったとき,f(n)がどれぐらいのスピードで大きくなっていくかを知りたい場面で使われる.
- 「左辺と右辺が正しい」という等号の原則から外れている.
- 数式も言語の一種である.誰かが言葉の使い方を誤り,その誤りがそのまま広まると,後の人が苦労する.
1.11 数式は思想の表現である
- 等号ですら,多様な意味と使い方があり,同じ等号が使ってあっても,場面によってその意味するところは異なる.
- 「左辺と右辺が等しい」という素朴な理解だけでは,数学の学習を進めようと思っても途中でわからなくなってしまうのは当たり前.
- 数学も哲学などと同じように思想であり,数式はその思想を表現するための言葉である.そしてその言葉を使うのは人間である.だから,いつも理想通りの使い方がされるとは限らない.稚拙な使い方もあれば,誤った使い方もある.
第2章 もしもこの世に数式がなかったら
- 数式の便利さとは,簡潔に表現でき,一目見ただけで主張したいことが分かるということ.
- 数式は,忌み嫌うべきものなどではなく,その便利さを享受すべき有用な道具である.
- 簡潔性と,一目見たときの議論の道筋の視覚的なわかりやすさ.
- 数式なしで数学を深く理解することはほとんど不可能である.逆に,数式の読み方がわかってくれば,数学の理解へは非常に接近できたことになる.
第3章 無限と一口に言っても
- 数学の中の「無限」は,漠然としたものではない.明確に定義された概念である.
- ただし,「等号」と同じように,無限にも色々な種類がある.だから,それぞれの場面で,どの意味の「無限」が使われているのかを意識しなければならない.
3.1 無限大記号
- ∞は人間が作ったもの.だから,どう作られているかを理解すればよい.
3.2 距離としての無限大
- アルゴリズムの記述において,「対象に関して何も情報がない」という状態を∞で表すと便利.(最初に∞で初期化する.)
3.5 極限操作としての無限大
- 極限の場合の記号∞は,変数をいくらでも大きくしていくという操作を表すためのもので,「x→∞」という形で使われる.
3.6 数直線上の無限遠方
4.1 極限の必要な場面
- 関数の極限は,着目している場所における値が,まわりでの値とは異なる振る舞いをする場合に威力を発揮する概念である.
4.2 連続関数の微分
- 陰関数のほうが,陽関数よりも表現力が高く,幾何的な意味が分かりやすい.
- 陽関数のメリットは,積分ができること.
- 微分の近似値として,差分を用いる.
- f(x+Δx)をテイラー展開して,f'(x)=の形で表したのが,前進差分近似.
- f(x-Δx)をテイラー展開して,f'(x)=の形で表したのが,後退差分近似.
- 前進差分のときにテイラー展開した式と,後退差分のときにテイラー展開した式の差をとり,f'(x)=の形で表したのが,中心差分近似.
4.5 積分
- 「微分」「積分」の概念も,変数をある値にどこまでも近づけるとか,分割を無限に細かくしていくとかいうように,「無限」の概念と密接に関係している.
- 微分・積分の概念は,「操作を無限回繰り返したときに得られる何か」についてわかるようになることが,最も重要.
第5章 行列の出生の秘密
5.2 線形変換行列
- 行列Aが逆行列を持つとき,Aを非特異であるといい,もたないとき,特異であるという.
- 線形変換によって,平面上の点xがもう1つの点x'へ移るとき,一般には,原点から見たxの方向とx'の方向は異なる.すなわちベクトルxとベクトルx'は平行ではない.しかし,変換によっては,xとx'が平行となる方向が存在することがある.そのような方向を不変方向という.(固有ベクトル)
5.4 連立方程式係数行列
- 連立方程式係数行列とその逆行列を用いることによって,連立1次方程式とその解を,未知数が1個の場合の線形方程式と同じ形式で扱うことができる.
- ここで,連立方程式係数行列Aに関して着目すべき性質は,逆行列を持つか否かである.
- Aが逆行列を持てば,任意のbに対して,連立方程式は一意の解をもつ.
- Aが逆行列を持たなければ,連立方程式は解をもたないか,あるいは多数の解をもつかのいずれかであり,そのどちらであるかはbに依存する.
5.5 行列の多様性
- 行列という記号も,同じ記号でありながら多様な機能をもつ.
- 見かけが同じ行列も,中身には多様性があり,そのうちのどれが今問題にすべきものかをいつも気にする心の姿勢が大切.
おわりに
- スラスラ読めないからと言って,自分は数学が苦手だなどと諦める必要はない.
- スラスラなど読めないのが当たり前なのである.
- わかるまで数式とにらめっこしながら,自分のペースで読み進めるしかない.
- 数学を完璧に理解することよりかは,数学を工学のための道具として身につけることのほうが重要であり急務.